【FGA:13】レフェリーボール


 こっちの幼い子はレアです。ほらレア、挨拶しなさい──そう言ってドレスの袖にしがみつく幼な子、13か14歳ぐらいだろうか──"レア"と呼ばれた少女が雷人アレンライトに小さい声で「こ、こんにちわ……」と挨拶をした後──ライトはその少女、"レイア・レンドール・レオリオラ"第一王女の「転移者かどうか」の質問に"さっ"と答えると「逆に一つ聞いていいですか?」と"レフェリーボール"と呼ばれる宙に浮かぶ摩訶不思議な球について訊ねた。

 レイアは「そうですよね。初見じゃ驚きますよね。無理もないです」と無難な反応を一つ挟むと「お姉様! 急に僕の話に割られて入ると困ります!」と憤るレオン王子を嗜めながらそのしょうたいについて語り始めた。


曰く。


 "レフェリーボール"と言うのは読んで字の如く"審判球"と言う事なのだが──その正体も正に"試合や1on1などの勝負時にに"ファウル"や"バイオレーション"、"得点"といった事を審判ジャッジしてくれる機械"らしい。

 仔細を表せば、審判球レフェリーボールは"バスケットボール大の大きさの球"の大きさサイズで使用する際は球の中心に手をかざし「起動ブート」と掛け声を行う事で起動する──すると球の中に内蔵されている関節球の付いた2本の"審判の腕ジャッジメント・アーム"と呼ばれる鉄製のアームが外に展開するのと同時に、審判球レフェリーボールの表層に小さな部品(どうやらホイッスルらしい)が突起、加えて審判ジャッジに合わせた電子文字が浮き出てくるとの事だったが────"予想通り"というか、"案の定"というか──雷人アレンはビックリする程レイア姫の話を聞いておらず(あろう事か本人に悪気はないのだがアクビをしながら鼻をほじるという暴挙に出たので、「お前お姉様がせっかく説明しているというのになんだその態度は!?」と露骨に怒りをあらわにしたレオン王子と軽く殴る蹴るの喧嘩したのは言うまでもない。あと王子が負けたのも)、"話の理解役"でライトでさえあまりにも"世界観に合わない"ぶっ飛んだ内容の機械マシーンに度肝と冷静さを奪われ──更に『コート上に多量のナノマシンが散布され360°どこからでも、どこの角度アングルからでも選手を映像化し厳密なジャッジを行う』だとか、『審判球レフェリーボールは実はこの世界で作られており主な産地は"デストロイ"と呼ばれる工業都市で生産されている』とか、『審判球レフェリーボールはこの世界の神が行なっているため不正や贔屓といった笛は吹かれない』などなど──重要そうな話までは脳に入ってこず、しばらくの間「早く勝負1on1しろ」との民衆モブの罵声に身を晒されながら──数分後にやっとの思いでと一生懸命説明してくれたレイア姫に軽く礼を言った。

 ライトは"そもそもの話、今さっき死んだと思ったら死んでなくて──変な空間に連れてこられたと思ったら女神と名乗る女性がいて『お前ら黄泉返いきかえりたかったら異世界へ行ってバスケして大会で優勝しろ』と一方的に言われて、異世界へ飛ばされたと思ったら亜蓮くんは魂にされていて──異世界中世ヨーロッパみたいな風景の場所に来たと思ったらそのばしょを治める貴族と代表選手の座をかけて勝負1on1するために魂と肉体を入れ替える『人魂交替スイッチ』と呼ばれる魔法を使う時点で────今更これらの事をとする方がナンセンスであると──そう半ば諦観の面持ちで亜蓮を眺めた。

 は、亜蓮のその気楽さというか、楽観ポジティブさというか──そういう精神を見習いたいものであるが、当の亜蓮ほんにんは"レフェリーボールがなんだの"、"理解がなんだの"と議論に花を咲かすより──目の前の勝負1on1に対する"わくわく"とバスケに対する"渇望"が混ざり、今まさに噴火寸前の火山のマグマのように身体の奥底から"ふつふつ"と湧いてくる感情をいつ噴火させてやろうと時期を伺っている様であった。



「──さて、レイアおねえさまの御高説を一聴したところで……準備ウォーミングアップは済んでいるな?」



 「当たり前だ!」と凄む雷人アレンに「では」と言ってあらかじめ用意されていたバスケットボールをレア(まるで我が子の様に大事に大事に持っていた)から受け取ると"ぽいっ"と雷人アレンに投げると澄ました顔で「先攻はどうぞ?」と言い軽く笑った。

 「危ないから私達は離れてましょう」とレオンたちから離れるレアとレイアを尻目に雷人アレンはレオンによって投げられたボールを"ぱしり"と気味の良い音共に受け取ると「じゃあ──行くぜ」と静かに言い、王子の正面に改めて立つとそのままドリブ────



「あ、亜蓮くん! ちょ、ちょっとその前に!」



──ルは付けずアレンの「待った」に軽くつま先を転ばせると向き直り「なんだよ……」とどこか不満げな顔でストップをかけた理由を聞いた。

 ライトはふわりと雷人アレンの方へ飛んでいくと"こそり"と耳打ちする。



「相手の……レオン王子は一見弱そうに見えるけど……あまりにもでの情報が無いから一応、注意しながら1on1して。亜蓮くんが負けるとは思わないけど……あとそれと、亜蓮くんは今──」


「だーはいはい! ライト! 今はわりーけどオマエの話は長くは聞けねぇ! 聞きたいのは山々だがな……もうずっとワケ分からんことに巻き込まれすぎて──今目の前にある大好きなことバスケを楽しみてぇんだ──から!」


「ちょ、亜蓮くん、だから今は──」



 雷人アレンはそれ以上ライトの話を聞かず──目の前で「まだか……?」と両腕を組みながら待つレオン王子に向き直るとそのまま────、が────



────テレサがジェラミーに息を切らせながら追いつく頃、ジェラミーは相変わらずヤジウマは集まるレオン王子の選手募集の演説を聴きに集まっていた民衆を「ちょっとどいてくれ」と大柄な体格を利用してかき分け、王子たちの目の前に陣取っていた"カミラ・レオ・ナイル"をこれまた大きな身長で見つけると"さっ"と横に着いた。

 遅れてテレサも大人たちの波に揉まれながら追いつくと「え……ぜぇはぁ……い、今どんな状況なの!?」と至極当然な疑問をカミラに投げ付ける。カミラは「相変わらずお前は鈍臭いねぇ」と息を切らすテレサ笑うと今の状況を説明し始めた。



「今は見ての通り──あの亜蓮しょうねんが変な魔法? みたいなの使って隣にふわふわ浮いていた魂を吸収したかと思ったら『ぽん』てまた魂が出てきてそのままレオンおうじ勝負1on1をしようした所だよ。……で、これもまた見ての通り、ドリブル突こうとしたら盛大にズッコけてみんな大笑いさ!」



 テレサは「はぁはぁ……え?」と息を整えながらゆっくりと頭を上げ笑いの渦の中心にいる──転んで打った尻を痛そうに押さえる雷人アレンと「何をやってるんだ……」とただひたすらに困惑している王子を見つけた。

 当惑している王子にテレサは軽くシンパシーを重ね「あはは……」と誰に向けたか分からない苦笑いを浮かべると隣で一緒にカミラの話を聞いていたジェラミーに「お父さん……あれが例の2人組だよ……」と告げた。



「強いな……



 ちょうどジェラミーたちがいるところの反対──王子たちを挟んで向かい側に陣取っていた4の1人、青髪の少年が"ボソリ"と呟く。

 そんな少年のぼやきを逃さず──4人組のうちの白髪の少女も同じように「う〜〜ん、確かに強そ〜〜」と便乗する。同じ様に雷人アレンがすっ転ぶとこを見て"ゲラゲラ"と大笑いしていた──4人組のうちの茶髪の少女も「強いな〜〜」と笑いすぎて溢れた涙を拭きながら言う。




「確かに強いな……あの



 4人組のうちの1人──紅色の美しい髪を持つ少年は──"ふわりふわり"と浮くにそう呟いた。


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