第22話 少女が仲間になりたそうにこちらを見ている。仲間にしますか?

 ゴクッ


 何か液体が喉を通る感覚で愛斗は目が覚めた。


「うぐぅ!? ……痛ぅ……」


 何があったかすぐには思い出せずに立ち上がろうとして、全身を襲う痛みに何があったのか、思い出した。

 そしてすぐに現状把握しようとゆっくりと周囲を見渡そうとしたところで、少女の姿が目に入った。

 少女も愛斗が目を覚ましたことに気が付いたようで、声をかけてきた。


「……気が付いた?」


「……ああ、君が治療してくれたのか?」


「一応は、ね。色々と気になることはあったけれど、命の恩人だし、とりあえず回復薬持ってたみたいだし、それを飲ませただけだけど」


 少しぶっきらぼうに少女はそう言うと、じっとこちらを見て来た。


「えっと…………そうだ、俺は愛斗。君は?」


 少女はこちらを見るだけで気まずくなり始めたところで、愛斗は自己紹介もしていなかったことを思い出した。


不破練ふわ れん。女神に連れてこられた勇者の一人。……君もそうでしょ?」


 少女の自己紹介、そして驚きの事実に次は愛斗が彼女を見つめることになってしまった。

 目の前の少女、練は確かに黒髪で、言われてみれば異世界で出会ったどんな人とも顔の系統が似通っていない、むしろ日本人の愛斗と近しいものを感じた。


「……あれ? もしかして今ってピンチ?」


『そんなことは無いと思いますよ』


「! フローリア様!」


 現在の状況を正しく理解したところで、目の前に勇者、そして自分は動けないこの状況はまずいのではないか、とようやく思い至った。

 その思いのままつい呟いてしまうと、すぐに女神、フローリアから否定の言葉が返って来た。


『目の前の彼女は、危険な森の中でありながらも倒れた貴方の治療をしてくれていたのだし、どうにかするなら既に貴方の命は無かったと思いますよ。……それに、その少女がどこまでやる気があるのか分からないですし』


「? それってどういう……?」


『そこからはあたいが説明しよう!』


「「『っ!?』」」


 愛斗がフローリアから話を聞こうとしていたところでいきなり、活発そうな感じの声が聞こえてきてそこにいた全員が驚いて固まってしまった。

 愛斗は声のした方向を探そうときょろきょろしたがどこにも姿は無く、そして驚きはしていたものの正体が分かっている様子だった練を見てようやく練の女神様だと理解した。


『練ちゃん、元気にやってる? フローリアは久しぶり! 女神会議以来だね! そして愛斗君は初めましてだね、あたいは技の女神、ヘパイスティア! そこの練ちゃんの女神って言えばいいかな?』


「見てたんだから元気かどうかぐらい分かるでしょう?」


『久しぶりって、貴女あの時寝てたじゃない。たまにはまともに話し合いに参加しなさいよ』


『あーあーあー聞こえなーい! とりあえず、愛斗君、私の練ちゃんを助けてくれてありがとね。それで、練ちゃんのやる気がないかもって話だけど、それはあたいがそんなこと求めてないからだよ!』


「求めてないって、何故ですか? 女神同士で意見が合わなくて喧嘩になったんじゃ?」


『うん、それは間違ってないよ! けど、それで喧嘩してるのって、ちゃんとしてる女神たちが、方針の違いで喧嘩してるだけで、あたいは別にどうでもいいんだよね。あたいはあたいで別で仕事があるし、それが出来ればどの女神が勝とうが興味が無いんだ! ……ただ、一応は女神全員が一人ずつ勇者を呼ぶってことになってたから、練ちゃんを呼んだけど、練ちゃんにも同じ話をして、そのうえで好きに生きていいって言ってるからね!』


「それでまさか、すぐに戦いたがりの勇者に襲われかけて、逃げることになるとは思わなかったけどね……」


『まだ何も準備出来てなかったし、タイミング悪かったね~。その後オークにも会っちゃうし』


 練とヘパイスティアの会話を聞きながら、流石に練の状況には同情する気持ちが浮かんだ。


「……なんか、他の女神様って怖いのかなって思ってましたけど、意外と自由な人もいるんですね」


『そうね……。ヘパイスティアとか、あと他にも何柱かいるけれど、世界とかどうでもいい、みたいな女神もいるから、いつも話し合いがまとまらないのです……』


「……女神様も大変なんですね」


 愛斗がフローリアと話していると、ヘパイスティアは練と話し終わったのか愛斗たちへと話しかけて来た。


『さて、それじゃあ、本題に戻ろうか。あたいは誰が勝つのか、どうでもいいのさ。誰がトップになろうと、あたいのやることは変わらないし、どうせ自由にやるだけだからね。だから、とりあえずあたいは気の合いそうな子を探して、練ちゃんに力を授けたのさ』


「まあ……何となくは分かりましたけど、それで、ヘパイスティア様は何で今出て来たんですか? 一応、フローリア様もあまり干渉は出来ないって言ってたんですけど」


『そりゃ、今が大事な時だからにきまってるだろう? あたいとしては練ちゃんには長く楽しく生きて欲しいけど、この子戦いには向いていないから、仲間がいるに越したことは無いだろう? それに、フローリアが選んだ子ならいい子だろうしね。分かりやすく言うなら、あたいはフローリアと同盟? 協力関係? まあ、そんな感じになろうかなってね』



 ……意外と早く、そして平和に一人目の他の勇者と同盟を結ぶことになるのだった。

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