怪人ニシキの一念発起 3

「なんですかその反応は」


「ニノマエちゃん訝しむにしてももうちょっとその、言い方とか」


「ないですし時間も押してます。会長が仕事終わって出てきたら何もかも終わりですよ」


 ニシキには何が終わるのかよくわからなかったがとりあえずニノマエがその状況に陥ることを許してくれなさそうなことだけは理解できた。終わるというより終わらされるような気もした。


「いやぁ、実は…その、だな。なんというか…うん」


 歯切れの悪い、もはやしどろもどろなニシキを見下ろすように見上げたまま黙って待つ。


「まだ、告白は、してないんだ」


「は?」


 年下の小さな女子のたった一文字の発声が、それでも震え上がるくらいものすごく怖かった。

 そのニノマエの反応でスイッチが入ったのか見た目に似合わない悲痛な声でニシキがまくし立てる。


「た、確かに俺は振られようがなにしようが俺が諦めるまでは失恋じゃないとは言った!言ったさ!だが告白したとは一言も言っていない!どうだ恐れ入ったか!」


「もうダメだわコイツ」


 遠慮会釈も礼も節度もない一言だった。彼氏や後輩にだってこんな言い方したことない。


「なんかものっそいぞんざいに酷いこと言われたな!?一応先輩だよ俺!?」


「ごめんなさいつい口が。恐れ入るヘタレ具合ですびっくりしました」


「丁寧に言われてもものっそい酷いね」


「目上として敬えるだけ敬いました」


「つらい」


 ニノマエは重くて長いため息を吐いた。まるで地獄から響いてくる悔恨の声のように廊下に響き渡る。


「恋心ひとつで生徒会副会長の席をもぎ取った男子が生徒会発足から三ヶ月弱、まさかまだ会長に一度も告白したことないとかヘタレ以外になんて呼べばいいんです?怪人ニシキの名が泣いてますよ」


「演劇部時代にちょっと怪人役がハマり過ぎてずっと言われてるけど別に自称じゃないからね!?」


「いいですから」


「あっはいすみません」


 しゅんとうな垂れたニシキを見てもう一度ため息を吐く。


「いいですか、これはチャンスなんです。振られたら気まずいと考えてるのかも知れませんけれど、逆に考えれば告白の結果がどうなろうと会長に逃げ場は無いんです。これはもう卒業まで無制限にチャンスを与えられているも同然ですよ?」


「いやあ、さすがにそれは乱暴なのではなかろうか。むこうの気持ちだってあるし…」

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