第1章:名探偵と美少女と召使い

 


「は…?」


「というか、キミとそんな約束なんてしたつもりないしね」


「え、いやいや…いくらなんでも往生際が悪いんじゃないですか?だって、教えて欲しい言ったじゃないですか…」


「ああ、確かにそれは言ったね。けど、それとこれとは話が別だろ?そもそも約束するなんて言葉は吐いちゃいないぜ?」


「ふ…ふざけないでください!!アンタ、言ってたじゃないですか!!オレが話したら、真凛亜ちゃんに話すって…!!」


「いや?そんなこと一言も言ってないよ」


「なっ…!!?」



ふつふつと抑えきれない怒りが湧いてくる。

もはや、感情に身を任せるしかなかった。


カッとなったオレは勢いよく探偵の胸ぐらに掴みかかった。



「いったいなぁ…いくらキミが感情的になりやすいからって、手を出すのはちょっとお門違いなんじゃないか?」


「なんとでも言ってください。何なら後で然るべき処置をすれば良いんですよ」


「へぇ…言ってくれるね。普通は言えないよ、そんなこと」


「・・・誤魔化さないでください。オレは怒っているんですッ!」


「……最初に言ったはずだよね?召使いくんはただ見てるだけでいいって。キミだって、それは了承していたじゃないか」


「だからって、あなたがやっていることを見過ごせって言うんですかッ!!」



…本当は、これ以上関わるつもりなんてなかった。

けど、探偵のこの態度。

いくらなんでもこれは…酷すぎる。



「あなたがやっていること、ね…」


「……本当は、こんなこと最後の最後まで言うつもりはありませんでした。」


「だろうね、今のキミは感情に任せてただ言葉を吐いているだけだ。だからこそ、これはキミの本音とも言える」



そうして、探偵は掴み掛かっているオレの手をゆっくりと下ろしていった。

何事も無かったみたいに探偵はあくまでも気丈に振る舞っていた。


そう、それはまるで確信を得たとでも言いたげな…

何もかもを見据えたみたいにそんな表情をオレに向けて、そのまま話し始めたのだ。



「……なにが、言いたいんですか」


「…母親のことだよ。もちろん、それはキミの母親じゃなくて真凛亜ちゃんの母親さ。キミはそれが知りたかったんだろう?」


「…いちいち嫌味を言わないと、まともに話も出来ないんですか」


「別に嫌味を言ってるつもりはないよ。キミは真凛亜ちゃんの母親の何かに気付いてしまった。だからこそ、見過ごせないなんて言葉が出たんだろ?」


「別に…それだけじゃ、ありませんよ…っ」


「そう…もちろん、それだけじゃない。召使いくんがこんなにも感情的になる理由は他にある。・・キミはもっと、重要なことに気付いたんだよね?」


「……っ!」



なんなんだ、この…余裕があるさまは。

オレの返答なんて、想定内と言わんばかりだ。



「ほら、さっさと私に教えてくれないかな。キミが気付いた…その、二つのことをさ」



そして、それは明らかにオレを試そうとしているのが目で見えて分かった。


探偵は…どういうつもりなんだろうか。

真意は分からない。

けど、アンタがその気ならオレだって引くつもりはない。


オレは、もう迷わない。

真凛亜ちゃんのためにも、関わるべきじゃないってそう思っていた。


けど知ってしまったら、気付いてしまったら後には引けない。

真凛亜ちゃんのためにも、全力でぶつかるしかないのだから。



「…後悔しても知りませんよ。探偵」

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