第43話 本戦出場

カタール戦を終え、日本代表はその後の試合も勝ち続け破竹の勢いと言わんばかりに最速で本戦出場を決定させる成績を残した。


世界一を決める大会といえど、この大会を楽しみにし、観戦をする人たちはサッカーに興味がある人やその家族、関係者がほとんどだが、今大会は三条傑という一人のスターが日本にもたらした嵐のおかげで全国民と言っていいほどの人たちが注目をしていた。

試合中継の視聴率は史上最高の80%を超え、ニュースはサッカーの話題で持ちきり、コメンテーターとしてサッカー解説者や専門家らが引っ張りだこだった。


そんな中、当の本人は・・・・・


「大丈夫?」


「ああ、なんとか。少し休めば治るよ」


「見えなくなる前にやめてね」


「わかってる」


カタール戦で感じた違和感も確信に変わり、悩まされていた。

二人で食事していたテーブル席では食器は片付けられていたが、机の中央付近で倒れたコップ、そのコップを取り損ねた傑の手が物語っていた。


幼少期に投与され続けた何かの薬の影響か、最近になって目が時たま見えずらくなっていた。

普段は、裸眼で十分な視力があるのだが、時折不自然なまでに視界が悪くなる。


カタール戦後も何度か試合中に見えなくなる時があったが、その瞬間以前に見ていた光景を頼りにプレーをし、得点に繋げていた。


「いつまで持ちますか?」

遥は、カタール戦後、すぐにかかりつけの医者に聞きにいった。


「そうだね、大会中は大丈夫だと思うよ。過度なストレスがかからなければだけど」


「過度なストレス・・・・・」

ストレスと聞いて思いつくことは一つだけ。

母親が関わる中国との試合。

おそらく他の試合は傑にとっては過去に触れることほどのストレスはかからないと思う。


「ストレスというものは思った以上に体に負荷がかかるからね。それが身体的であろうと、精神的であろうと。もう無理だと思った時には遅いと思った方がいい。彼の引き際は君が見つけてやってくれ」


「私が?」


「ああ、ストレスは自分ではわからないんだ。平気なふりをしている人ほど・・・・って時もあるから」


「分かりました・・・・・」

遥からしたら、今すぐにでもやめて欲しかった。

サッカーにそこまで思い入れがあるわけではない彼女にとっては、傑との生活が最優先なのだ。


同じものを見て、触って、感じる。


それが遥が傑との生活に求めるもの。

そのどれか一つでも奪われるのなら、その原因は今すぐにでも取り払いたい。


でも、傑にとってサッカーは辛い過去を思い出させる鍵であるが、それと同時に今の生活を手にさせてくれたのもサッカー。


それに、今、サッカーをやめたりなんかすれば日本だけでなく世界中から非難されること間違いなしだ。

この世界は、個人を尊重するという文化があるが、個人を非難し、個人の意思を汲み取らないのも文化となっている。


特にこの国は、有史から、いじめ体質がどの組織にも存在し、変わろうとも変えようともされないのが現状。


それは確実に傑にとってストレスとなる。


”引き際”


世間に認知され、期待を背負ったものが見極めるのに一番苦労するもの、今この時も遥を悩ませるものだ。





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