第23話 いざダンジョンへ

馬車での移動は、一度には移動できる人間には数に限度がある。まずは斥候が得意なパーティーたちがオークたちの戦力と現状を調べるために先行してくれている。

 そして、そのあとに、あまり強くないパーティーが、先遣隊として敵の戦力を減らし、ギフト持ちや、強力な部隊が現れたら、俺たちのようなBランクを筆頭とした上位連中が決戦部隊として洞窟に入るのだ。

 軍隊のように集団で一気に攻めればいいという人もいるかもしれない。だが、俺たちは冒険者だ。パーティーなり、ソロなりで活動してきた連中は、下手な人間と組ませるとコンビネーションが崩れやすくなるし、そもそもダンジョンは狭い道がメインなので、集団で行くには向いていない。

 ちなみに俺たちも本来はもう少し遅い到着のはずだったのだが、ライムに話を聞きたかったので、ひとつ早い便にしてもらったのだ。



「そういえば、さっきの子たちと仲良さそうだったわね……特に女の子の方と。受付嬢の子とも仲良さそうだし、シオンはモテるのね」



 馬車に揺られているとカサンドラがぼそっとつぶやくように言った。え、なんかすごい誤解されてるみたいなんだけど。そもそも俺は全然もてない。いや、俺だってBランクになって女の子に声をかけられるようになって、一瞬勘違いしかけたけど、変なツボを売られたりとか、イアソンを紹介してくれとかばかりだったのだ。



「誤解しているが俺はもてないぞ。カストロやポルクスとも、バイト代わりにギルドの講習をやったときに会っただけしな」

「へぇー、あなたけっこういろんなことやってるね」

「ああ、俺の場合魔物と一緒にいることもあるからな。ギルドの人に信用されていないとあらぬ疑いをかけられる場合があるんだよ」



 過去の苦い記憶を思い出す。ゴブリンと話していたら、魔物と勘違いされて俺も襲われかけたのだ。今ではBランクに上がったこともあり、俺の事も多少は知られるようになり、ギフトの力で、魔物と時々一緒に話している変なやつという認識である。



「まあ、あとは人に頼まれたのもあるけどね」

「へぇー、アンジェリーナさんかしら?」

「いや、別の人だよ。もう冒険者はやめちゃったけどね……」

「そうなの……」



 俺は一瞬過去を思い出して押し黙る。カサンドラもその一言で察してくれたのだろう。しばらく、沈黙が馬車を支配した。そう……俺達冒険者は命懸けだ。今回のミッションだってだれか知っている顔が死ぬかもしれないのだ。



「色々考えているのね……私もがんばらなきゃ」

「がんばるって何を?」

「人間関係をよ、だって私たちは相棒ですもの。私が下手なことをしたらあなたの評判までさがるでしょう」

「へぇー」

「何にやにやしてるのよ」



 彼女の言葉に俺は思わず笑みをこぼした。彼女は俺の事を想ってくれてるのだな。それにしても最初に馬車で会ったときに比べて表情が豊かになったなと思う。これが本来の彼女の性格なのかもしれない。



「カサンドラって時々かわいい事いうんだなっておもって」

「な、ばかにしてるでしょ!!」

「恥ずかしいからってあばれるな。馬車が揺れる」



 顔を真っ赤にしたカサンドラが、俺に突っかかってせいか馬車が揺れる。そのあと結局馬車の人に怒られて、馬にはいちゃついてんなとばかにされてしまった。くっそ、一瞬シリアスになったのに……でもこれくらいがいいのかもしれない。変に気負いすぎて失敗するよりは……

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