第1章: 名探偵と美少女と召使い

 


「…それで、あなたは引き受けたんですか。その依頼を」


「もちろん。断る理由もなかったしね。それに、アテもあった」


「アテというのは…警察のことですか?」


「ご名答。まぁ…その辺りは各々話すとして、とりあえず続きを話そうか」




少なくとも私が抱いたその違和感について、現時点では確かめる術はない。


とにかく今は情報が必要だった。


彼がどこまで知って、それをどこまで話してくれるのか、そして、その上で何を隠そうとしているのか、私は見定めなければならない。



















「・・・分かりました。依頼を引き受けましょう」


「っ!!本当か!」


「…えぇ。ただ、それには一つ条件があります。」


「な、なんだ…金か?か…金なら、いくらでも出すぞ」


「ああいや。報酬の件もそうですが、それ以上に貴方には出してもらいたいものがあるのです」


「・・か、金以外に何を出せと…」


「…もちろん、情報ですよ」


「じょ、情報…?」


「そうです。依頼を引き受けると言った以上、その言葉に二言はありません。必ず、貴方の依頼をやり遂げてみせると約束しましょう。」




そして、私は釘を指す意味を込めて更に言葉を続けた。




「だからこそ、その為にも先ず確かな情報が不可欠なのです。私の言っている意味…お分かりですね?」


「・・・・・」




広樹さんの目は微かに泳いでいた。


どうやら今は、まだ全てを話してくれそうにはないらしい。


…が、釘は刺した。

少なくとも今は、これくらいで十分だ。




「では、交渉成立ですね。私の携帯番号を書いた紙をお渡ししますので、何かお分かり次第ここに連絡をください。どんな小さな事でも、構いません。もしくは…思い出した事でも構わないので、逐一連絡をお願いします」


「・・・・ああ。それと、だ…俺もアンタに渡すものがある。」


「渡すもの…ですか?」




すると、広樹さんはポケットから一枚の写真を取り出した。


そこには大人の女性と少女が写っている。




「・・・人探しだ。一応、写真は必要だろ?その写真の裏には、俺が知っていることを全て書き記している。よかったら参考にしてくれ」




写真を受け取った。

その裏には確かに彼の言う通り沢山の文字が殴り書きで書かれてある。



「へぇ…」


それを見た瞬間、思わず笑みが溢れた。



「…何がおかしい?」


「おっと失礼。なぁに、大したことじゃありませんよ」



彼は険しい顔付きでそう聞いてきた。

というより、不機嫌そうな顔付きと言った方がここは正しいか。


まぁ彼からしてみれば写真を見て笑われたか、もしくは裏の殴り書きの文字の汚さを見て笑われたか、そのどちらかだとそう思ったのだろう。


どっちにしろ彼からしてみれば私の仕草は、かなり不愉快だったに違いない。

そこは反省すべきだ。


とはいえ、反省こそすれど私の答えは変わらない。


ついつい笑みが溢れてしまうほど、その写真には私の求めている答えがあったのだから。



「ーどういう意味と、おっしゃいましたね」


「…何が言いたい?」


「いやね、質問を質問で返すのはいささかどうかと思いますが…こう言わざる得ないんですよ。ー広樹さん、貴方はこの写真をどういうおつもりで私に見せたのですか?」



それは、茶髪のロングヘアの女性が愛おしそうに女の子を抱いている写真だった。


いや女の子というのはいささか早計かもしれない。



「ー広樹さん。貴方、先程こう言いましたよね。まだ、3歳の娘だ。と…」



その瞬間、彼の顔はみるみると青ざめていった。


どうやら彼自身もことの重大さに気付いたようだ。


…だが、容赦はしない。

私は畳み掛けるように言葉を続けた。



「…この写真、どう見てもまだ赤子だ。服装から見てかろうじて女の子と推測は出来る…が、何故あなたは3歳の娘だと言っておきながら3歳の女の子とは到底思えない赤子の写真を携帯しているのですか?」


「!そ、それは………」


「ああ、それとこうも言っていた。居なくなったのは、ひと月前だとも…つまり貴方はひと月ものの間この写真を使って、人探しをしていたということになる…。それは、何故ですか?」


「……っ……」



もはや黙るしかなかったのだろうか。


唇を噛み締め、足を上下にただひたすらに動かしていた。

…酷い貧乏ゆすりだ。


これはおそらく彼の意志の表れだろう。

焦り、苛立ち、…そして、迷い。


やはりというか、これは心配からくるものではないと私は今度こそ確信した。


…出来ればそれは私の予想と反して欲しいものではあったが、十中八九間違いないだろう。



「答えたくないというならそれもまた一興。だったら、無理にでも、答えるしかない質問を投げかければいいだけのこと…」



以前、黙ったままだったが鋭い眼光で睨み付けてくる彼。

けど私は一切怯むことなく彼の前に立ち、はっきりとこう言ってやった。









「簡単な質問ですよ。ーー誘拐犯の広樹さん?」

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