第9話 元カップルの駆け引き

 ※優希※


 笹川の様子がおかしい。


 いや、俺の知っている中学時代の彼女と比べれば、高校入学時から大分様子はおかしかったが……。それにしたって、俺に目を合わせなかったり、会話をしても阿吽しか返ってこなかったりと、あからさまに俺を避けている。


 そして、それでも俺と手を繋ぎ続けているのは何故なのだろうか。

 俺は気になっていたことを聞くことにした。


「なあ、今日はなんで呼んだんだ?」

「えっ……え、えーと……」


 俺の当然の質問に多少動揺しつつも、「ご飯でも食べながら話すわ」と返事をする笹川。

 二時間近く施設内を散策したので時刻はちょうど昼下がりだ。俺たちはとりあえず近くのフードコートに足を運んだ。


「んで、話ってのは?」

「今じゃなきゃダメなの?」

「お前がご飯食べる時にって言ったんじゃねえか」


 そんなに言いづらいことなのか?

 確かに、正直俺にとってどうでもいいことだったらメッセージアプリで済ませればいいだけの事。俺を呼び出してまで話したい内容と言うと……


『私、やっぱり優希のことが……好き』


 これか……!

 この女、どこまでクソなんだ。自ら捨てておいて、それがイケメンに成長したからよりを戻したいだなんて。

 そもそも、俺はあの時のこいつの発言を許していない。

 いつまでも過去を引きずるのはみっともないが、それにしたって許せるものと許せないものがある。

 さぁ言ってみろ笹川────


「その……」


 ────盛大にお前を



「友達の話なんだけど……」


 なんてみっともない告白だ。俺の知っているあいつならそんなことはしなかったはずだ。

 俺は多少憤りを感じつつ、笹川が話すのを待つ。


「あんたのことが、その……好きらしいのよ」

「……やっぱりか」


 やはり告白だった。もう疑う余地はない。

 これはあれだろ?「それは私の話なんだけどね!」って続くタイプのやつだろ?

 さあ、さっさとネタばらしをするがいいさ!


「あんたは今……って、なんて言った?」

「あ?やっぱりって言ったけど?」

「あなた気付いてたわけ?!」


 急に声を荒らげる笹川。

 知ってるも何も、お前の話なんだからわかって当然……?


「あなた知ってて放置してるのね……。そこまでハートの強い人だとは思ってなかったわ」

「お褒めに預かり光栄です」

「褒めてないから」


 いいからさっさと告ってこいよ!こちとらお前を振る想像をしてウキウキしてんだよ!だらだらと前置きしやがって!


「早く本題を話せよ」

「せっかちな人ね、大事な話の前には世間話をするのが普通でしょ?」

「お前との世間話は俺とって利益になんないんだよ」

「随分と利己主義なのね。モテないわよ?」


 なんとでも言え。事実、俺はお前から好意を寄せられている。それがモテているなによりの証だろう。

 さあ、告白してくるがいい!


「もういいわ、それで話ってのは……」

「話っていうのは……!」

「ちょっと何?!鼻息荒いんだけど?!」

「五月蝿い早く言え」


 いい加減お前とのお遊びにも飽きてきたんだ。

 早く言ってくれ。



「あなた、好きな人いる?」



「……………………………………は?」



 思ってたんと違う。



 ※萌結※


 流石の私とて、「真昼があんたのこと好きらしいわよ」だなんて言うはずがない。

 確かに伝えてしまうという手もあるが、それを私から言うのは何か違う気がする。

 なので私は確認することにした。佐々木が真昼に対して好意があるかどうかを。


「……今なんて?」

「あなた好きな人いるの?」

「はぁぁぁあ?!」


 何故か声を荒らげて佐々木は立ち上がる。どうやら何か勘違いをしていたらしい。

 一体なんだと思っていたわけ?


「お前卑怯だぞ!そうやって逃げるようなこと言うのは!」

「卑怯もなにも、最初からこれを聞くつもりだったわよ!」

「嘘つけ!だって、お、お前は俺に…………?」


 そこまで言いかけて、佐々木はハッと口を閉じる。

 ふーんなるほど、そーいうことかー。


「なるほどねぇ。佐々木くんは私があなたに好意を抱いてるって思ってたんだー?」

「ナンノコトデショウ」

「口では嫌々と言いながらも、深層心理では期待してたんでしょー?」

「オッシャッテルイミガワカリマセン」


 私の勝ち!!!

 自ら墓穴を掘ったわね!


「大人しく認めなさいよ〜怒らないから〜」

「ミトメルモナニモ、ボクハソンナコトミジンモオモッテナイ」

「ふーん」


 いい気分だわ。ええいい気分!

 なんていい気分なのかしら!

 待って、そういう想像をしてたということは……?佐々木は実は私にそう言われるのを期待していた……?


「…………//」

「…………いきなり黙ってどうした?」

「うるちゃい」


 うるさいうるさいうるさい!

 なんなのもう、いっつも私に色々言うくせに実は私に好きと言われたかったとか!どんだけ不器用なのよ!


「それでなんだっけ?好きな人いるかだっけ?」

「う、うん……」


 すると、彼は両手を頭の後ろに回しながら言う。



「お前には教えねー」



「なっ……?!」


 ここまで言っといて言わないの?!

 私のことが好きならそうだと言いなさいよ!

 動揺する私を見た彼は、勝ち誇った顔でぺろっと舌を見せてきた。


 むっっっかつくぅぅぅぅぅぅう!!!



 ────結局目的は何も達成できずに帰宅。

 一体何の休日だったのか。私は一体一日一体何をしていたのだろうか。


「ぐぉ……ぐぉぉ……」


 自室のベッドに顔を押し付けながら私は唸る。

 結局楽しんでた自分がいた事にも腹が立つ。

 友達の!真昼の好きな人なのよ?!真昼に脈があるか確認しようとしただけなのに、私が楽しんじゃってどうすんのよもー!


「手……」


 私はそうボソッ呟きながら顔を上げ、佐々木と繋いだ手を眺める。

 佐々木の手、案外大きかったな…………っ?!


「何考えてんの私?!」

「どうしたの萌結ー?」

「な、なんでもない!」


 つい階下のお母さんまで届くくらい大きな声を出してしまった。

 それもこれも全部あいつのせいよ!

 いや、そもそも付き合い続けていたらこんなことにはならなかったはずなのだから、究極は私のせいでもあって……。


「私はどうすればいいってのよ……」


 それに…………。

 今でも覚えている。彼と手を繋いだ時の自分の頬の熱さを。

 あれは…………きっと気の迷い。誰だって異性と手を繋いだら緊張してしまうもの……。


 だから違う。


 そう自分の想いを封じ込めると、計らったようなタイミングで私の携帯に通知が届いた。

 送信元は真昼。私は何気なくアプリを立ち上げ、真昼ともトーク画面を開き……



『今度優希とデート行こうと思う!』



 その言葉を見て私はスマホを落とした。

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