番外編1


2年目。最も離婚率の高いと言われているこの時期に事件は起きた。


結婚生活を初めてからは、明里に浮気防止と称してスマホを監視されている俺。


それ自体には不満は無い……訳では無いが、特段後ろめたい事はないので構わなかった。


ただ、されるがままも気に食わない。


だから明里にちょっとした反撃をしたいと思って、仕返しとばかりに彼女のスマホを覗いてみたのが全てのきっかけだった。


「人のスマホを見れるのは、見られる覚悟がある奴だけだってな……」


明里が寝静まったのを見計らって彼女のスマホを拝借する。


明里のスマホのロックは0822、俺の誕生日である。以前彼女のスマホの設定をするのを手伝った時に知った。


パスワード自体変更していなかったらしく、難なくロックを解除する事ができた。


最悪指紋認証を利用しようと思っていたが、明里が異変に気づいて起きてしまうリスクがあったので、安全に突破できたのは僥倖ぎょうこうだった。


「……どれどれ」


メッセージ欄を見る。パッと見た限りでは、女性としか連絡は取っていないようだ。


中身を見ようとも思ったが、流石に気が引けるのでやめておく。


そんな調子で他も見て行く。


WEBサイト履歴、スマホの使用時間などなど……。


「なんもねぇな」


俺がいつもされているぐらい隅々まで見たつもりだったが、特に明里自身が不利になるような内容は見当たらなかった。


むしろ、検索履歴に『良い夫婦の秘訣』とか

『旦那 好きすぎる 心理』なんてあるもんだから、照れ臭くなってしまったぐらいだ。


特筆すべき事は無かったことを確認して、スマホを閉じようとした。


もうこれで終わるつもりだった。


だから、メモ帳アプリを開いたのは、ほんの気まぐれだった。


明里は意外とマメな人間らしく、膨大な数のメモ欄が映し出される。


流れるように画面をスクロールし、1番最後に到達した時、目を惹くタイトルがあった。


「………『計画』?」


恐る恐るタップする。


そこにはが書いてあった。


俺をお酒に酔わせること。


昔にやったパッチテストで俺がお酒に弱い事は分かっているので、飲ませすぎは厳禁だということ。


泥酔した所でホテルに連れ込んで、既成事実を作ること。


ここで言う『計画』とは、俺が明里と関係を持ったあの日についての事なのだろう。


「…………」


この内容から推察するに、俺は彼女を襲った事実は無く、寧ろ彼女に襲われていた訳だ。



つまり。



俺は、騙されていたらしい。



俺は怒りに震えて拳を強く握りしめ、昔に持った憎しみに似た感情を彼女に向け────────











「…………はぁ」


──る訳でも無く、クソデカいため息をついていた。


「ほんと、いい性格してるよなぁ」


幼馴染として16年も付き合いがあれば、流石に彼女の性格、つまるところ独善的なきらいがある事は理解してる。


けれども、犯罪を犯してまで俺を手に入れようとしていたのかと思うと、流石に目も当てられなかった。


それに、俺自身彼女を襲った事をずっと負い目に感じて生きてきた。俺がその事で悩んで、苦しんでいた事を知っておきながら、この事実を隠していたと思うと、正直失望した。





それでも。





「離婚はしねぇよなぁ」


この2年間、幸せだったからだ。


喧嘩もしたし、汚い所も見せあってきた。でも、それが霞むぐらいに笑顔を共有したし、愛しあった。


普段クールな明里が人様には見せないような甘えたがりな所も見てきた。(そのギャップに堕とされたと言っても過言ではない)


それだけじゃない。学生結婚という事もあり、ちっちゃいアパートに二人暮らしだけれど、窮屈だなんて一度も感じなかった。


それはひとえに、狭い空間を共有する事を是とするほどに、彼女が俺の生活……いや、人生に入り込んでいる証拠だろう。

   



まあ、ただ─────




「お説教はしねぇとな」



お咎め無しもおかしな話だよな。


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あとがき


番外編2書いてるんですけど、明里のことボコボコにしたかったのに上手くいかない……。


ただ、軽い分からせはするんで皆さんそれで手打ちといきませんか?


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