【FGA:11】スイッチ


──────忘れてたけど、転移出来るの1人だけだから。


 "どんとこい"と仁王立ちで"どん"と構えていた亜蓮と、不安だがどんな事があっても大丈夫だろうと──安堵のため息を漏らしていた雷人の前でそう──女神は"残酷な事実"を2人の前に突きつけた。

 しばし2人はそのが分からず呆然と立ち尽くすばかりであったが──真っ先にその言に食いついたのはやはり雷人であった。

 雷人は「一体……一体、どういう事、なんですか?」と未だ抜けぬ動揺と共に真顔を保つネイスに聞くと──女神は「別にぃ〜? そのまんまの意味だけど?」と言うとまるで業務報告の様な淡々とした口調でその事実に捕捉した。



「普通に1ってだけ。はい分かったら雷人オマエは退い──」


「ならライトを転移させろ」


 女神ネイスがそう言い終わる前に──亜蓮はそうハッキリと、なんのおとの揺らぎも見せず、ただ真っ直ぐに女神の目を見据えて言い放った。

 まさか──"藍葉 亜蓮"がなんら躊躇なく、を選んでくれた事に──雷人は自然と湧き上がる熱い想いが目頭から溢れないよう理性で蓋をすると亜蓮が言い放った言葉に同じようになぞらえ、「──僕じゃなく、亜蓮くんを……"藍葉 亜蓮"を転移させてあげてください」と今度は面食らってしまった女神へと懇願した。



「ライト。気持ちは嬉しいがオレはオマエを優先するぞ」



 相変わらず自分を曲げぬ亜蓮に「ど、どうして」と狼狽える雷人に彼は"にこり"と笑うと雷人の胸に"ぐっ"と拳を当て、さっきと同じようにただ真っ直ぐと雷人を見つめると──今度は母親が我が子に語りかけるような優しい声色でこう語った。



「あの事故とき──オマエはオレを何のもなく庇ってくれただろ? ま、結果的にオレら2人とも死んじまったが……でもオレはあの時、オマエに救われた……オレの"命"はオマエに救われたんだ──だから、今度はオレがオマエを救う番だ。ライト。オレのこの命……オマエに預ける。だからオマエも──」


「あーはいはい! ちょっと待てクソガキども。私の前で勝手にお涙頂戴の友情アオハルストーリー繰り広げてんじゃねぇよ」



 突如として女神ネイスの"待った"がかかる──ネイスは睨むような目つきで亜蓮を見ると「フツーは自分のほう選ぶんじゃねーの?」と聞くと「あーあー答えなくていい。どーせ何言うか分かってるし」と勝手に自己完結すると大きく大きく大きなため息を一つ、今起きてる状況がどれほど本人ネイスにとってものか、分かりやすいほど態度に表すと「仕方ねぇな」とボソリ、呟くと改めて2人の方へ向き直りこう提言した。



「じゃあこうしよーぜ。お前ら転移するだけ選べ。そうしたら2人とも転移させてやるよ──あぁ、もちろん肉体が無い方は"魂だけ"の姿になるけどな」



 「まぁ初めての事じゃあねぇから──でも無様なもんだぜ?魂だけってのは」と「くくく」と嘲笑するかの様に笑うと"ほらどうぞ? 存分に話し合えよ?"と言っている様な表情をネイスは見せると両手を挙げ肩をすくめた。



(に、肉体だけ転移……? 選ばれなかった方はになる? もうさっきから本当に──何が起きてるか全然分かんないよ……けど。何が起きても僕の答えは──変わらない)



 雷人はその思慮深い性格に反して即座に──先ほどとは打って変わって──否、亜蓮がそうした様に素早く判断を下すと「亜蓮くん……もちろん亜蓮くんの肉体ほうだよね?」と亜蓮に同意を求めた。

 すると彼は"にかっ"とどこまでも広がる暗闇に対抗するかの様に爽やかに笑うと「オレの"答えいうこと"は変わんねーよ」と言って雷人の頭をくしゃりと一つ撫でてきた。

 身長が182cm亜蓮が203cmライトの頭を撫でるのはいささか滑稽な姿の様に思えるが──雷人はそんな亜蓮の姿に唐突に遠い記憶からやってきた想い出かこに思わず追慕してしまう。


あぁ、亜蓮くんはこうやって僕の頭を──


 雷人は懐かしく湧き出る過去の想い出に心を馳せていたが──その時の想い出が雷人を優しく嗜めるように説得したのか──まるで何かの憑き物が取れたかの様に"すっ"と亜蓮を説得するのを諦めると──ゆっくりと女神に「一ついいかな?」と質問をした。



「その"聖杯トーナメント"っていう大会を優勝したら──ちゃんと2黄泉返いきかえられるんですよね?」



 女神は「ナメんな人間ヒューマン」とふんと鼻で笑うと「そこは違わねーよ。なんせ私は女神様だからな」と言うと"安心しな"とでも言いたげな表情でそっぽを向いた。

 そんなネイスを見て確信したのか──雷人はすっと胸に手を当て気持ちを今一度落ち着かせると亜蓮の方に向き直り──



「亜蓮くん。僕が……僕がなんとしてでも……この身果てても──"聖杯トーナメント"で優勝して亜蓮くんを黄泉返いきかえらせるよ」


「ばーか。そんな心配してねーよ。オマエが負ける事なんてねーからな! なんせ雷人オマエはオレの"終生のライバル"だもんな──!」



 2人は"ぎゅっ"とお互いの拳を握り合わすとまるで──


「はいはい私の前で汗くせぇアオハルごっこすんならさっさと飛ばすぞー」


 女神ネイスは未だ拳を握り合わず2人の間に腕を無理やり入れ引き離すと2人の拳が重なり合っていたところ──ちょうど彼らの間に、両手の手のひらの人差し指と親指を合わしΔ三角形を作ると"ぼそぼそ"と亜蓮と雷人ヒトには聞き取れない呪文を呟くように唱えた。

 すると突如、女神ネイスが手のひらを重ねた地面の暗闇に眩い白光が現れ、ライン状に走るとそのままカラフルな虹色の光へと変わり果てしなく続く闇に拡散した。

 突として繰り広げられたに2人は唖然として開いた口が塞がらないような、呆気に取られていたが──「ほら、お前らさっさと円に乗れ」と急かすテンションの変わらぬ女神の言葉にぎりぎり自我を取り戻すとネイスに言われるがままいつの間にか書かれたのか──散った虹色の光が再び2人の足元に円を描くように──何語かも判断できぬような文字らしきものと共に出来上がっていた大きな二つの大円に身体を乗せた。

 これが魔法か──はたまた神通力というものなのか──未だ20年しか生きてきていない青年2人に判断がつくはずもなく──円から吹いてくる不思議な強風に負けじと身体を強張らせるとネイスに"準備OK"の上に立たせた親指サムズアップを見せつけた。

 ネイスはそんな2人の合図と表情を見ると"にかり"と一つ笑うと「そんじゃまぁぶっ飛ばしますかぁ!」と気合を入れると再び判別不明な呪文を唱えると──数段と強くなった風と雑音ノイズに負けず劣らずの大声を出すと、亜蓮に横目を使ってこう言った。



「おい亜蓮クソガキ! お前ずっと魂のまんまじゃ辛いだろーよぉ! だから亜蓮おまえ雷人そいつ肉体を共有シェアできる魔法を──おまけに授けてやんよ感謝しなぁ!」



 「は!? オマエこんな時になんでそんな大事そうな事言う──」と強まる風と光に動揺する亜蓮の言を遮り女神ネイスは続ける。



「いいかぁ! よぉ〜く耳をかっぽじって聞けよ! 魂を入れ替える時は2人の声を揃えてこう言うんだぞ──



────「「人魂交替スイッチ!!」」


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