第34話 序盤戦

 フォールの町にいる冒険者は、それほど強くは無い。

 それは、普段から付近に出てくる魔物が強くないものばかりで、出てきてもオーガぐらいなので、より上を目指す者、強くなりたいものはある程度経験を積むと別の町へと旅立ってしまうからだ。

 とはいえ、ギルドマスターのように強力な力を持つものや、そこまでではないまでもA級、B級の冒険者はいて、その彼らの活躍のおかげで防衛線は保たれていた。


 中でも一番の激戦区で、誰よりも活躍していたのは、勇と練の二人だった。

 もともと勇は、フォールの町でも屈指の実力という事で周囲からも仕事をしてくれるだろうと期待されてはいたし、その勇に負けてられるかと奮起した周囲の冒険者も普段以上に力を振り絞って全体でかなりの戦果を挙げていた。

 しかし、そうなればもちろん問題になるのが武器の損耗で、中には自分の持っていた武器が壊れたり、刃こぼれを起こして使い物にならなくなってしまうものもいたのだが、彼らには武器が無くなるとすぐに補充してくれる、練が後ろについていた。


 練自身も縦横無尽に飛び回る武器を操り、辺りのゴブリンを一掃していくので、彼らの周囲だけやけに敵影も少なく、余裕をもって戦うことが出来ていた。

 ちなみに、ギルドマスターは練のことを動く武器庫としか思っていなかったので、それ以上に練がゴブリンを倒していく姿には頼もしいものを感じていた。


 とはいえ、それは傍から見た場合のことで、練は正直なところかなり厳しい状況だった。

 もともと戦闘向きの女神がついているのではなく、生産向け、しかもひとつ前の村から急がなければと思って寝る時間を返上して走ってきていたので体力も落ちており、周りには絶えることなく襲い掛かってくる無数のゴブリン、そして知り合ったばかりの、ほぼ他人に囲まれていて、唯一心を許せる愛斗とは離れた位置に配置、しかも今のところ印象最悪な勇と共に行動しているという事が、練にはかなりのストレスとなっていた。


(いらいらいらいらいらいらするなぁ、もう!)


「喰らえ!」


 練が腕を振ると、それに追従するように何本もの剣が宙を舞い、そしてゴブリンたちへと殺到していった。

 もう何度目かも分からないぐらいに腕を振り回し、剣たちを飛ばし続けていたが、未だに練の目にはゴブリンが減っているようには思えなかった。


 うんざりしながら、練は再び剣を自分の周囲に戻すと、またゴブリンの集まっている場所に向けて、たくさんの剣を打ちだしていった。



「よっし、ゴブリンどもかかってこいやぁ!」


 一度控えていた他のものと交代して休憩をとった勇は、再び声を張り上げて最前線へと走っていった。

 ここまで、最も多くのゴブリンを殺しているのは実は勇で、単身ゴブリンの間に入って行くと、自分の背丈ほどもありそうな巨大な剣を振り回し、ゴブリンを倒していっていた。

 最初はここまで危ない戦い方をしていたわけではないのだが、練の予想外の活躍に中てられて、危険ではあってもこのような戦い方をするようになっていた。

 しかし、結果として、分かりやすく暴れている勇がいるというのは周囲の冒険者たちにも心を奮い立たせる役目を果たしており、それでやる気を出している冒険者たちが冒険者の不足している地域へと移動し、鼓舞して回りながらそちらの戦線に参加することで、徐々に盛り返してきていた。

 もちろん、勇自身はそんなこと考えておらず、練も頑張っているし、自分ももっと頑張らなければ、と勝手に燃えているだけだったが。

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