第七話 長所


 金曜日にミュージックパラダイスに出演した後、土曜と日曜にライブハウスでライブしたんだけど、由良がミスを連発。


 どうもミュージックパラダイスでのミスを引きずっているみたいだ。


 今日の振り付けのレッスンにも身が入っていないように見える。


 振付師のサファイア松本先生に何度も怒られていた。


 レッスンが終わると、鳴君が由良に近付き睨みつける。


 「おい、いつまでミスを引きづるつもりだ? 付き合わされるこっちの事も考えろ」


 鳴君の容赦のない言葉に涙目になる由良。

 

 「てめぇ、そりゃあ言い過ぎだろ!! 由良の気持ちも考えろよ!!」


 蓮が鳴君に食って掛かりいつもの様にケンカに発展して誠司君と僕で止めた。


 いつもの様に蓮と由良と三人で帰ったけど、やはり由良は元気がなかった。


 翌日、個人の仕事を終えてレッスンをする為に事務所へと向かうと、事務所のトイレからすすり泣く声が聴こえた。


 トイレに入ると、個室のトイレから泣き声がより鮮明に聴こえる。


 これは由良の声だ。


 「由良!! 由良、どうしたの? 何でこんな所で泣いてるの?」


 必死に呼びかけるけど返事はない。


 「由良、何かあったんでしょ? 僕に話してよ」


 やはり返事は返ってこない。


 それでも諦めずに話しかけていると、個室のトイレから由良が泣きながら話しかけてきた。


 「き、今日レッスン室に向かう途中に事務所の先輩にミュージックパラダイスでのミスを責められたんだ」


 内容はこうだ。よく由良を虐めていた高校生の三人組の先輩がまた絡んできたらしい。


 三人はミュージックパラダイスでの由良のミスを笑った後、「何でお前なんかがデビューできたんだよ」と責めてきたらしい。


 僕は由良の努力も知らない三人組の先輩に腹が立ったけど、今はそれよりも由良を元気づけないといけない。


 「由良、あんな人達の言う事なんか気にしちゃ駄目だよ。あの人達は由良がどれだけ歌やダンスの特訓をしたかわかっていないんだから」


 「で、でも自分でも思うんだ。何でダンスや歌が上手くない僕がデビューできたんだろうって」


 由良は泣きながら呟く。


 「きっとノアや蓮と仲が良かったから、それだけの理由でデビューできたんだ」


 泣き嘆く由良は、以前エレンさんが言っていた事を思い出したみたいだ。


 「由良、由良が選ばれた理由が何なのか僕はわからない。でも、由良は苦手なダンスの練習を皆に教えてもらいながら頑張っていたじゃないか。歌のレッスンも頑張って前を向いてたじゃないか。僕は由良がアルヒェのメンバーに相応しいと思っているよ」


 「···でも僕は蓮やノアみたいにダンスは上手くないし、誠司君や鳴君やノアみたいに歌も上手くない。それにノアは演技も上手いじゃないか。ノアみたいに何でもこなせる人間には何も長所がない僕の気持ちはわからないよ」


 そう言って由良はまた泣き出す。


 しかし、何も長所がない?


 「由良に長所が無いだって? それは違うよ由良」


 「え?」


 「僕は由良の長所を知っているよ。それはね、アルヒェの中で一番オシャレだと言う事さ」


 自信満々で言い放ったけど、由良はお気に召さなかったらしい。


 「オ、オシャレ? オシャレだからってアイドルの何に役に立つのさ」


 「役に立つよ。アイドルだからこそ。アイドルは魅せるのが仕事だからね。人よりも服装のセンスがあるのは武器になる。雑誌のモデルだってする事はあるし、コンサートの服や会場のデザインもいずれ任せてもらえるかもしれない。これは大きな武器だよ、由良」


 由良の泣き声が止んだ。


 そして数十秒の沈黙の後、由良が口を開く。


 「···僕の母さんはファッションデザイナーなんだ。だから物心ついた時から服が大好きだった。でも服がアイドルの武器になるなんて考えた事もなかった。···本当にアイドルとしての長所になる? ···アルヒェの役に立てるかなぁ?」


 「うん、きっとアルヒェの役に立つ。それに由良の長所はオシャレだけじゃなくもう一つあるんだ」


 「もう一つ?」


 「うん、それは笑顔さ。だから泣くのは止めて素敵な笑顔を見せて欲しいな」


 「···ふふっ、笑顔ならノアだって長所になるよ」


 笑い声とともに個室トイレのドアが開いた。

 

 目を赤く腫らしているが、素敵な笑顔を僕に向けてくれる。


 「ははっ、確かに僕の笑顔も素敵だからね。でも笑顔はアイドルにとって最大の武器だよ。だから僕達はいつでも笑顔でいよう」


 「···うん、そうだね。ありがとう、ノア」


 泣き止んだ由良と僕はレッスン室へと向かった。


 由良は調子を取り戻し、苦手なダンスのレッスンも、笑顔でこなし、週末のライブも笑顔で頑張った。


 ミスは少しあったけど、それでも以前の様に落ち込まなかった。


 由良は汗を流しながらも全力全開の笑顔で歌い踊りきった。


 由良はもう大丈夫そうだ。


 だってあんなに素敵な笑顔をファンに向けられているのだから。

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絶対偶像!!〜推しのアイドルに裏切られたので、転生した新たな自分で理想のアイドル目指します〜 立鳥 跡 @tatedori

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