七夕の前日譚

 東京と北海道。車やバス、電車や飛行機で行ける距離。けれど学生の私達にとっては天の川がかかったように遠い距離だ。

 昔と違ってビデオ電話で毎日会話が出来るし、メールだって送れる。オンラインゲームで一緒に遊んだりもできる。距離は遠いけれど心の距離を遠くしないように工夫している。けれど、これで満足かと言われたら絶対に違う。直接会って話したい。私よりも大きな手を繋いで彼の温もりを感じたい。まだ少し照れくさいけれど、キスだってしたい。直接会ってやりたいことはたくさんある。

 だから、バイト代を貯めて彼が東京へ来てくれることになったと分かった時はとても嬉しかった。会う日は七月七日。私は来る日に備えて準備を始めた。

 まずは洋服。ワンピースがいいな。花柄だと可愛すぎるかな。でも、折角のデートだから可愛いって思われたい。フリルのついたワンピース。花柄は少し控えめなものを選んだ。次にイヤリングとネックレス。鞄は……お気に入りのものにしよう。靴は、明るい色のパンプスがいい。


「あー、買った買った」


 私は喫茶店でミルクティーを頼んで、椅子に腰かける。向かいには、オシャレ好きな友達のしーちゃんが涼しい顔をしてコーヒーを飲んでいる。


「ひとまずこれだけ買えば大丈夫そうだね」

「うん。選ぶのに夢中で、午前中から集まったのに気付いたら夕方になっちゃったなあ。付き合ってもらってごめんね、しーちゃん」

「へーきへーき!悩める乙女なリンちゃんが見られて楽しかったよ」

「悩める乙女って……」

「だってそうでしょ?だーい好きなヨウヘイくんのためにああでもないこうでもないって悩んでたリンちゃんは可愛かったよ」

「もう、からかわないでよ」

「あはは、ごめんごめん」


 しーちゃんは楽しそうに笑っている。彼女も気に入った服を何着か買っている。やっぱり友達と相談しながら買い物ができてよかった。


「それにしても七月七日に会うなんてね」

「それがどうかした?」

「七夕だよ。た、な、ば、た!あんた達織姫と彦星みたいだね」


 なんちゃって、と悪戯に笑うしーちゃん。気が付かなかったけれど、そうか。七夕だ。ちょっとロマンティックな感じがしてワクワクする。


「そっか、七夕か!お願い事何にしようかな」

「どうせならヨウヘイくんにお願い事してみたら?叶えてくれるかもよ」


 しーちゃんは私がどんな願い事をすると思っているのだろうか。下世話なことを考えているのだろう。ニヤニヤとするしーちゃん。


「もう、しーちゃんってば。何考えてんの」

「そりゃあ……ねえ?」

「ねえ?じゃないよ。……でも、お願い事するのはアリだよね」

「ふうん?」

「もう、ニヤニヤしない!」

「あはは、つい楽しくって」


 しーちゃんとはそうやってじゃれ合うように話をする。よくからかわれることが多いが、それでも楽しいのは、彼女がなんだかんだ言っても世話焼きで優しいところがあるからだ。

 話をしているうちに日はすっかり落ちて、私達は解散することにした。


「明日、楽しんでね」

「うん!」


 しーちゃんと別れて帰路を進む。明日は七月七日だ。今日は長めのお風呂に浸かって身体をリラックスさせる。そうでもしないと緊張して身体がカチコチになりそうだった。決戦は明日。織姫は毎年こんな気持ちなのだろうか。そんなことを思いながら、早めにベッドへ身体を滑り込ませる。早くヨウヘイくんに会いたい。一足早く夢で逢えないかな。そんなことを思いながら私は目を閉じた。


Fin.

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