第2話 三条 傑

三条傑、16歳。今年、高校生になった一年生。


朝6時ごろに目が覚めリビングに向かうと義理の兄妹である三条遥が朝食を作り、テレビを見ていた。


「おはよ〜」


「お〜・・・」


気だるそうに返事をする。


「「いただきます」」


遥の作った朝食を食べながら朝のニュースを見ていると一際大きな話題が目に入った。


「あ〜、オリンピックか〜。高校卒業の時だね〜」


「お前、サッカー興味あったっけ?」


「いや、別に」


あっでも、とテレビを見ながら遥は話を続けた。


「佐伯って人は知ってる。五年前に19歳でプロ入りして年間MVPに選ばれて海外に行ったすごいイケメンの人でしょ?」


「お前、サッカー興味なかったんじゃないの?」


サッカーファン並みの知識を持った妹に呆れながらそう言った。


「そりゃ、友達の間でもすごい話題になるからね。いやでも耳に入ってくるよ」


「そうなのか」


ごちそうさま、と食器を片付けるために席を立った時、テレビでは話題の佐伯の記者会見が終わり、最後に一言だけ、と佐伯がカメラに向かって話していた。


「ねえ、これって・・・・・」


傑が、仕事の特殊性から普段家にいることがない義母に引き取られた理由を知っている遥は佐伯の一言を聞き顔色を伺うように尋ねた。


「さあ。興味ないね」



「はよ〜」


「おうっ傑!今日は一段とテンション低いな〜!」


「お前が高すぎるんだよ」


朝っぱらからハイテンションでいるのは、傑の数少ない友人の一人、高崎たける。彼は、この三船高校のサッカー部で一年生ながらレギュラーを勝ち取り、初の全国大会進出に貢献した。


「それよりニュース見たかよ!」


「あ〜、佐伯の?」


「そうそうそれそれ!やっぱカッケーよなあ。こう、オーラが違うって感じ?」


「なんだそれ」


抽象的な凄さの表現に呆れながら、今朝テレビ越しに見た佐伯には確かにオーラがあるのは、傑にもなんとなくわかっていた。

しかし、


「オーラだけな・・・・・」


それに伴う実力があるかは知らん。そう小さく呟いた。


いくつかの授業をこなし体育の時間になった。


「よし、今日はサッカーをやるから適当にチーム作ってくれ」


「はあ〜。よりにもよってサッカーかよ・・・・」


男子は、サッカー、女子は、バレーボールの二つに分かれ授業をしていた。


「お前ほんとサッカーになるとテンション下がるよな」


猛は、あからさまにテンションの下がっている傑にそう言った。


「普通は、上がるけどな!」


「そりゃ、サッカー部だからだろ?こちとらサッカーだけは嫌いなの」


「かあーーー。もったいねえ。運動神経は抜群なのに」


「それは関係ないだろ」


傑の身体能力は飛び抜けてよく、100M走は9秒台に届きそうなほど、瞬発力においても全国上位に必ずいるレベル、他にもジャンプ力や動体視力も飛び抜けている。


「お前、サッカー部こいよ。きっと好きになるさ」


「いやだ。サッカーだけは絶対にやらん」


その目にはまるで殺気のようなものが混じっていた。


なんとか体育の時間を切り抜けた傑は、さらにテンションが下がった状態で残りの授業を受けた。



生徒が帰宅した後、職員室で


「先生。今日はどうでした?」


「三条さん」


先生を訪ねてきたのは、三条美咲。傑の義母であり人生の恩人でもある人だった。


「ダメでしたね。体育でサッカーをしたんですが、明らかに嫌がってましたし、その後の授業にも影響が出てましたよ」


「そうですか。すみませんが引き続きお願いします」


ではこれで。と職員室を後にした。


「やはり、まだ克服できんか。まるで呪いだな」


その呟きは、誰にも聞かれることなく消えていった。

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