第1章:名探偵と美少女と召使い

 


「オレが気付いたこと…それは、探偵もおっしゃっている通り、二つあります」


「早速、お聞かせ願おうか」


「一つは、真凛亜ちゃんの両親のことです。改めて、ハッキリと聞かせてもらいます。探偵、あなたは真凛亜ちゃんの母親の居場所を知っていますね?」


「・・・そうだね、YESと言っておこうか」


「ッ!あっさりと認めるんですか」


「おや、意外かい?」


「……ええまぁ。てっきり、はぐらかされると思ってたんで」


「まぁそうしても良かったんだが…どうやらキミは確信を持って言っているようだったからね。私は無駄なことはしない主義なんだ」


「…無駄なこと、だって…?」



オレは探偵を睨みつける。

…いちいち癪に触る言い方だ。

挑発しているつもりなんだろうか。



「おっと失言だったかな。それで?キミはいつ、そのことに気付いたんだい?」


「・・・それは、真凛亜ちゃんのおかげですよ」


「…真凛亜ちゃんのおかげ、だって?」


「偶然、出会ったんですよ。あなたと交番で別れた時に」


「…けど、真凛亜ちゃんは一足先に家に帰ったはずだ」


「それはオレも驚きましたよ。まさか闇雲に走って行った場所が真凛亜ちゃんのお家の近所だったなんて、思いもしてなかったんで」


「じゃあ、キミは真凛亜ちゃんの家に行ったのかい?」


「あ、いや…それはその…行ったというか、迷い込んだというか…っ」


「ん?迷い込んだ…?」


「それについてはノーコメントでお願いします!!」



いくらなんでも実は迷子になってましたなんて、言えるわけがない。


思わず口が滑りそうになりつつも、オレは話を続けた。



「と、とにかくオレは真凛亜ちゃんと会って、色々と話をしたんです!」


「話、ねぇ…」


「…真凛亜ちゃん、言ってました。母親の話についてもそうですが…ちゃんと父親についても、教えてくれましたよ」


「・・・そういうことか。」



ここに来て、ようやく探偵の表情が変わる。

…どうやら少しは本気でオレの話を聞く気になったらしい。



「……何か言いたそうですね、探偵」


「ああいや、私のことはいいんだ。それより、続きを聞かせてくれないかな。」


「真凛亜ちゃんの父親は…もう一年くらいは外に出ていません。いわゆる、引きこもりです。それも並大抵なものではなく、人と話すことすらままならない重度なものです。…つまり、真凛亜ちゃんのご家族は母親は疾走中な上に、父親は引きこもりという…明らかにあり得ない状態にあります。だけど、真凛亜ちゃんはこう言ってました。警察にはパパが捜索願いを出しているのに何の音沙汰もないって。」


「・・・ほう、それで?」


「…だから、オレは思ったんです。そんな人がどうやって捜索願いを出したのかなって」


「……なかなかいい着眼点だとは思うが、別にそれはそこまで難しいことではないんじゃないかな。今の時代、連絡の方法なんていくらでもあるだろう?」


「あくまで可能性の話ですよ。それに、オレは別にこれだけの理由で確信を得たわけじゃありませんよ」


「じゃあ、どういった理由で確信を得たのかな」


「・・・交番、ですよ。」


「交番…?」


「分かりませんか?あなたと一緒に向かったあの交番ですよ。最初は何で交番に来たのか理由が分からなかったので、単にやる気がないのかなって、それくらいにしか思っていませんでした。まぁだからこそオレはあの時、あなたに対して馬鹿みたいに声を荒らげたりしたわけなんですが……」


「あはは、私も舐められたものだ」


「笑い事じゃありませんよ!!真凛亜ちゃんは明らかに保護されるべき対象です。だけど、現状それがされていないってことは、それなりの理由があるということになる。…だから、オレは思い切って聞いてみたんです。お父さんのお仕事のことやご飯のこと、どうしているのかって」


「えらく直球じゃないか。それで、真凛亜ちゃんは何て答えたのかな?」


「お仕事については分かりませんでしたが…ご飯に関しては教えてくれましたよ。ご近所の人が持ってきてくれるって、それもただのご近所の人ではなくーー交番のお兄さんが持って来てくれるんだそうです。これって、もしかしてあなたが仕向けたんじゃないんですか?」


「……子供がゆえに素直すぎるっていうのも、なかなか罪なものだね」


「で、実際のところどうなんですか。」


「ご名答。もちろんそれは私が仕向けたとも言えるね。でも、それがどうして母親のことと繋がるんだい?」


「・・・ここから先はあくまで推測ですよ。」


「構わないさ、キミの考えをただ述べれば良い」


「…この時点で、少なからず貴方は警察と何かしらの繋がりがあることは明確です。だけどあなたは…真凛亜ちゃんの現状を知っているのにもかかわらず保護しようとはしなかった。オレは、ここに大きな疑問を感じたんです。貴方は警察を動かせる立場でありながら、保護をしなかった。その理由は、一つしかありません。」


「・・・・・」


「あなたは真凛亜ちゃんの母親について、都合の悪い何かに気付いてしまったんですよね?」


「・・・・・・」


「ただこれはあくまで警察にとって都合が悪いのではなく、探偵…あなたにとって都合が悪かった。違いますか?」


「・・・・・・・」



探偵は何も答えようとはしなかった。

顔を伏せ、表情すらも見せようとはしない。


そして探偵は顔を伏せたまま、ゆっくりとした口調で次のことを言った。



「……これで、一つ目は以上かな?」


「そうですけど…何か言うことはないんですか」


「その前に、キミはまだ全てを話してはいない。私の答えを聞くのはその後でも構わないだろう?なぁに、安心したまえ。私は逃げも隠れもしない。思ったことを、そのまま言ってくれればいいよ」



気になる言い方をしつつも、やはり探偵は探偵というべきなんだろう。


…やはり、探偵は気付いている。


許せない理由は、この二つ目にこそあるということに。

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