第23話 色々なジャンルを読もう
過去の受賞作を読む際、気をつけなければならない点がいくつかあります。
それは、『色々なジャンルを読む』ことです。
当たり前だろ、と思う方もいるかと思いますが、つい疎かになってしまう場合も多いものです。
受賞作には様々な作品があります。その中にはバトルもの、ラブコメ、青春もの、お仕事系、様々な種類があります。
その中でおそらく、多くの作家志望の方々は、自分の好きなジャンルだけを読むことが多いと思います。
これは、あまり勧められません。
ライトノベルは様々な『流行』や『セオリー』が複合して変化していくものなので、自分の好きなジャンルばかり読んでいると、どうしても内容に偏りが出てしまいます。
どれが時流に乗ったものなら問題はないのですが、すでに廃れたネタ、あるいは手垢が付きすぎた要素だった場合、良い結果は得られません。
また、様々なジャンルを読むことで自分の知らない知識・技術を得られる可能性もあります。
さらには、バトルものでもラブコメ描写を入れることで緩急を付けたり、青春物でも専門的な知識を織り交ぜることでリアリティを増すことも出来ます。
これは、比較的最近の具体例を挙げると、バトルでは『86(エイティシックス)』、青春系では『わたしはあなたの涙になりたい』、などでしょうか。
前者は基本的にはディストピア的な世界観で、主人公側は常に劣勢の状況にいます。
次々と敵は新兵器を投入し、平穏な時間などほとんどありません。
自然、普通なら殺伐とした雰囲気になりがちなのですが、本作は色々なテクニックを使って重くなりすぎないように配慮がされています。
その一つがラブコメ的な描写です。
一巻ではほぼありませんが、巻を重ねるごとに主人公とヒロインの絆が深まって、恋愛感情が生まれていきます。
そこで真面目な恋愛描写が展開されるといえばそうではなく、ちょっとくすりと笑える、微笑ましいシーンがいくつか見られます。
世界観的には真面目な世界観なので、真面目な恋愛シーンが順当と思う方もいるかもしれませんが、あえて軽いシーンとして書くことによって、全体的な雰囲気の柔らかさに貢献しています。
重さと軽さ、上手くバランスを取っているわけですね。
これが終始重苦しいシーンだったり、真面目なシーンばかりだと読者も疲れます。
もちろん一巻二巻だけなら問題は少ないでしょうが、継続的に読む場合、「またこの展開か」とマンネリを感じることは多いでしょう。
その辺りのバランスを作者様が察して書いているのだと思われます。
(あとがきを読む限り、軽いシーンを書くのも好き、というのもあると思いますが)
一方で、『わたしはあなたの涙になりたい』。
本作は基本的には主人公とヒロインの悲愛を書いた物語で、小学校から青年にはいりかけの時期の恋愛を書いたものとなっています。
青春(というより半生)を書いたものですが、内容的としてはピアノとはじめとする専門的な要素がいくつか存在します。
また、現実で起きた東日本大震災に関するエピソードも存在します。
どちらも現実の知識・出来事に即した内容ですね。ある程度の専門的知識、経験がなければ書けないような内容となっています。
これがあり、リアリティある展開が続いていきます。
また、他の例だと、電撃文庫大賞の『声優ラジオのウラオモテ』でしょうか。
本作は声優に関する知識をベースにしたストーリーが展開されており、それを前提として物語が進んでいきます。
単に表側の華々しい声優の姿だけはなく、裏事情――言ってしまえば世知辛い現状についても序盤から言及されていて、知識を軽くかじった程度では書けない精度で書かれています。
これらに共通するのは、どれも一つの武器、ジャンルを勉強しただけでは通じない、レベルの高い内容となっていることです。
それは前述の、『様々な内容のジャンル』を読むことに繋がります。
最近のライトノベル新人賞は、ウェブ小説の発展に伴い、ストーリーやキャラ立てだけでは受賞が難しくなっています。
普遍的なストーリー、例えば『仲の悪いメインキャラが協力していく』、『弱い主人公やヒロインが成長する』、『主人公とヒロインが恋愛関係に至る』など。
ストーリーの根幹は変わらない部分が多いのですが、『プラスアルファ』として、専門性があるものが受賞するケースが多くなってきます。
なので、最近の新人賞で受賞をしたい場合、まず自分の書きたいもの、得意なものをベースに、さらに別の『特殊な何』かを入れる必要があります。
それは独特の世界観だったり、専門的な知識だったり、様々です。
それを書き記すためには、一つのジャンルを極めただけでは成しえません。バトルが好きだからバトルものだけを読んでいれば良いわけではりませんし、ラブコメが好きだからそれだけを読めば良いというわけでもありません。
なので、自分が好き・得意とするジャンルの他に、もう一つ、何か異なる『サブウェポン』を会得してください。
それが受賞への近道となります。
次回、ライトノベルを書く際の大きなコツを記していきます。
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