怪人ニシキの一念発起 4

「じゃあ振られたらその場で潔く諦めるんです?」


「それは…」


 詰問するような一言に呻き声を上げる。


「無理でしょうそんなこと。相手の気持ちを振り向かせる努力だって立派な恋愛です」


 それが茨の敷き詰められた修羅の道であることは経験上知っていたが、あえてここでは口にしない。


「もしかしたらこのあからさまな人払いは先輩を誘っているのかも知れませんよ?」


「そ、そんなことが」


「可能性はあると思いますよ」


 可能性はゼロでは無いだろう、ゼロでは。

 しかし生徒会長ニカイドウについて、ニノマエは多くを語れるほど知っているとは言い難いのも事実だった。


 才色兼備の生徒会長。一年の時から生徒会に立候補し入学当初から三年計画で生徒会長の座を狙っていたと言われている。

 真面目に過ぎず不真面目に過ぎず飄々とした朗らかな人柄は多くのひとに一目置かれている。

 だが実際に裏表なくそのような人柄なのかと言われると、付き合いの短いニノマエにはやはり判断が難しい。


 けれどもそれはさておき、結局のところ恋愛は当たらなければ成就することもない。

 これは彼女の中では真理だった。

 自分が誰かを好きになった時点で、あとは自分がやるしかないのだ。


「それに、先輩は大事なことを忘れていませんか」


 煽っていこう。ニノマエは心に決めた。


「あの美人生徒会長ですよ。誰の目にも留まる彼女を放っておいたら、次の瞬間には彼氏が出来てるかも知れませんよ?」


 たとえニカイドウがどんな人物なのかわからずとも、彼女が誰の目にも留まる美人であることは明らかで、ニシキの不安を煽るに格好の餌であることは間違いなかった。

 案の定頭を抱えてのたうち回っている。学校の廊下ではやめて欲しい。


「ぐああああやめてくれその攻撃は俺に効くっ」


「やめるのは構いませんけど会長が他の男のものになった後じゃ難易度は天地の差ですからね」


「ここで追い打ちとは、やるな!」


「やるな!とか言ってないでその図体で廊下を転げ回るのやめてください」


「はい」


 ぴたっと止まってニノマエの前に正座するニシキ。

 不自然なほど神妙な顔つきで肩を落としている姿がなんとも哀れを誘うが廊下で正座もやめてほしい。


「あまり先輩を男性として褒めたくはないんですけど」


「その前振り酷過ぎない?」


「その発言の意図するところは彼氏持ちの後輩女子に異性として褒めて欲しいということです?であれば容赦しませんけど」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る