マスク


 こんにちは。毎日暑いわね。口裂け女よ。

 一時期、夜に人が消えたじゃない?ニンゲンは自粛と言っていたかしら。そのせいで夜に獲物を捕れなくなって、思い切ってお昼に出かけることにしたわ。早起きって大変ね。

 街を見て驚いたわ。皆私のようにマスクをしているのだもの。それに、よく見ると私が付けている白いマスクの他に黒色や花柄、市松模様まであるじゃない。私は衝撃を受けたわ。マスクって白だけじゃないのね。

 それからというもの、私はマスク専門店巡りにハマったわ。以前とは違い、マスクが必須よ。私相手でも怪しまれずに店内に入ることができたわ。私は様々な柄のマスクを手に取ったのよ。一番好きな柄は花柄ね。ひとえに花柄と言っても、同じような柄はないのよ。花の色は勿論、大きさや花の位置、組み合わせによっても変わってくるわ。私はマスク選びに夢中になっていたの。私はこのお店で気に入ったマスクをうっとりと見つめて、鞄に入れたわ。家に帰ってからゆっくり眺めましょう。そんなことを思っていた時だったわ。


「お客様」


 女性の店員さんが声をかけてきたわ。


「会計はお済みでしょうか?」

「お会計……?」


 私は首を傾げる。すると、店員さんが声を上げた。


「この人です!」


 彼女の声に反応して、体格の良い男性が二人、出てきて私の両隣に立ち、腕を掴んできたの。もうビックリしちゃって。


「な、何かしら?」

「常習犯ですよね?とぼけないでください。万引きですよ」

「万引き……?」


 ニンゲンの世界に詳しくない私は首を傾げたわ。


「お金、払ってないでしょう?」

「何か問題でも?」

「問題ですよ!お金を払わなきゃ!立派な犯罪ですよ!」


 なるほど。『お金』というものを払わないといけないのね。けれどそれよりも、私は嬉しさに胸が満ち満ちていたわ。だって。だって、私をニンゲン扱いしてくれるのだもの。もう嬉しくって。私は笑顔で、花柄のマスクを取ったわ。今なら全てを受け入れてもらえる。そう思ったの。

 でも、だめね。皆悲鳴を上げて逃げてしまったわ。もぬけの殻になった店内。私はもう一枚気になっていたマスクを手に取って、店内を後にしたわ。


Fin.

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短編集(ホラー、不思議系) 内山 すみれ @ucysmr

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