第三章 その二 結局全部

「ハナイチ、明日は遅れんなよ。・・・っつても遅れるだろうけどな。」


Cafe&Barドワーフ閉店後、新屋敷はすぐにそう言った。間違いなく遅刻する事は分かった上でだ。


「早ければ明日の夕方からくらいに横塚が来るだろう。内容によっちゃ明日の開店は遅らすからな。」


客から訊き出した事件の情報は、ネットのニュースで分かる程度のものしか無かった。それ以外に我々が分かっている事はリナッパの様子がおかしかった事と、ニュース映像で確認出来た『爪の長い鬼の存在』。横塚が来れば更に公になっていない情報も入るだろう。


この国の未解決事件と呼ばれるものの中には、あやかしが関わっている事が存在する。その捜査と後始末を担当している部署が『無期未解決事案調査室』だ。名目上は生活安全部内に設置されているらしいが、その内容は警察内部でもトップシークレット扱いだそうだ。所属している警官の人数も少ないと言う事だが、鳴神も新屋敷も詳細にまで興味は無い。彼らからすれば『一番面倒臭い客』と言うだけらしい。


通常あやかし専門喧嘩稼業ドワーフに持ち込まれる事件は8割が失踪事件、『神隠し』。依頼人も大抵は失踪人の家族だ。

次に多いのが事故物件の解決。これは表裏両方の不動産業者からの依頼だ。


つまり今回のように『殺人』と思われる事件の依頼が来る事はレアケースと言っていい。しかもどうやら依頼人は警察になりそうな流れ。更に言えば超が付く程の近所で起きた事件となれば『激レアケース』だ。


「・・・俺、アイツに会いたくねぇんすけどねぇ。」


短くなったタバコを見つめながら鳴神が言う。それを聞いた新屋敷は変わらぬ笑顔で氷を投げつけた。


「俺もだよ。お前がヘタ打ったせいで拒否も出来なくなったって自覚あんのか?おい。」


そうなのだ。鳴神が今朝方コンビニでせいで今回の依頼に関しては主導権のほとんどを警察に握られてしまった。ただでさえ一般客と比べ金払いの悪い警察、いや横塚の事だ。今回はいつもよりも更に更に足元を見てくるに違いない。


「アラさん・・・こう言っちゃなんすけどね、毎回働くの俺なんすよ。もう横塚の仕事なんて受けなくていいんじゃないすか?」


これを言う鳴神には腹が立つが、実際そこは私も同意見だ。あの横塚と言う刑事の人を見下す態度には毎度嫌気が差す。更に面倒極まりない事件から『そんなのお前がやれ』と言いたくなる程の下らない依頼まで持ち込んでは、


「血税だからなぁ。」


を口癖に二束三文の依頼料しか払わない。それなのに常に恩着せがましくで現れる。


「結局全部ウチに回って来るんだ。その中の優先順位は勝手にこっちで決めりゃいい。」


『結局全部』。新屋敷が言ったこの言葉には我々『あやかし専門喧嘩屋』と『あやかし専門警察部署』のなんとも腹立たしいシステムが内包されているのだ。

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