第20話 怖くて眠れない

 おぞましい。

 何故あいつがあそこにいたんだ!?

 また会いたいと気持ちの悪い顔をして俺を視姦してきた。

 吐き気がこみ上げ、夜中に吐いた。

 俺は森の家に帰るなり高熱を出し寝込んだ。

 ヨハンナも看病してくれた。


 身体が震えて眠ると奴に犯される過去の夢を見てうなされた。その度にヨハンナが起こしてくれた。


「うう…やめろ!いやだ!やめてくれ!!」

 と唸り揺さぶられる。


 *

「バルトルトさん!?しっかり!ああ、お薬ですよ?私が実家を出る時にお母様から渡された薬箱の中のものだから…安心してくださいね?」

 と水と共に差し出す。

 虚な目でバルトルトは


「ああ…」

 と言い、起こすのを補助してなんとか飲み込んだ。


「眠れるといいのですけど…」

 と言うとビクリとし震えた。そして私に抱きついた。


「嫌だ!眠りたくない!怖い!!あいつが夢にまで出るんだ!嫌だ!!怖い!怖いんだ!!」

 と子供のように怯え出した。

 私は背中をさすり


「大丈夫ですよ?落ち着いて…少し汗をかきましたね。着替えて気分良く眠りましょう!夢にあの人が出てきたら私が退治しにいきますよ!だって夢でしょ?それなら女の私でも物凄い怪力が出てあんな変態ボコボコにしてやりますから!」

 と元気付けるとバルトルトは半目になり


「な、何だそれ?夢にどうやってお前が侵入できるんだよ!バカめ」

 と言い、


「うふふ、それはバルトルトさんが頑張って私を夢に登場させるしかないですね!」

 と言うと彼は少し落ち着き綺麗な目で私を見た。

 手を取り見つめられるとドキリとするではないか。色気ムンムン過ぎる。


「ね、眠るまでこうしててくれ…」

 と赤い顔で言われ、


「はいはい、その前に着替えてくださいね」

 と綺麗な寝巻きを渡す。


「お前…ほんと口煩い家政婦だな」


「まぁ、そこは恋人でしょう?」


「ふん!恋人手前だ!」

 とか言うやり取りがおかしくなり笑う。

 バルトルトは着替えて少し安心してまた私の手を取った。


「よ、夜中にすまない…ヨハンナお前、俺の看病で…お前こそ寝ろよ?」


「はいはい、貴方が眠ったらね?」


「……つ!」

 着替えている間にシーツを取り替えておいたのでバルトルトが引っ張り私はボスんとベッドに沈み混乱する。


 彼も横になり手を繋ぎ見つめられた。

 ひ、ひーっ!何なの?やめてよ。振られまくりのモテない私にはキツいですって!!


「……ヨハンナ…」

 ボスんと彼は私を抱き寄せ目を閉じて眠り出した。

 ぎ、ぎゃー!!

 とパニックになりつつも少しして安心した寝息がしだして私もホッとした。

 どうか彼の夢にあの変態先生が出てきたら私が登場して退治できますように!!


 そうして私も眠くなり目を瞑る。


 *

 鳥の声がした。

 俺はゆっくり目を開くとガーガーと間抜けに口を開けて眠るヨハンナが隣にいてがっしり手を握っていたので驚いたがおかしくもなった。

 そういえば昨日…。


 自分の行動に少し赤くなりつつそっと手を離す。


「そう言えば怖い夢を見なかった……」

 まさかヨハンナと手を繋いで眠ったおかげか!?そ、それになんか心臓の辺りドキドキしている。病気が酷くなったか!?

 熱は…下がってると思うが…。ヨハンナを見ると心臓がきゅうと苦しくなった。

 こんなバカ面して眠っているのに。


 俺が苦しい時側にいて救ってくれる。…ヨハンナはきっと俺が今まで出会ってきた奴らと違って一番綺麗なものなのだ。誰にも穢されずそこにいる。

 俺は酷く穢されたのにそれでも側にいてくれる。こんな訳のわからない関係のままなのに。

 俺の言葉を待っててくれる。


「くっ…」

 途端に情けなくなる。先生と対峙した時怖くて震えていた自分に立ち塞がり短剣を突き出しヨハンナはきちんと俺を守ってくれた。


「……なんてことだ…俺は…」

 過去のあの男や女達に囚われすぎれている。いい加減にしろ!バチンと俺は自分の頰を叩く。


 するとヨハンナが起きた。


「んー!、バルトルトさん?熱は?」


「………下がった」


「良かった!」

 とへにゃっと笑うヨハンナにまた心臓がきゅうとした。


「しかし心臓が変だ。病気かも…」


「ええ!?お金あまりないのに?良い医者に見せないと…」


「うう、医者は嫌だ」

 変態先生が過ぎる。


「ごめんなさい…。お爺さんの先生なら大丈夫かな?」

 とヨハンナは聞いてくるが


「いや、いい。これはなんか違うから」

 と言って誤魔化す。キョトンとしつつヨハンナは


「では何か食べられる…パン粥でもつくりますよ…」

 とキッチンへ行く。

 このきゅうとする正体になんとなく察しが付いている。一緒にご飯を食べたりした。


「元気になったらお仕事できそうですか?キツいですか?今も探してるみたいだし、私が街まで何か仕事を見つけてこようかなぁ?」


「この家にお前がいなくなるのは…」

 と怯える。もしいない間にあの先生が来たら!?そう思うと恐ろしい。だが、しっかりしないと!

 いい加減怖がってばかりでは生活も成り立たないだろう。


「大丈夫だ、ちゃんと仕事はするさ……」


「バプティスト様に相談してみませんか?」

 とヨハンナは元婚約者の名を言う。


「あいつに?何故…」


「…だってそこくらいしか頼れないでしょう?あれでも顔は利くので用心棒の手配とか色々…」


「そうか…」

 ヨハンナはいろいろ考えてる。

 結局数日後に奴の家に相談に行く事になりそうだ。

 夜の帳が降りてきて俺はまた怖くなる。


「ヨハンナ…」

 カーテンの向こうで眠ろうとする彼女に声をかける。


「なんです?」

 ヒョイと顔を見せたヨハンナに


「頼む、また手を繋いで眠ってくれ!」

 とポンポンと俺のベッドに招くと


「ええ!?…でも私恋人じゃないのに…」

 と口を尖らせた。


「………恋人なら一緒に眠ってくれるのか?」

 と言うと


「そ、そりゃあねぇ…恋人なら何の問題もな、ないというか…でも…バルトルトさんまだ…」

 としぶるヨハンナに俺は立ち上がりカーテンを開ける。


「ひえっ!?」

 ヨハンナは驚いて赤くなり俺をみた。

 俺ももう覚悟を決めるぞ!!言うんだ!!

 ガシっとヨハンナの肩を掴み目を見つめ…


「ヨハンナ…お、俺は…俺はその…お、おま、お前の事がす…す…く!」

 もう少しなのに…!


「ほら、やはりまだ無理ですよ…」

 とヨハンナがすこし笑うのがムカつく。

 俺だって努力しているのに!

 彼女のが少し背も高いし少し見上げる形だが、俺はヨハンナの顔に手を置き見つめた。

 するとヨハンナはみるみると赤くなり目がキョロキョロしてこんな反応示す奴初めてみた!

 いつも俺のことを襲う奴はギラついた獲物を狙う目で恐ろしかったのに。逆に俺から目を逸らそうと彼女は必死で、また俺の心臓がきゅうとする。


 もうダメだ誤魔化せん!!

 もはや勢いだった。

 目を瞑りえいっと俺は行動に出た。ヨハンナがピクリと少し反応した。


 月明かりの下俺とヨハンナはとうとう口付けた。


 少し離し目を開けるとヨハンナは煙が出そうなくらい真っ赤になっている。

 きゅううとして俺は何故かその言葉がすらりと言えた。


「ヨハンナ…好きだ…俺と恋人になってくれ!」

 それに目を丸くして一度俺をみて直ぐに赤くなった。


「い、…言えたんですね!?」

 と確認された。


「ああ…やっと……お前にしかこんな事言わない」

 と言うとまた赤くなる。


 手を繋ぎ


「よし、じゃあ一緒に眠ってくれよ?お前が手を繋いでくれないと俺はまた悪夢を見てしまうんだ!」

 と言うと


「もう!なんなんですか!私は悪夢防止役?」

 と拗ねるのできゅううとした。

 少し笑いまた口付けた。

 大丈夫…、ヨハンナとなら…ヨハンナしか無理だ。こんな事するの。


「ふ…他にもやってみるか?」

 と笑うと


「ぎゃっ!いきなりは嫌っ!バカ!」

 とポカポカ叩かれたが最終的にはやはり手を握り静かに俺たちは眠った。

 夜はヨハンナが隣にいるからようやく悪夢から解放された。

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