第6話 成長期② ふたつの目

【原】と書かれた縦書きの表札の近くにあるピンポンを押して

「りゅーじーいこーぜー」と誘う朝、中学1年生12歳の春である。


中学になり学ランに着られた感じで登校が始まった。周りのみんながダボってる状況下で制服の襟が痛くて気になっていたが。僕よりヤバいやつがいた、首が赤くなって明らかにかぶれてる竜二を心配して

「それ痛いんじゃね?」って聞くと「え?何が?」って返事でお肌の荒れが、彼自身わかって無かった。


竜二と話してるとたまに本人が気にし無さ過ぎて、自分が心配性なんじゃ無いかと思う時が多々あった。


 竜二の兄ちゃんは無事私学の難関なんかん校を突破し、はや2年が過ぎこの春でもう中学3年生になっていた。今や高校受験の勉強が始められていたのに対し、僕らは義務教育だから試験は無かったのがさいわい軟感なんかん中学の公立に無事入学。当たり前だけどね。なんと同じクラスだった!


喜んだのも束の間、僕に試練が訪れた。

竜二の遅刻に巻き添えを食らって遅れて登校した日だ。

門の柵を登って登校した所を教室まで付いてきた厳つい体育教師に怒られたのだ。


僕としては不満もあった、「いや竜二!お前が謝れよ!」って言いたかったけど、竜二には後ほど説明するがイケメン補正がかかり、主にヘイトは僕にかかっていた。


竜二と僕は「すいません。」と普通に謝ったハズだったが、それでも怒りたかったのか、僕の全く態度にイラついたのか、新入生への見せしめなのかわからないが体育教師は何かしらの文句をつけて僕らを怒鳴り出した。


そこでついつい一言、いらない言葉を口にしてしまったんだ。


「先生、気が済むまで謝りますんで、怒鳴るのはやめましょうよ、みんな引いてますよ。」


僕的には実に平和的な解決法だと思った。


 でもその言葉が体育教師の火に油を注いだんだ。


担任の先生と竜二が止めに入るまで教師とは思えない言葉の数々をに言ってきて

気分の悪い大変な一日となったが、話はそれだけでは終わらない。


 一週間後、体育教師はクビになっていた。退職じゃない、クビだ。



ゴールデンウイーク明けの5月に来る家庭訪問で担任の先生が母さんに懸念事項をものすごく丁寧に、そしてマイルドに説明してきた時、母さんは

「体が健康なら他は良いです。」と一刀両断し教師のブラックリストに載った気がしたが、内容はわかっていた。


竜二以外の他の友達を作っていなかったせいもあり、また体育教師をほふった疑惑が掛かって若干浮いた存在として扱われているらしい。

僕本人としても好きでやったわけじゃないし、友達も選んでるわけじゃないけどまぁボッチは避けたいよね。


一方竜二はクラスの人気者だった。そもそも身体が無茶苦茶強い。二次成長期を満喫しすぎていた。性格は変わらず温厚、いやそれ一人では持て無いだろ!って荷物も職員室まで楽々持っていく体格のいい中学1年で、それにあやかって僕の友達がぐんぐん増えた!

かと言うと残念ながら 横軸が時間 縦軸が人数の棒グラフで表すと 見事に1人の高さで水平チョップだった。


しかしキッカケは自分から掴みに行くもの!


6月梅雨の真っ只中に下駄箱近くで下校を足止めされている男女2人がいた。 僕の右手には傘一本。

こーゆーシーンは奴らに任せよう 久々に出てこい!内なるカガミよ!!


もわわわわ~ん

カガミ天使:「傘も大きいですしあの二人に貸してあげるのです。あなたが傘を使うと1人分、バカップルが使うと2人分の雨を避けることができます。バカでもなければどちらが正しいか、わかりますよね?」


カガミ悪魔:「まずあいつらは一つの傘でイチャイチャしたい。わかるよな?そこに付け入るんだ!爽やかに傘を貸して恩を売り、天道っていい奴なんだぜっていうポイントを稼ぐゲームだと思え!バカップルだぞポイント2倍だぞ!」


ついに僕は答えを出して小声で「仰せのままに。」と言うと、バカップルの元へ寄って行った。

平常心だ、収まれ心拍数!


「傘よかったらどうぞ!」

言えた!ここから始まる僕のハッピー学園ライフ!と思っていたのだが・・・


途中であれ?カップルじゃないじゃん!って気づいた。同じクラスの双子の兄妹だったんだ。


彼らは不良でもなく、僕みたいにやらかしちゃった訳でもない。あんまり良い言い方じゃないけど障害者として先生からもクラスの子たちからも見られていた。

あの竜二でさえも積極的には声をかけない佐井寺兄妹さいでらきょうだいだった。


兄は右目が見えなくって 右耳が聞こえない

佐井寺 ひかる


妹は左目が見えなくって 左耳が聞こえない

佐井寺 音々ねね   


入学すぐの自己紹介で本人らの口から説明されたが最後、そのことについて踏み込んで聞くやつがいなくなる程、自分たちの世界に収まっていた。お互い見えない方の目はつぶっていたけどそんな悲しい過去が!と勝手に解釈した記憶がある。そんな印象だった。


2人はギュっと手を繋ぎ雨宿りしていたが、僕が近寄っていくのと同時に来るのを察知したかの如く兄の方は妹を守る様に位置取り、口を動かして何かを話していた。僕の声に妹だけはびくっとして少し警戒された。


僕としてはクラスのほかの奴らより二人の世界を持っている佐井寺兄妹の方がシンパシーを感じていたので傘レンタルプランは続行で話を進めたかった。

兄のヒカルは「ありがと。。。ホントに借りていいの?」と聞き返してきたが

妹のネネは「天道君濡れちゃうじゃん!だめだよぉ~」って言ってもじもじしているがめっちゃ小さい声で可愛かった。

クラスの変人こと、天道君(僕)が突然話しかけても驚かない兄ヒカルは同い年だが年上のように見えた。自分で言うと悲しいぜ。


【ヒカルは傘を借りに右手を出してくるだろうな】 そんなビジョンが見えた僕は 「ドゾドゾ」と言って予想された場所に傘を突き出し渡し、受けっとってくれたのを確認してから、颯爽とその場から去り 雨に打たれながらかっこよく帰ろうとしたが、ラッキーな事に日直の仕事を終えた竜二を見つけて

「ナイス竜二!!」と言って竜二の傘に寄生し 原家(竜二の家)にお邪魔しに行った。

佐井寺兄妹は「ありがとー!またあした(ね)ー」と双子らしいハモリを披露し逆方向に向かって別れた。

 この帰り道 兄妹は

「傘さぁ、天道君からはちょっと・・・原君から借りれた方が良かったなぁ。」

 「うん!って!ダメだよお兄ちゃん!聞かれたらどうするのよー!」

「大丈夫だよ、僕たちでなきゃこの距離で聞こえないよ。」

 「そうだけど、、、私たちに頑張って貸してくれたし。たぶんいい人だよ天道君。」

「まぁな、緊張してて心拍数180位あったもんな。」

 「ダメじゃん!不整脈レベルだよぉ~!!」

という会話がなされていたがその時の僕が知る由もなかった。


竜二の家にあがり制服でシューティングゲームをしながら唐突に

「カガミって佐井寺兄妹と仲良かったっけ?」

「いんや。今日初めて話した。傘貸しただけだよ。竜二は小学校一緒だったよね?」

「そっか、小学校はあの兄妹いなかったんだけど、たぶんもっと前からあの兄妹を病院でみたことあるよ、ずっと手を繋いで仲良かったの覚えてる。けど」

「けど?」

「その時たぶんヒカルはサングラスしていて、妹のネネは両目があった気がする。」ってゲーム中のくせに自分向きのピースを目にトントンっと当てる仕草をしてきた。


誰にでも声をかける気さくな竜二と佐井寺兄妹の間に壁を感じるのは竜二が何かしらの警戒をしてるからなのか? 僕達は

「事故と事件の両面で調べる必要性がありますね。」「はい警部。」と真剣な顔で見合わせ、ボスまでたどり着けずに残基がなくなったGAME OVERの画面のゲームをやめるのだった。

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