第9話 出会い episode4

「そういわれましても」バサッ!

「いやいや、ほんとキリがねぇ。マジ湧いて出てくるんですけどこのバクたち」

「だからさぁ、こんだけやばい任務だったら、一個部隊で繰り出すべきだったんじゃない。一応隊長さんなんだしさぁ」


「あ、そこあんまりつつかないでくれる! 俺、隊長とか言われると無性に腹が立つんだけど」

「あっそ、じゃ何度も言ってやるよ。この無責任隊長。無気力隊長」パンパンパンパンパン銃声の連続音。

「あのぉ映美羅さん。お兄ちゃん無性に気分が悪いんだけど」


「でしょうね」


ガタンガタン。電車はポイントを渡っていく。

「はぁ、はぁ。おにぃ、こんな時なんだけど、私おトイレに行きたくなっちゃった」

「……トイレですか? それは珍しい。実は俺もトイレに行きたいと思ってたんですよ」

「じゃぁ、途中下車っていうのもありだよね」


「ですね」

ドアの上のパネルには通過の文字が映し出されている。

「止まらないんだ」


「ならば」

スパっ。「ほんとよく切れる刀だね。電車のドアも切っちゃうなんて」

「ですね」

ニコッと笑って妹の映美羅の体を抱きかかえ、そのまま通過するホームに俺たちはその身を投げ出した。


ゴロゴロとコンクリートのホームの上を、二人の体はまるで樽を転がしたように転がっていく。

電車はスピードを落とさず駅を通過しようとしていた。

ようやく投げ出した体が止まった時、ホームの端を通過しようとした電車が、轟音と共に爆発した。


「へっ!どうなってんの?」

「あれまぁ―、やばかったねぇ」


「だねぇ。ところで映美羅さん。おトイレ大丈夫ですか? もしかして漏らしてなんかいませんよね」

がっしりと俺にしがみついている妹が恥ずかしそうに「馬鹿」と言った。


「怪我してないよね」

「おにぃ、普通さぁ、おトイレよりも、そっちの言葉のほうが先じゃないの?」

「そうでしたね。ではそろそろ起きましょうか」

といったが、映美羅はまだ俺の体に自分の体をしっかりと密着させていた。


「もう少しこうしていたい。おにぃのにおい嗅んでいたいから」

顔は真っ赤だった。ほんとに我が妹はブラコンで困ったものです。

そういう俺も、シスコン……なんだろうかねぇ。


その時、コンクリ―のホームの上に散らばったガレキをジャリっと踏み込む音がした。

ガレキ? さっきまではそんなものなかったはずなのに。あたりの景色をゆっくりと目に入れていく。


さっきまで乗っていた電車から見えていた車窓は、ごく普通の都会という街並みを映し出していたはずだった。しかし、今この目に映る景色は……荒廃した街。壊れた世界。


「な、なんだ一体、これは……」


足音はさらに近づく。

「ふぅーん、ずいぶんと仲がいいんだねぇ。いつまでそうしているつもりなんだい」

ふと視線をそらしたその先に人影が見えた。気配が感じない。

いくら電脳データとは言え、生身の人間と同じように気配というものを感じて来ていたはずだ。


いったい何者なんだ。俺は映美羅の体を強く抱きしめ、刀のさやに手をあてがえた。

「警戒しなくてもいい。俺はバグでもウイルスでもねぇからな。もっともお前らの敵でもねぇと思うんだけど」


その男は「よっコラショ」と言いながら俺たちのすぐ横に腰を落とし、あぐらをかいて座った。

「初めましてだな。俺は梛良郁美なぎらいくみ。多分お前さんが会わなきゃいけねぇ、対象物だな。柳澤泉やなぎいずみ君」


その男はゆっくりと手を差し伸べてきた。

その手を触れていた鞘から離し握った。ごつくて、温かい。そして大きな手だった。


そしてこの男は言った。

「ようこそ。99階層へ」


そいつは確かにそう言った。



――――――99階層!! 嘘だろう。


そんな、100階層を割り込んだ世界に、俺たちは来てしまったというのか。

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