第9話 カサンドラという少女

 私ことカサンドラはBクラスのソロ冒険者だ。自分で言うのもあれだが実力はかなりなものだという自負がある。ソロでBクラスとして認められているというのがその証拠だろう。

 とはいっても私は別に好きでソロなわけではないし、元々はパーティーも組んでいた。しかし、色々あってもうパーティーを組むのをあきらめたのだった。なぜなら、私は冒険者としてパーティーを組むのに欠点が二つあるからだ。一つは私のギフトである。自分の冒険者カードをみてため息をつく。


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Bランク


カサンドラ

ギフト『魔性の預言者』


近い未来をみたり、予言をさずかったりできるものの、それを他人に伝えることはできない。


スキル


上級剣技   剣を持った時にステータスアップ、武器の性能を極限まで出すことができる。

魔性の混血  魔族の血により、身体能力が人よりはるかに高く、魔術への耐性が高い。

火耐性EX   いかなる火属性の攻撃も受けない。

炎剣(フランベルジュ) 詠唱をしなくても火系の魔術が使用可能。また熟練度によって剣だけでなく、自分の体の部位どこにでも火の魔術を宿すことができる。     


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 私の血筋が原因なのか、私のギフトにはパーティーを組むのに致命的なまでのハンデがあった。私はまるで神託のように未来が唐突に見えたり、意識することによって、少し先の未来が見えるのだ。前者は制御はできないが、後者は戦闘に使ったりできるのでかなり重宝する。先ほどのオークの攻撃を避けたのもこのギフトを使ったことによって、攻撃のくる場所を知っていたから反撃ができたのだ。

 問題は前者の方の遠い未来をみることができるほうだった。なぜか私の予言は他人には間違って通じるのだった。言葉だけではない。文字にしてもそれは一緒だった。紙に書いても自分の意志とは違う文字を書いてしまうのだ。そのせいで救いたくとも救えない命もあった。すべてを知っていたのに誰にも言えず自分の無力さを悔いたこともあった。

 ある日、私はパーティーが魔物の奇襲によって壊滅する未来を観た。私は彼らがダンジョンに行くのを必死に止めようとしたが、私の言葉はパーティーに間違って伝わり、結局ダンジョンに行くのをとめることはできず、結果的にほぼ壊滅状態になってしまった。それから私はパーティーを組むことをやめた。

 ある日、私は拠点としていた村が、魔物の集団に攻められる未来を観た。私は村に危機を伝えようとしたが、私の言葉は村人たちに間違って伝わり、結局救うことができなかった、それから私は拠点を作ることをやめた。

 誰とも組まず、誰ともなれ合わない人生が続いた。予言で救える命もあった。でもその何倍も救えなかった命があった。私は自分のギフトを呪うのにも疲れて、やがてあきらめた。未来を知っていても救えないのはつらかったからあきらめた。未来をみても誰かに伝えようとするのをあきらめた。そのおかげで楽になれた気がしたのだ。

 でもある日、私は予言をみた。その予言は、このダンジョンを出た時に私が満面の笑みを浮かべて、誰かと話しているところだった。ギフトを授かって以来、笑ったことがなかった私が笑っていたのだ。どんな未来があるかはわからなかったけれど、すぐに移動を開始した。



 そして馬車で私は救世主(メシア)にあったのだ。彼をみた時、私は彼が冒険者たちに襲われるのが見えた。だからとっさに声をかけてしまったのだが。直後に後悔したものだ。だって私の予言は通じないのだから、誰にも通じるはずがないのだから……

 だけど、彼の返答に違和感を感じた。彼はこういった。『肝に銘じておきます』といったのだ。これは彼には私の言葉が正しく伝わったのではないか? でもこわくて確認をすることはできなかった。だって希望にすがって裏切られたもう立ち直れない気がしたから……

 それでも心配になって私は彼をつけることにした。彼は不思議な人だった。肩にスライムをのせて、楽しそうに話しているのだ。まるで魔物の声が聞こえるかのように……

 そして、私は彼をつけている冒険者たちにも気づいた。ああ、こいつらが予言の冒険者か……でも、私は彼とこの冒険者たちの関係を知らない。もしかしたら彼の方が悪党かもしれないのだ、だからおとなしくつけることにした。そして彼らの会話を聞いて、彼が正しいことを確信した私は、彼を助けようとする。

 そこからは奇跡のような出来事の連続だった。まるで彼のピンチを助けるかのようにオークの集団が現れて、彼はその状況を利用し、自力でピンチを抜け出すことができそうだった。そのあと強力なオークが来た時も、彼はそのオークと交渉をして無事ダンジョンから出る事ができた。私のギフトは未来をみることができるが、精神的な疲労が激しいため、多用はできないし、あのまま戦っていたら良くて相打ちだったかもしれない。でも……そんなことはいいのだ。そんなことよりも、私が欲しかった奇跡に会えたのだから……



 私がオークの攻撃を避けてといったときに彼は確かに私の言葉通りに避けた。それはつまり私の言葉が彼を救ったというわけで……ようやく、私は私のギフトの予言で、私以外の誰かを救うことができたのだ。ようやく救えたのだ。そのことを知ると私の目からは涙があふれてしまった。そうして、私は理解する。私はあきらめてなんていなかったのだ。私は誰かを救いたかったのだ。私は私のギフトで救える人を救いたかったのだと。

 だから私は彼に提案をする。緊張しながらも提案をする。私は私のメシアと一緒にいるための提案をする。



「私とパーティーを組んでくれないかしら」



 勢いあまって提案してしまったが、困惑している彼をみて私は後悔する、私がパーティーを組めないもう一つの理由も説明しないといけないのだから。私は血のように醜い赤い髪をさわりながらため息をつくのだった。醜いといわれても染めないのにも理由はあった。これは母がお父さんを思い出すといって、私の髪をみるたびに幸せそうな顔でなでてくれていたからだ。でも……もしも、彼が染めろというならば染めるしかないだろう……ごめんね、お母さん。私は何をしてでも彼とパーティーを組みたいのだ。

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