第29話

 「伊織になにか罰を与えるのは決して許さない!」

 隼人が声を荒らげ、先生を睨みつけながら告げる。

 「だが、あいつのせいで混乱し、直接的な要因ではないかも知れないが、死者が出たことも事実だ。何かしらの罰は……」

 それに対し、先生は弱々しい言葉ながら、しっかりとした意思を以て答える。

 「伊織は先生に頼まれ、今回のことを起こした。あの巨人は完全なる想定外であり、誰の責任でもない」

 罰が必要だと告げ、先生に対し、隼人は一歩も引かず、ただ一貫して伊織の無実だけを押し通そうとする。

 実際の所今回のことは誰のせいでもないだろう。

 伊織がどの程度あの人と関わっていたのかはわからないが、あの巨人を連れてきたのは十中八九あの人だろう。

 もともとこの学校において魔物に殺されるのは自己責任であり、生徒が死んだことに対する責任は先生方の方にはない。

 だからこそ、剣魔学園の存在に反対する人が居るわけだが。

 だから僕は……。

 「……あいつがやったことの罪はあまりにも大きい。伊織の行った行為により命が奪われたものはいなかった。しかし、多くの人の命が失われていた可能性もある。何も罰を与えないというわけには……!」

 「死者が出なかったのは俺らのおかげだ!その俺らを敵にまわすつもりか!」

 「しかし……!俺は教師として!」

 「うるさい!もう二度と仲間を失ったりはしない!」

 玲於は白熱する二人を尻目にいそいそと席につき、ほっと一息。

 「……簡単な話。聞けばいい」

 そのあともずっと両者一步も引かず、辟易としてきたので口を挟む。

 「何を?」

 「伊織の処遇をどうするかは暁の光に聞けばいい。今彼らが最も権力を持っている」

 「権力?いや、暁の光は別に権力なんて持ってないが」

 「力がある。彼らの意見を却下できる強さを持った人がいない。だから彼が最も権力を有している。弱肉強食だよ?彼らにことを話して、どうするべきか話すのが一番いい」

 「そう、だな」

 「だが……!」

 先生は了承の意を示したが、隼人は不服そうだ。

 きっと正義感が強い彼らなら伊織を処罰するだろうと考えているのかも知れないが、彼らが断罪することはないだろう。

 彼らならば断罪するのではなく、伊織がそんなことさせてしまったことに後悔し、彼らは更生させようとするだろう。

 彼らもまた一般人ではなく、冒険者なのだ。

 弟子を見捨てるはずがない。

 「それで、伊織に関することはいい?」

 「構わない。俺らで話しても平行線だしな」

 「……わかった」

 隼人は不服そうだが、了承してくれた。

 これでいいだろう。最悪僕が洗脳すればいい。

 「それで、帰るってことってことでいいんだよね?」

 「あぁ、そうだ。死者も出た以上これ以上は続けられない」

 「わかった。じゃあ、俺は荷物をまとめるように指示してくる」

 全員のリーダ的なポジションに位置している隼人が席を立つ。

 「あぁ、了解した」

 隼人がテントの外に出て言った。

 「じゃあ僕も」

 「……少し良いか」

 隼人のあと、席を立った玲於に先生が声をかける。

 「何?」

 「……本当に彼女たちは守れなかったのか?」

 へぇー、玲於は心のなかで感心する。何を思っての言葉かはわからないが、そこに疑いを持つとは……。

 「ん?何?僕が見殺しにした、と?」

 そんな内心など出さず、答える。

 「……あぁ、そうだ。お前の底を俺は見ることができない。暁の光の持つ技術を容易く習得したお前なら……とも思ってしまう」

 「……僕のことを過大評価してくれるのは嬉しいのだけれども、そんな力。僕にはないよ」

 「……そうか。だが、もし君に力があるのと言うのなら、どうか。お願いだ。守って欲しい」

 先生が深々と、頭を下げる。

 「先生。頭を上げてください。今回の件は僕の不徳の致すところ。……次は、ない」

 「……玲於」

 「では」

 玲於は一度先生に一礼してからテントを出た。

 ……これからはもっとしっかり隠すか。

 できれば日本を転覆させるまで余り僕を警戒してほしくない。

 僕の印象が大きいと、僕という存在を捻じ曲げることができないから。


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 【私と君の死葬恋歌】

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剣魔学園の超越者~固有スキル【器用貧乏】は鍛え続ければ【万能者】となる~ リヒト @ninnjyasuraimu

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