第28話 ライムのお願い

俺たちは目の前にいる傷だらけのオークをみて絶句する。そいつは、俺を殺しかけ、カサンドラと渡り合ったギフト持ちの黒いオークだった。彼は失った体力を取り戻そうとしているのか、眠っているようだった。



「シオンこいつって……」

「ああ、あいつだ……シュバインだ……」



 驚愕しながらも俺はライムをみる。彼はオークを恐れることなく、オークの傷を覆うようにかぶさる。まるで大切な仲間を守るかのように、優しくかぶさる。一体何がおきているんだろう? カサンドラは怪訝な顔をしながらも、いつでも切りかかれるように武器に手をかけている。



『ねえ、シオン彼の傷を治してくれないかな? 僕だと一気に治療はできないんだよね』

「何を言ってるんだよ、俺たちは今こいつらオークと……」

『彼はオークの集団に襲われていたんだ……僕と一緒なんだよ』



 その言葉に俺はなにも言えなくなる。ライムは元々はこのダンジョンに巣食うスライムの集団の一員だった。だが、ダンジョンを定期的に来る人間たちに興味があり、俺と出会った。

 そして仲良くしていたことが、他のスライム達との仲を険悪にした。おそらく彼は自分とオークを重ねているのかもしれない。彼自体は、『自分は他のスライムと違い元々知能が高いので浮いていたから気にしないで』といっていたが、所属しているグループから追放されるつらさを今の俺は知っている。そして、このオークもなんらかの理由で群れを追放されたというのなら俺は……




「カサンドラ……こいつが襲ってきたら、いつでも切りかかれる状態にしておいてくれ。俺はこいつを癒す」

「はっ? 何を言ってるのよ。こいつはあのギフト持ちのオークよ、私たちの敵なのよ!!」

「ライムがさ、こいつを助けてっていうんだよ、それにこいつは他のオークたちに襲われていたらしいんだ。もしかしたらこいつから、何か情報を聞き出せるかもしれない。だから助けようと思う。ダメかな?」



 俺の言葉に彼女はあきれたというようにため息をついた。「そして仕方ないわね」とつぶやいて俺を信頼に満ちた目で見つめる。



「ダメに決まってるでしょう? あなたじゃなかったら、気が狂っていると思うわ。でも私はあなたを信じてあげる。相棒だからね。それに私もこいつがそこまで話が通じない奴だとは思わないしね」

「ありがとう、カサンドラ」

「気にしないで、あなたがさっき私の予言を信じてくれたように、私はあなたの判断を信じるだけよ」

「なんか恥ずかしいなぁ……傷を癒せ」



 カサンドラは苦笑しながら俺のわがままを許してくれた。それにシュバインが不意打ちをしたオークに対して怒ったときの感情は本物だった。俺もこいつが悪い奴だとは思えないのだ。少なくとも傷をいやした俺たちをいきなり襲うようなやつには思えなかったのだ。

 俺の法術によってオークの傷が治っていく。てか、すげえな、回復力が高すぎて傷がどんどんふさがっていくんだけど。俺がびっくりしていると『うう』とオークが呻いて意識を取り戻した。そして意識を取り戻す。



『お前らは……』

『彼らは悪い人間じゃないよ』

『はは、なんていってるかわからねーや。でもお前が同族に襲われているところを助けてくれたんだな。ありがとうよ。チビすけ』



 当然スライムとオークの言葉は通じない。でもライムが助けてくれたはわかったようだ。オークは……シュバインは優しく微笑む。そして俺たちに向きあっていった。



『お前たちにも助けてもらったようだな、本当だったら今すぐにでも、そこの雌と殺し合いたいが、借りがある。このまま戦うのも気分が悪いんでな。お礼になんでもいう事を聞こう』

「はぁ? お前どんだけカサンドラと戦いたいんだよ……」

「どうしたのよ?」

「いや、カサンドラはオークにもてるなって話」

「はぁ? 喧嘩なら買うわよ」



 やべえ、言い方が悪かったのかカサンドラの機嫌が悪くなった。まあいい、俺は困惑しながらもシュバインに何があったか話を聞くことにした。



「それでお前はなんでオークの集団に襲われていたんだ?」

『ああ、それはな……』

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