006;キャラクターメイキング.04(姫七夕)

 ぴこん。ぼくにしか聞こえないシステム音が鳴り響きました。この音は、ぼくの経歴を左右する発言が認められた時の音です。


「そうか……あんた、何をやったんだ?」

「いえ……これと言って、お話しするようなことじゃ無いんですけど……」


 ぴこん。たぶんこれから決定するぼくの経歴欄に、『取り立てて話すことでは無いが【黄金の双翼亭】と軽くモメた』なんて文字列が記載されるのでしょう。このゲーム、経歴は多少言ったもの勝ちなところがありますから。


「それで……登録、してくださいますか?」

「あ、ああ! 大歓迎だとも! ちょっと待っててくれ、今登録用紙を……」

「お父さん! もう用意してるよ!」

「おお、ありがとう! さぁ、これに書いてくれ!」


 ぼくはにこりと微笑みかけ、差し出された用紙に目を落としました。

 真っ新な羊皮紙にはいくつか欄があり、手渡されたペンの先端をぽちょりとインク瓶に浸けます。



◆]キャラクター名を決定してください[◆



 もう10年も前から使っている大事な名前を、ぼくはさらさらとそこに書きました。

 軽快な筆記音が気分を盛り上げ、荒波のようにわくわくが押し寄せます。



◆]キャラクター名:

  セヴン でよろしいですか?[◆



 ぼくは静かにこくりと頷きます。



◆]キャラクターの経歴を決定します。

  選択肢を選んで項目を埋めてください[◆



 再び身体の自由が奪われ、ぼくの視界に選択肢が浮上ポップアップしました。

 このキャラクターがどうやってこれまで生きてきて、そしてどうして今冒険者になろうとしているのか。それを、選択肢を選んで決めていくのです。

 選択肢はほぼほぼランダムですが、チュートリアルも含めたここまでのぼくの行動次第で多少変化もします。

 特にぼくはすでに『この国の最大手ギルドとちょっとモメた』ことを示唆していますから、四つ目の選択肢辺りでその辺の詳細を決めることになるでしょう。


 そうして選択肢を全て選びきった結果、セヴンというキャラクターの経歴はこんな感じになりました。



◆]セヴン の経歴;

  ダーラカ王立遺跡調査員である父とジプシーである母との一夜限りの秘め事の結果生まれたセヴン。

  大陸各地を転々としていたセヴンと母だったが、母が流行り病に冒され亡くなると、王立遺跡調査員である父を頼って再びダーラカの地に舞い戻った。

  しかし告げられたのは、盗掘を行う旅団に抗って遺跡の中で発見された父の訃報。

  寄る辺を失くしたセヴンは生きていくため、冒険者を志す。

  しかし最初に登録したギルド【黄金の双翼亭】のマスターとひと悶着を起こし登録解除される。

  順風満帆と思われたセヴンの真上にどす黒い暗雲が立ち込め始めた……[◆



 うん、何やら重めですね! 天涯孤独&追放スタートということでしょうか! いきなり暗雲立ち込めました! 強い日差しに曝されながら走って来たんですけどね!


 でも何を隠そうこのゲーム、基本的にプレイヤーキャラクターに身内はいなくなるように出来ているんです。だからぼくのこの経歴も、よくあると言えばよくあるものですし、ギルドから登録解除されたのもそういう風に仕向けたのはぼくなのでしょうがありません。


 ちなみにぼくの父は亡くなってはいますが――このゲームの中ではですよ!――王立遺跡調査員だったとのことなので、その辺りに顔が利きそうですし、また母も生前はジプシーだったとのことなので、旅芸人の一座にもしかしたら繋がりが期待できるかもしれません。



◆]キャラクターの名前を決定しました[◆

◆]キャラクターの経歴を決定しました[◆

◆]経歴の決定に伴い

  〈冒険者登録証〉を獲得しました[◆

◆]キャラクターが完成しました[◆



 華やかなファンファーレが鳴り響きますが、これもぼくにしか聞こえない音楽です。

 そしてぼくは、記入を終えた羊皮紙をカウンターの向こう側にいるおじさんに渡して、先程システムアナウンスにもあった通り、いつの間にかポケットの中に入っていた〈冒険者登録証〉を取り出して差し出しました。


 掌に収まるサイズの真っ白な金属板がきらりと照り返ります。この薄さ約1ミリメートル・縦約54ミリメートル・横約86ミリメートルの小さなカードの中に、“セヴン”というキャラクターの様々な情報データが詰まっていて、そしてこのカードを失くすとものすごく大変なことになっちゃいます。お叱りを受けるとかそういうレベルじゃないです。

 キャッシュカードとしても使うことになりますから、これを狙う賊もいるくらいなのです。用心するに越したことが無いのです。


「はい、登録情報の上書き、終わったよ」

「ありがとうございます!」


 おじさんから登録証を受け取り、再び懐に大事に入れます。

 本来であればおじさんから登録証を貰うのですが、ぼくは経歴上すでに一度【黄金の双翼亭】で登録した経緯がありますから、すでに持っているというわけです。


「お父さん! 二年ぶりの登録者なんだから、絶対の絶対の絶っっっ対に嫌われちゃ駄目だよ!」


 そばかすちゃん、丸聞こえなんですよねぇ……嫌いになる予定も無いのでいいんですけど。


「お、おう……うおっほん!」


 そしてひとつ咳払いをしたおじさんが、その握りこぶしを左胸にドンと置きました。左手は腰に当て、なかなか様になっているじゃないですか。


「俺はこの冒険者ギルド【砂海の人魚亭】のギルドマスター、エンツィオ・ジンジャーバックだ!」

「そしてあたいがこのギルドの看板娘、ジーナ・ジンジャーバックっすよ!」

「「よろしく!」」


 バーン、と派手な効果音が聞こえましたが、これは流石に二人にも聞こえてるんじゃないでしょうか……


「よ、よろしくお願いします……」


 告げて右手を差し出すと、その手を二人に両手で捕まれてにぎにぎぶんぶんされました。

 ちょっと勢いがあり過ぎて若干怖い感じもありますが、でもぼくはこの二人が好きなので、これからこのギルドを盛り上げていく日々がわくわくで楽しみです。


「よし、じゃあ使い魔ファミリアを貸与するか!」


 エンツィオさんが張り切って裏手に駆け込んでいきました。

 使い魔ファミリアというのは、このゲームにおいてキャラクターの補助を行うマスコット的存在の生き物さんで、主に荷物を預かったり、遠方にいると連絡を取ったりする時に使う、とってもスマートな魔物さんなのです。



◆]〈使い魔ファミリア引換券(S)〉を消費して

  使い魔ファミリアを召喚しますか?[◆



 そしてぼくは第二回ベータテスト参加の際に、使い魔ファミリアをSランクの状態で召喚できる引換券をテスト参加のお礼として貰っていました!


 ポケットから取り出したその引換券をびりりと破ると、真っ二つになった細長いふたつの紙片それぞれに虹色の耀きが灯り、ぼくの手を離れてくるくると宙を舞ったと思いましたら、ひとつに合わさってズドンとぼくの目の前の足元に落ちました!

 光の落ちた床には虹色の耀きで構成された魔法円が現れ、円に囲まれた幾何学模様がぐるぐると回っています。


「わわわ、なんですかこれ!」

使い魔ファミリアの召喚!? セヴンちゃんあんた本当に、何をして来たんだってんだ!?」


 そして一瞬、劈くような光が辺りを真っ白に染めたかと思うと、消えた魔法円のあった床の上には、ぼくの膝までの大きさの、牛みたいな模様を持った豚ちゃんがいたのでした。


「ぷきっ!」


 か、か、か……Kawaii!!


「ぷきゅっ?」

好可愛ハオクーアイ!!」

「ぶぎゅー!?」


 その愛らしさに思わずぼくは豚ちゃんを抱き締めました。ああ、ごめんなさい、ごめんなさい、痛かったですよね? 吃驚しましたよね? でもKawaiiんですもん。しょうがないんです。



◆]使い魔ファミリアを獲得しました[◆

◆]使い魔ファミリアに名前を付けましょう[◆



 そうでした! 流石に荷物使い魔の名前までは考えていませんでした……

 でもこういう場合はジャパニメーションの歴史を踏襲し、ずばり“食べ物の名前”がベストです!

 何にしましょうか……ピロシキ、ポテト、ぼたん……ぼたんは惜しいですね。でもこの仔はあくまで“豚”なので、“猪”では無いので……来ましたっ! インスピレーション!


「きみの名前は、ずばり“モモ”ですっ!」

「ぷぎゅっ!?」

「おっ!? いい名前じゃないか!」

「可愛いっ! モモちゃんかぁ……」

「ぷぎぷぎっ!」


 ふふ、この仔もちゃんと喜んでくれています。



「これからよろしくね、モモっ!」

「ぷぎゅっ!」


 ぼくは座り込んでその小さな頭を撫でました。やや硬いごわごわの毛並みがチクチクとしますが、何だかそれも含めて愛しい気になります。



◆]使い魔ファミリアの名前を

  モモ に決定しました[◆


◆]お疲れ様でした。これで全ての

  メイキング項目が完了しました[◆


◆]データ保存中……[◆

◆]サーバーに接続中……[◆

◆]……サーバーに接続しました[◆


◆]メインクエストを解放しました[◆

◆]サブクエストを解放しました[◆

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