第7話 成長期③ 永遠の3分

中学1年の夏、プール開きの日


人一倍元気な奴がいた。走って早めについた男子更衣室で、はしゃぐそれは僕だ!


「ヒカル、竜二!僕が本物の海の男って物を教えてやんよ!」


「や、カガミここ海水じゃないんだけど。」とヒカル


「俺傷がダサいからプール嫌なんだけど~」と脱ぎ掛けの竜二が言って・・・

 

 なんとこの短い期間でヒカルとネネちゃんと、もちろん竜二の4人は飛躍的に仲良くなった!


僕は中二で学ぶはずの【数学の証明】よりも先にボッチ体質じゃないって事を中一の時点で早くも【証明】できたんだ!


「どれどれ、わしに見せてみんしゃい。」と僕が寄っていくとまぁ立派な胸板のど真ん中に大きな傷の跡があった。


(やっべー男の傷じゃん!ゲームの主人公じゃん!)それに比べて俺なんて脇の下に1センチくらいしか無い傷で、はっきり言って見えない。


ヒカルの反応はと言うと

「あ、それ!一緒一緒!僕もネネ(妹)もあるよ!」と全く動じず。


僕は急にテンションが下がって

「や、ほんとごめんなさい」と言い会話から離脱しそうになったが


「「え?」」 竜二と僕は聞き漏らさなかった。

「や、だから、まぁ見てよ、脱ぐわ」とヒカル


ヒカルが着替えたその体は竜二と同じく胸のど真ん中 正中に10センチほどの縦の傷跡があった。

竜二の反応は「ヒカルもセンテンセイシンシッカンか?」


一方、僕は「ネネちゃんも同じ場所なのか?」

 ほぼ同時に質問されて、ヒカルは返事する方を考えた。そして僕の股間を見つめて溜息を付きその後 暫く無視。


竜二への対応に変わった。


ヒカルは「竜二もそうだったなんて知らなかったよ。ここら辺は子供の治療目的で住んでる家族多いもんね」って言ってたので(そーなんだ)と初めて知った。


竜二は「ヒカルを病院で見たことがあったかも知れない、サングラスかけてた??」って聞くと

「そうそう!あの頃の写真見たけどベビーギャングみたいだったよね、ハズイよ。」とクシャっと笑って、「でもあの時。」と言った。


 【先天性心疾患】 病院で何度も聞いて自分はダメな子なんだ、弱い子なんだ、母さんと父さんに迷惑をかけてる悪い子なんだ と思ってしまう記憶が植え付けられた苦手ワードだ。


ここで「はいはーい僕もでーす!!」って言ってもネネちゃんの裸を想像してる発情期の戯言を今の真剣な二人が聞いてくれないような気がして、先天性心疾患だった事をついつい隠してしまった。


 僕たちが住んでいる市で大きな病院と言えば、大学病院 国立病院 そしてアティウスメディカルセンターの3つが挙がる。

最後に言った一番近い病院に僕らは小さな頃からお世話になっていたのだ。


竜二が続きを聞きたそうにしてると他の男子たちがワラワラ更衣室に入って二人の傷を見てワーワーなっていた。着替え終わった頃に来た先生が 

「溺れるなよー。」って言いながら多分久しぶりに稼働するであろう脱水機のコンセントを指して、

「1年生には初めていうが、終わったら脱水機使って良いからなー、ここの説明よく読んで順番守る事!10秒くらいで脱水できるからさっさと次の人に譲る事!」って言ってきた。

生徒もみんなも「は~い。」と適当な返事で答える。


準備体操をしてプールに入るとまだやっぱり冷たくってブルっとなったが、プールの塩分濃度を上げる液体を放出しなかった自分を褒めてあげたい。


竜二はあんまり得意じゃなくて「カガミー助けてー!」って掴んできた。よっぽど怖かったのか僕にぴったりで「しゃーねーなー!」と僕も元の調子に戻って

手取り足取り教えますか?と言おうとした時、何だか不安という事がうっすらだが初めて感じられた。


「え?竜二なんかした??」って聞いても竜二は僕が安心なのか離れずに首を振るだけ。

水の中で人に掴まれると何だか今まで感じたことの無いコワさってやつが起こると知ってしまった記念すべき【怖さ体験デー】となった。 


初日と言うこともあり体操の後はフリーでバシャバシャやっていたのだが、気付いたことがもう1つ。 


うまく説明できないけどをどういう訳か感じることが出来た。


何人いるか、どのくらいの距離にいるか、どんな動きをしているか、サーモグラフィを見て把握するように水の中で目をつぶってもまっすぐ泳げる様な感覚だった。ビックリしたが楽しかった。


もちろんこの能力をすぐ使いこなして、ネネちゃんを探し、水中でボディラインを見ていたのだが、水から顔を出した瞬間、ネネちゃんと目が合った。

怒ってはいないけど、メッチャ嫌そうだった。


竜二にも

「それやめとけよ。」って反対され、あれ?今まで出来なかっただけでこれって中学生はみんな出来る事なんだ。と思った。


今日僕は進化したのだ!何で経験値を得たのかって?おそらく想像上だがネネちゃんのハダ#”$ いややめておこう。


兄のヒカルは水泳がメチャクチャ上手かった。先ほどは調子乗ってすいませんでした。あともうネネちゃん見ないからそんな怒らないで!コワい!


プールが終わり最後の体操をしていた時 唐突に男子更衣室で騒ぎが起きるようなビジョンが見えた。

「竜二!ヒカル!更衣室行くのちょっと待って!」いつも自分勝手な僕だが、二人がいつもと違う空気を感じてくれた事が本当に嬉しかった。


 「カガミ!どしたん?!」 「更衣室がどーかしたの?」 

(どうしよううまく説明できないや。あぁ何て言えばいいんだろう。)とその時 竜二が、続けてヒカルが更衣室を睨んで


「「ん?」」


「先生!!更衣室なんか電気の感じがする!危ないかもです!」


「先生僕も変な音が聞こえます!そこ入らない方がいいです」って言ってくれた。


先生は

「え?ほんと?」

と言いながら生徒を待機させ、長靴を履いて確認しにいったらホントに脱水機が壊れて漏電していた事に気付いた。


「原君・佐井寺君危ないとこだったよ!ありがとう!」って言われて。僕も2人に(ありがとう)って、口にはしなかったけど思ったんだ。


 今日は念のため男子更衣室は使わず、先生に荷物だけ持ってきてもらって、全員着替え終わったで着替えをしたのだが、


何だか男子たちは悪いことをしている気分になってほっぺを赤らめながらそそくさとクラスへと帰って行った。


一方、僕たち三人は

「諸君!またとないチャンスだ!」

「ヒャッホー!!」

「いいの?!大丈夫なの!?」と言って持ってもいないスマホを使ったエアヌード撮影会をしていた!


しかし、パシャパシャ言いながら盛り上がって時間と場所を忘れてしまい、次のクラスの女子が通報したせいで、すぐに飛んできた女性教師に

で3人横一列に並ばされ3分ほど説教を受けた。


色んな体験をした思い出に残る日だったが、締めくくりがこれだったので、本日のトピックスが上書きされた。


後に3人は屈辱であの日の出来事をこう呼ぶようになった


【永遠の3分】と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る