第27話 それはまるで物語の英雄のような

「シオンさん達の順番はまだ先ですよ!! 勝手な行動は困ります!!」

「悪い、どうしても行かないといけないんだ!!」


 制止をするギルド職員を強引にかいくぐって俺たちはダンジョンの内部に突入する。幸いにもポルクスから相談を受けていたので、彼女たちの担当エリアは理解している。俺はすぐに蝙蝠たちから情報を集める。しかし、今は人間やオークが大量にいるためにどれがポルクス達かいまいちわからない。



「シオン……私が言い出してたくせにあれだけど、私の予言はあくまで過程を見ただけなの……だから、二人は無事かもしれないわ。それに今ので、だいぶギルドに反感を買ってしまったかも……」

「そうかもな。でもあの二人はCクラスになったばかりだ。不意打ちならともかく正面からはきついだろうし、なにより、今回のオークたちは何をしてくるかわからないんだ」



 確かに今回のような緊急ミッションはギルドの主導で行われているのに、その命令に従わないのは問題児扱いをされるだろう。でもさ……



「あいつらが生きていたらアンジェリーナさんに、土下座して許してももらおう。うまいもんでも食って忘れればいいさ。でも死んだら一緒にうまいもんも食えなくなるんだ。知った顔が死ぬのはごめんだし、俺はお前のギフトを……お前の言葉を信じるよ」

「……ありがとう、私もアンジェリーナさんに土下座するわ。急ぎましょう」



 そういって、彼女は俺の前を走る、顔がにやけていたのは気のせいだろうか? てかカサンドラ走るのくっそ早いんだけど!! おいて行かれる。しばらく歩くと俺たちは一匹の挙動不審なゴブリンを見つける。



「カサンドラ、殺すな!!」

「わかったわ」



 以心伝心とばかりに彼女はゴブリンを腹に剣の鞘をたたきつける。よだれと悲鳴をまき散らしてゴブリンがふっとぶ。俺はそいつののど元に短剣を引っ付けながら聞く。



「ここら辺に人間はいなかったか? しゃべれなくても殺す、嘘をついても殺す」

『ひぃ……なんでこいつ俺の言葉が……みた、みたよ。人の雄と雌だろ? 俺の仲間を殺しやがったやがったんだ……俺は隠れていたら助かったけど……』

「よし、そいつらはどこにいった? だいたいでいい案内しろ。さっさと歩け」



 そうして、俺は強引にゴブリンを立たせて道案内をさせる。頼む。二人とも無事でいてくれ。



『ほら、こっちだよ、この奥に入っていったんだ。嘘じゃないぞ』



 確かに何者かが戦っているような音が聞こえる。俺とカサンドラはうなずく。意識をそらした瞬間に、ゴブリンが俺を突き飛ばして、逃げようとした。俺は短剣を構えて対応しようとしたが……ゴブリンはいつの間にか、抜かれたカサンドラの刃によって、切られていた。いや、俺だって反応してたよ。でも早すぎない?



「早くいきましょう」

「ああ、そうだな」



 俺たちが進むと、通路の奥には利き腕を怪我をしたカストロが今にもオークに切りかかられているところだった。ポルクスは魔術を大量に使ったのか、杖を支えにして、かろうじで立っているようだ。二人とも善戦はしたようで、何体かのオークの死体が転がっている。



「カサンドラ!!」

「わかっているわ。炎足(フランベルジュ)」



 スキルを使って猛スピードでオークに迫るカサンドラの刃が、カストロを襲うはずだったオークの剣をはじく、そして返す刃でオークを一刀両断。炎のように紅い髪を舞うように跳ねながらの剣技はとても美しかった。だが、今は見惚れている場合じゃない。



「大丈夫か。ポルクス」

「シオンさん……私ったら最期に幻覚を……」

「何言ってるんだ、本物だよ、飲むんだ、精神力が回復する」



 俺はマジックポーションをポルクスに渡して彼女を守るようにオークたちの前に立ちはだかる。突然の乱入者に混乱をしていたオークたちだが、すぐにこちらを警戒するように陣形をとる。おかしいな……こいつらスムーズすぎる。本来オークは頭のいい生き物ではない。特に予想のできないことがおきるとパニックになりがちなはずなのだが……



「こっちは四人、お前らは七体、数の優位は減ったぞ。ここは引いてくれないか?」

『ニンゲンコロス……コロス』



 話しかけても無駄なようだ。おそらく、これがもう一体のオークのギフトなのだろうか? こいつには……いや、こいつらには自分の意思がない、まるで何者かの命令のためだけで生きているようで……この状態は洗脳だろうか?



「シオン、彼をそっちに避難させるわ」

「ああ、任せろ」



 そう言うと四体のオークと切りあっていたカサンドラは、守りから攻めに転じる。圧倒的な剣技の前に手前のオークがなすすべもなくを切り裂かれていった。その隙に怪我をしたカストロがこちらに来るのをみて、俺は声をあげる。



「ライムこいつらをまもってやってくれ。俺が敵を倒す。風よ」

『わかった、任せて』



 俺の鎧から出たライムがカストロの怪我に体を重ねる。薬草ばかり食べているライムの肌には治療効果があるのだ。

 カストロをおいかけてきたオークと俺は、魔術で切れ味をあげた剣をぶつけあう。そして受け流した刃でオークを切り刻むと、おどろくほどあっさりと首を断つことができた。ミスリル本来の切れ味と、魔法による相乗効果だろう。普通では考えられない切れ味に俺は心のなかで武器屋のおっちゃんに感謝をする。



「ポルクス、杖を借りるぞ」

「は、はい」

「風よ!!」



 俺は一つの事を思いついたので試してみる。迫ってくる二匹のオークのうちの一匹が杖によって強化された魔法によって切り刻まれて、絶命した。残りの一匹を俺は利き腕で持った剣で受け流し、先ほどと同様に首を絶った。ミスリルの剣すげぇぇぇぇぇ!! 素材の軽さのおかげで片腕で持っても、振るのが遅れない!! そのおかげで、左手で杖を持つことができるため、魔術の威力も上がった。これなら以前よりも戦略の幅が広がるな。



「シオンさん……すごい……これがBクラス冒険者の力」


 ポルクスが何やら目をうるわせてこちらをみつめている。さっきも俺の名前を呼んだりしていたが、大丈夫だろうか? 頭を打ったのだろうか? あとこれは俺の力と言うよりも武器の力な気もするんだよね……

 カサンドラをみると彼女もこちらに戻ってくるところだった、もちろんオークはみな息絶えている。もう三匹倒したのかよ……



「ポルクス、カストロ大丈夫か? ってうおおおおおお!!」

「シオンさん助かりましたぁぁぁぁ、私、本当にもうだめかと思って……」

「シオン顔がいやらしいわよ」

『僕は男の体にひっついているのに、シオンばっかりずるい』



 緊張の糸が切れたのか、ポルクスが泣きながら俺に抱き着いてきた。鍛えているはずなのにちょっと柔らかいなぁと思っていると、カサンドラが唇を尖らせているのに気づいて、気を引き締める。そもそも敵の本拠地である。早く冷静になってもらわないと……俺は落ち着かせるように、頭を撫でてやる。



「その……先ほどは失礼しました……気が動転していまして……」



 気分が落ち着いたポルクスは顔を真っ赤にしながら、俺に状況を説明した。壁に隠し通路を作っておそってきたオーク。そして、俺の言葉に一切反応のないオーク。あきらかに異常だ。そして異常な人間がもう一人……



「天使だ……僕は赤髪の天使をみた……」



 何言ってんだこいつ? ライムが怪我は治したはずだが……さきほどからカサンドラをみて何かをつぶやいているカストロをみて、俺はどうしよう悩む。死にかけて頭がおかしくなってしまったのだろうか? 



「兄さんの事は放っておいてください……まあ、きもちはわかりますので」



 そういうとなぜかポルクスは俺をみて顔を真っ赤にした。一体なんなのだろうか? まあ、大丈夫っていうならば大丈夫なんだろうな。



「とりあえず、俺たちはもう少し、ここらへんをみてみるから、先に行ってギルドに報告をしておいてくれ。二人とももう大丈夫だよな?」

「もちろんです。怪我は治りましたし、同じ手にはもうひっかかりません。行きますよ、兄さん」

「天使……僕の天使……」



 俺達は二人を見送ってから作業に移る。壁を叩いては隠し通路に魔法をぶち込んで穴をふさぐのだ。それにしても、まずい。オークは知能が低いからこそ、身体能力が高いのにCクラスに分類されたていたのだ。それが作戦をつかうとなると話はべつである。

 今回のように少数ならなんとかなったが、もし、大人数だったらと思うとゾッとする。




「さて、俺たちも戻るか……」

『ちょっと待って。ちょうどいいや、ついてきてくれない? ここの近くにみせたいものがあるんだ。説明するよりは見せた方がはやいからさ』


 オークたちがあけた穴をあらかた破壊した俺たちが戻ろうとするとライムがそれを引き留めた。そういえばライムが何か言いかけていたのを思い出した。



「どうしたの? シオン戻らないの?」

「ああ、ライムがついてきてくれって。みせたいものがあるらしいんだ」



 俺はライムの後について行く、そういえばこいつ何かをいいかけていたよな。ここは確かこいつの巣の方角だ。そして、洞窟の隅の草が多い茂っているところに来ると、ライムはそのままするりと隙間に入っていった。。草の奥は意外と大きい裂けめになっているのだ。人間一人どころかオークだって入れるだろう。俺たちは困惑をしながら入るのだった。

 そしてそこに待っているのは一つの影だった。マジかよ……こいつは……

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