第17話 元カップルは告げる

 ※優希※


「優希を変えてくれた人って萌結だよね?…………もしかして二人って付き合ってた?」


「…………へ?」


 俺と笹川が必死に隠してきたその過去を、見事に言い当てて見せた真昼。

 どうする?本当のことを言うか……?それとも誤魔化すべきか……?


「…………」

「無言は肯定ってことでいい?」

「いや……っ!」


 ここまで見事に言い当てられたのだ。これ以上隠すのも無理があるだろう。

 それに、真昼はこういう大事なことを、無闇やたらに他人に言いふらすような人ではないことくらいわかっている。


「……真昼の言う通りだ」


 笹川には悪いが、これ以上隠し通せはしないだろう。

 俺は言える範囲で、俺と笹川の関係について話す。

 元同中だということ。中学時代、短い間だったが付き合っていたこと。今の椿高校で偶然にも再会したこと。

 俺が元陰キャだったことや、笹川が元クラスカーストトップのヒロイン枠女子だったことは伏せた。


「そっか……」


 全てを聞いた真昼は、安心したような表情を浮かべてから、悔しそうな表情を浮かべる。


「……どうした?」

「いーや?私なら絶対優希を離さないのになーって!」

「はぁっ?!」


 俺を離さないってそれ……!

 告白同然の行為をしてきた真昼に、俺は思わず狼狽える。

 そして、真昼は続ける。



「私、優希のことが好き。私と付き合って」



 あまりに唐突に……だが予想外ではなかった、余計な言葉が何一つない告白。

 瞬間、身体の芯から熱いものが全身に行き渡るのを感じる。

 目頭がぎゅっと熱くなり、俺は必死に溢れそうになる嬉しさの粒を留める。


「真昼……俺……!」


 ……緊張のあまり声が出ない。


 俺は昔から、こういう大事な場面が苦手だ。

 すぐに緊張で話せなくなってしまう自分が嫌いだ。

 告白の返事をすぐに出せない自分が嫌いだ。

 どうでもいいことを考えて、どうにかやり過ごそうと考える自分が嫌いだ。

 一度染み付いた想いを、簡単に上塗り出来ない自分が嫌いだ。

 外面をいくら整えても、中身が陰キャのままの自分が嫌いだ。


「優希の中に、まだ萌結がいる?」


 言葉に詰まる俺を見兼ねてか、真昼が話を切り出した。

 まだいるか……。そんなのいるわけが無い。あんな女嫌いだ。

 でも、


「…………」


 無言のYES。

 高校で再会してからずっとあいつは俺の中に居座っている。一度消えたのに戻ってきた。そしてそれを俺は消せないでいる。

 真昼は俺の返事を理解し「私は……」と続ける。


「私はそれでもいい。優希が萌結を忘れられなくてもいい。私が塗り替えるから!」


「忘れなれないってことは、それだけ大事に思っていたってことでしょ?なら私も優希のそんな存在になれるように頑張る!」


「だから……」


 あぁ、きっと今の俺とこの人となら、今度こそは続けられるかもしれない。

 笹川を見返したいという感情なんて捨ててしまえ。

 目の前の人を、幸せにしたい。

 今の俺を包み込むその感情に間違いはない。



「私と付き合って」



 再び告げられたその言葉。

 次の瞬間、俺の口からは自然とこの言葉が飛び出していった。



「よろしくお願いします」




 ※萌結※


「俺も好きなんだけど……笹川のこと」


 中村くんから唐突に告げられた告白。

 もしかしたら最初からこのつもりだったの?

 私と中村くんを二人きりにして、中村くんが告白するシチュエーションを作り出すっていう作戦だったのかもしれない。


「俺と付き合ってほしい」

「……ごめんなさい」


 私は少し間を置いてから返事をする。

 そして続ける。


「理由、聞いてもいいかな?」

「……うん」


 嘘は言わない。

 自分も告白した側だからこそ、ここは誠実に返すべきだと思う。


「私、忘れられない人がいるの。

 その人は、顔はいい方だけどイケメンとは言えないし、性格だってまともじゃない。

 夢があるかだって分からないし、そもそも人としてダメダメ。

 …………でも誰より優しい人なの。

 当たり前のことを当たり前にやるって難しいことだけど、彼は出来るの。

 そんな彼を忘れられないから……。ごめんなさい、中村くんとは付き合えません」


 私の言葉を聞いた中村くんは「そっか」と深蒼の空を見上げる。

 納得のいく理由だったかな……?

 もちろん忘れなれない人とは佐々木のこと。でも、じゃない。


「わかった。ありがとう答えてくれて」

「……うん」


 無理に作っている笑顔。微かに震えている声。

 私はなんて声を掛けるべきだろう……。

 すると、戸惑う私を救うかのようにスマホが震えた。相手は真昼。


「……もしもし真昼?どこにいるの?」

『ごめんごめん!えーと見えるか本殿の右脇に逸れたとこにいる!』

「えぇ?そんな所まで行ってるの?!……わかった向かう」

『ごめんねー』


 ただ単純に真昼が先行しすぎたのが原因だったことが今判明した。

 すると真昼はちょっと小声で、囁くように私に言った。



『私、優希と付き合うことになった!』



 ……………………………………………………………………………………………………………………………………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ?!?!



 ※優希※


 彼女が出来ました。

 お相手はクラスカーストトップ、完全ヒロイン枠の如月真昼。顔も人柄も、文句のつけようのない人だ。

 付き合い始めたその晩、俺のスマホが短く震えた。

 真昼かな?と思ったがそんな幻想はすぐに消し飛び、現実を見る。主は笹川だった。

 昨日までなら「うげぇ……」となっていた所だが、これが彼女持ちの心の余裕か、全く嫌な気にならない。


『私よ』

「知ってるよ。何の用だ?こんな夜遅くに」

『まだ十時じゃない。高校生がこんな時間に寝るわけ?』


 美肌のために早寝早起きを心掛けてんだよ!!!

 心に余裕のある俺は、あえてこれを声に出さない。


『聞いたけど、真昼と付き合うことになったそうね』

「あぁ」

『これであなたの目標も達成って所かしら?一応おめでとう』

「どうも」


 笹川の口調は一切変わらず、ただ淡々と話す。

 もっと「あなたに真昼なんてもったいないわ!」くらい言うと思っていたが。

 俺に対して優しく接するあたり、向こうにも何かしらあったのかもしれない。


「そういうそっちはどうなんだ?昴と」

『聞いてないの?……告白されたわ』

「えっ」


 初耳だ。

 合流した後も、昴は一切そんな雰囲気を出してこなかった。

 となると答えは……


『断ったわ。中村くんには申し訳ないけど』

「……そうか。でもなんでだ?お前の変な脇役理論が許さなかったのか?」

『あなただけには変と言われたくないんだけど。違うわ』


 はっきりと笹川は否定する。


「じゃあなんでだ?振った後に言うのもなんだが、昴は結構優良物件だと思うが」

『それは私も否定しないわ。でも……』

「でも……?」


 ここに来て言い淀む笹川。



『私好きな人がいるのよ。佐々木優希って言うんだけど』



「はぁ?!」


 こいつは急に何を言い出すんだ?!

 今日だぞ?俺と真昼が付き合い始めたばかりなんだぞ?そんな日になんてことを言ってくれてるんだ?!

 すると笹川は、全てが吹っ切れたかのような明るい声で、


『というわけで!これからもよろしくね!』


 プツン。

 そういうなり通話を一方的に切った笹川。

 完全に一人置いてきぼりを食らっている俺は、



「どうしてこうなった…………」



 一人呟くのだった────

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