第1章: 名探偵と美少女と召使い

 


「つまり…娘さんと奥さんが同時に失踪したと…そういうことですね」


「あ、ああ…。・・・その日は真凛亜の誕生日でもあったんだ。だから麻衣子は…真凛亜と一緒に誕生日プレゼントを買いに出掛けて…すぐに帰ってくるはずだったんだ。ただ、買い物に行っただけだったのに…っ」


「・・・なるほど、概ね事情は分かりました。」



正直、不可解な話しだと思ったよ。

流石に依頼人の話が全部嘘とまでは思わなかったが、彼の話し方に違和感があった。

















「違和感…ですか。オレは別に…何も思いませんでしたけど…」


「キミもまだまだ甘いねぇ。さっきまでの鋭さはどこへいったんだい?」



探偵はここぞとばかりにオレを馬鹿にして来た。

若干いやかなりイラッとしたが、話を聞くためにも仕方なく我慢した。


腹いせに後でそのパイプをへし折ってやろうかとも思ったが、探偵からの驚きの一言にその思惑は一気に吹き飛んでしまった。




「おっと、話が逸れてしまったね。改めてもう一回聞くけど、召使いくんは違和感を抱かなかったかい?」


「依頼人の広樹さんにですよね?もう一度言いますけど特に違和感なんてないですよ。一生懸命で…すごく焦っているのが伝わってきます」


「…焦り、ね。」


「・・?オレ…何か変なことでも言いましたか?」


「いや、むしろ確信をついてるよ。」


「…意味が分からないので、はっきりとおっしゃってくれませんか」


「だからさ、普通こういう場合は先に心配するものだろう?」


「ーは?何をそんな当たり前なこと…そんなの当然じゃないですか。心配していたからこそ、広樹さんは焦っていたのでしょう?」


「ん?それは何故かな?どうやらキミの中では焦り=心配みたいになっているみたいだけど、本来焦りから来る感情っていうのは、迷いや不安から来るものなんだよ。」


「迷い…ですか」


「そう。実際、依頼人は娘さんの名前を出すこと…つまり、真凛亜ちゃんの話をすることに迷っていた。結果的には、私の方から聞き出したようなものだったしね」


「・・・確かにそう言われればそう言えなくもないですけど」


「だろう?ああ後、今更言うのもなんだけど召使いくんは真凛亜ちゃんの失踪についてはあまり驚いてないよね。それは何故かな?」


「え?いやいやそんなことないですよ。普通に驚いています。ただまぁ…そうですね。身構えていたんで、覚悟の上というか…それに、そうなるとそれよりも一番に驚くべき事実が目の前にあるじゃないですか」


「・・・全く、キミは鈍いんだから鋭いんだか…妙に物分かりいいところもあって扱いに困るよ」


「それはお互い様ですよ。それで、先ずはその違和感の正体ですよね。探偵はその迷いの部分に引っかかった。そうなんでしょう?」


「ご名答。もちろん、その場ではすぐ指摘はしなかったさ。不可解な点も多い中で、状況だって断片的だ。まだまだ分からないことがたくさんある中で変に警戒されたら何よりも情報が得られなくなる。それだけは、避けたかったからね」

















ひとまず奥さんである真衣子さんの名前を出す流れまでは、特に違和感はない。


だが、何故彼は先に真衣子さんの話だけをし始めたのだろうか。

娘さんについても同じように悲しんではいたが…何故、同時に言わなかったのか。


ただ、焦りばかりが先行しているように見えた。


少なくとも心配からくるようなものではないと、そう思えざる得なかった。

彼の言動、態度、顔色から窺って、それは明白だった。






「それで、探偵さんよ。あんたは俺の依頼…引き受けてくれるのか?」

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