謎ギフト「実はいい人」を授かった俺は仲良しのPTに留守番を言いつけられるが、ギフトの真の力に気づいた俺は守るべき者の為に立ち上がる事にした。

@akinu2

謎ギフト「実はいい人」を授かった俺は仲良しのPTに留守番を言いつけられるが、ギフトの真の力に気づいた俺は守るべき者の為に立ち上がる事にした。

「ゼ、ゼン。 き、君の、あ、いや、お前のギフトはあまりにも使えなさすぎる!

 …すぎるよね? あ、えと、だ、だから君を僕、あ、いや、お、俺達のパーティーから追放…いや、これはあんまりだよね? えっと…そう、留守番!

 家で大人しく留守番してるんだ! いいね!?」


「え、あ、うん。 うん?」


 冒険者ギルドの一角、一つのテーブルを共有していた俺ことゼン・クローニンは親友であるソウド・ブレブに唐突にそんな話を切り出された。

 なお、この話を持ち出した当人は凄くきょどっていて言葉も噛み噛みだった。

 大丈夫か?


「そうよぉ? ゼン君の授かったギフト、効果もよく分からないヘンテコギフトなんだから、ヘンテコギフト持ちらしく慎ましくしてなきゃダメよぉ?」


 そんなソウドに続くように俺の一つ上で姉の様に過ごして来たシス・ターク姉さんも辛らつな言葉を浴びせてくるが涙目だし眼が泳いでいる。

 言いたくないなら言わなければいいのに?


「そ、そうよ! に、兄さんはむ…むの…ヴォエ…無能…ウグェ……な、なんだから、あ、足手まとい…ヒグッ…足手まといなんだから…! オェ!!」


 更に我が最愛の双子の妹であるレデル・クローニンもよっぽど心痛が酷いのか嗚咽を漏らしながら頑張って酷い言葉を言おうとしている。

 無理すんな。


「あぁ、そうだよな…俺のギフト『実はいい人』って俺も何だよって思うもの」


 この世界では成人を迎えると神殿で各々が持っている能力ギフトを鑑定してもらえる。

 ソウドが授かったのは『神剣』。 何でも何もない空間から自由に剣を取り出したり飛ばしたり出来るらしい。

 シス姉さんが授かったのは『神聖言語』。 ありとあらゆる不浄を弾き、どんな傷も癒す事が出来るらしい。

 レデルが授かったのは『五大元素』。 森羅万象のあらゆる属性を使いこなす事が出来る万能能力だ。

 で、俺が『実はいい人』。 ハイ、何だこれ?

 授けてくれた神官に聞いてみたら「貴方の人間性が評価されたんじゃないですか?」と肩を震わせながら言いやがった。

 一発殴ろうと思ったけど相手は一応神職なので止めた。


 さて、そんな俺たち仲良し4人組には夢があった。

 全員が成人を迎えたら一緒にパーティーを組んで冒険者になろうという夢だ。

 で、1人だけ年が違うシス姉さんを1年待たせて臨んだ結果がこれ。

 そして、冒頭の話に繋がるって訳だ。


 さて、ここで怒るのは実に簡単である。

 約束を放棄した理不尽な扱いに対して俺が怒り狂って皆から離れてしまうだけ。


 だが、こっちは分かってんだぞ? それがみんなの狙いだって事は。

 3人とは違って、俺のギフトはどう考えても冒険向きとは思えない。

 そりゃ、並程度に剣術の稽古はしたが、ギフト持ちには敵わない。

 それを承知で無理して着いていけば結果は大怪我じゃ済まないかもしれない。

 だから、敢えて憎まれ口を叩いて俺を突き放そうとしているのだろう。

 というか、普通に3人共演技が下手なのでバレバレであるが、そんな彼らの気持ちを無碍にはしたくないので敢えて乗っかる事にする。

 でも、3人ともあまりきつく言うと立ち直れなさそうだから匙加減が難しいな…

 いや、何で俺がこんな配慮してんだろ?


「…分かった、俺は家に帰ってみんなの好きなシチューと成人のお祝いにハンバーグでも作って待っているよ…期待に応えられなくて悪かったな…」

「え、ほんと!? わーい、兄さんのハンバーグ!」


 ハイ、妹可愛い! でも今はまだ頑張って演技してね? 二人共焦ってるからね?


「あ、こほん! ゔんッ! に、兄さんにはそういう家事とかが無難だよ!

 …いつもありがとうね」


 こちらこそ! 思わず心の中で微笑んでしまうが現実の顔は悲壮感を漂わせておく。


「君の…あ、ちが…お前の代わりにパーティーを組んでくれるっていう先輩冒険者が居るんだ。 君はもう気にしなくてもいいよ…ぞ!」


 憎まれ演技、本当に下手だな我が友よ。二人称ブレブレだぞ。

 そうか、でもその先輩とやらの姿は見当たらないが?


「それはいいけど…その人は今どこに居るんだ?」

「あ、本当はこの後一緒に紹介する筈だったんだけど何故か来ないんだよね…大丈夫かな?」


 何か幸先いきなり悪くないか? 大丈夫か?


「あ、それならさっきトイレに駆け込んでくのが見えたわよ? お、お花摘みじゃないかしら?」


 シス姉さんが言い辛そうに顔を赤らめている。

 ソウドも女性にそんな事言わせないように把握しとけよ、まったく。


「まぁ、分かった。 最初の冒険の成功を祈っておくよ」

「「「あっ…」」」


 人が格好つけて立ち去ろうとしてるのに名残惜しそうにするんじゃない3人共!

 俺だって正直泣きたいのにそんな反応されたら泣けないだろ!

 そんな心中を悟られないように足早にギルドの出口へと手を掛けると3人に歩み寄る優男風の冒険者の姿が視界に入った。

 アレが例の先輩冒険者って奴だろうか?

 悔しくてそいつをキッと睨むとその優男は急に顔を青くして腹を抱えてトイレへと向かって走って行ってしまった。

 ……胃腸弱いのかな?



「さて…次は玉ねぎと付け合せ用のほうれん草とじゃがいもと…」


 さて、そんなこんなでギルドを一人出た俺は傷心…ではあるが、正直キツいのは3人も一緒だと思うのでせめて彼らの初クエストを盛大に祝ってあげようと市場で買い物をしている。

 ただ、やっぱり、一緒に冒険に出れなかったのは結構胸に来る者があったので半ば放心気味に歩いていた所為で盛大に市場に居た人に肩がぶつかってしまった。


「いっ…! あ、すいません!! ぼ~っとしてました!!」


 肩がぶつかってしまった相手に頭を下げる。


「キーキッキッキッ! 痛ぇじゃねぇか坊主。 余所見はいけねぇなぁ!!」


 顔を上げると、俺がぶつかってしまった相手がこちらを見ていた。

 厳つい身体付きに棘の付いた肩パッドを装備し、上半身は何故か裸のモヒカンの男が短刀をギラつかせながら声を上げる。


「あっ、モヒさん!! 本当にごめん!」

「キーキッキッキッ! 分かればいいんだよ、注意しな!」


 この赤子が見たら火が付いた様に泣き叫びそうな見た目の人物はモヒさんの愛称で親しまれる元冒険者のケバブ売りだ。

 普段の言動と見た目は凄くアレだが、性根の優しい人で売ってるケバブも美味い。

 今もモヒさんの後ろでは串に刺さった肉塊がくるくると回って炙られている。


「おいおい、いつもの3人は如何したぁ!! お前一人なんて珍しいじゃねぇかぁ!」

「…それは」


 いつも4人で行動していた俺達が今は俺一人なのを訝しんでモヒさんが尋ねてくる。

 そこで俺も躊躇したが、年長者であり、人生経験も豊富なモヒさんに正直に告白する事にした。


「そうかぁ! そんな事があったのかぁ!!」

「うん、そうなんだ…」


 全てを打ち明けた俺はモヒさんから貰ったケバブを齧りながら頷く。

 どうにも今日のケバブは辛みが利きすぎて目の前がぼやけてしまうぜ。


「しかし、『実はいい人』なぁ…この俺様も初めて聞くギフトだぜ!」

「モヒさんでも知らないんだ?」

「あぁ、俺様も膝に矢を50本受けた後にソレは全然平気だったが持病の痔が悪化して冒険者を止める事にならざるを得なかった30年間でも聞いた事がねぇ!!」

「モヒさん何歳なの??? あと膝丈夫過ぎる割に肛門弱すぎない?」


 この人の場合、何処からどこまで虚構と真実なのか分かんねぇんだよな。


「まぁ、本当に駄目なギフト何て存在しねぇ!! 坊主のソレにも何か活用法がある筈だぜぇ!」

「うん、ありがとうモヒさん。 だといいんだけどね…」


 本当、見た目以外はいい人過ぎるんだよなモヒさん。

 その幅広い人脈と人生経験で市場での顔役も兼ねてるらしいし。


「しかし、今日が初クエストかぁ…が事実だとすると不安だな」

「え、何!? なんかあるのかい、モヒさん!!」


 モヒさんの深刻そうな表情に思わず残っていたケバブを握り潰してしまい、辛味ダレが飛び散るが今はそれ所ではない。

 慌てて立ち上がった俺にモヒさんは頷いて話を続けた。


「最近、初心者狩りをする悪質な冒険者がギルドに潜んでるって噂でなぁ。

 実際、何人かの若手が行方不明になってんだよ」

「なっ…! 重大事件じゃないか、そんなの!?」


 でも、ギルドでそんな噂は聞いた事はなかったが…


「俺もギルマスから相談されて信用できる奴を紹介してはいるが、今はまだ尻尾が掴めてねぇんだよ。

 だから話を大きくして奴らに逃げられたりしねぇようにまだ公にはなってねぇんだ。 お前が口が堅い奴だって分かってるから教えてるんだぞ?」


 モヒさんの真剣な表情に俺はその場に固まってしまう。

 もしそんな連中にあの3人が襲われてしまったらと考えると俺は寒気が止まらなくなってしまう。

 でも、3人共人がいいから悪意に晒されてても分からないかもしれない…


「ん?」


 人がいい…? いい人?

 俺の中で天啓が閃き、ギルドでのある光景を思い返す。


「そうか、そういう事だったのか!!」


 俺は勘違いしていた。

 このギフトの本当の使い道をやっと理解出来た。


「ありがとう、モヒさん! そんな大事な事を教えてくれて!

 俺、急いでいかないといけない所があるんだ!」

「んぉ? お、おぅ? 力になれたなら何よりだぜぇ、キーキッキッキッ!」


 急に感謝されて何が何やらといった様子ではあったが、俺が吹っ切れたようなのをみるとモヒさんも笑って送り出してくれる。


「ありがとう、モヒさん。 今度はちゃんとケバブ買いに来るよ!」


 そうして、俺は駆け出した。

 俺の事を想って悪人を演じようとするような不器用な仲間達の元へ。



 一方、その頃。

 ソウド達3人は絶体絶命の状況に追い込まれていた。

 親切な先輩冒険者だと思っていた優男の正体はギルドにバレない様に悪事を重ねてきた犯罪者であり、クエストの休憩中に彼から差し出された水を飲んだ3人は痺れ薬により動けなくなっていた。

 しかも、事前にギフトの説明もしていた為に真っ先にシスが拘束されてしまい、解毒も出来ない状況になっている。


「く…クソ…最低だぞ…あんた…!」


 倒れ伏し、満足に動けぬ身体で先輩冒険者を睨むソウド。

 しかし、そんなソウドの様子をその優男は愉快そうに眺めている。


「おーおー怖い怖い。 まぁ、安心しろって、殺しはしねぇ。

 こっちのメス2人は上玉だし、お前も変態貴族が高値で買ってくれそうな見た目だしな。 ただ、下手な事出来ねぇように腱は切っておくか…」


 スッとにやけ面から無表情になった優男が剣を構えて近寄ってくる。

 傍では同じ様に倒れているレデルが悔しさからすすり泣く声が聞こえ、シスは猿轡を噛まされた状態で必死に呻いている。

 どうしてこうなってしまったのかと考えて、今はこの場に居ない大事な友の顔が思い浮かぶ。


「(そうだよな…これが約束を破ってしまった俺達への罰なのかもな…)」


 悔いても悔い切れないが、せめて彼だけでも無事で済むのを喜ぶべきなのかもしれないとソウドは友への悔恨を抱えつつ目を瞑った。


「そこまでだ!!」


 其処に響いてきた有り得ない筈の声。


「嘘…だろ? どうして…!?」

「お、お兄ちゃん!!」

「ヴーヴー!!」


 3人が同時にそちらに目を向けて、其処に立つゼン・クローニンの姿に驚愕する。



 モヒさんと別れた後、ギルドに駆けこんだ俺は3人が受けたクエストを確認し、その現場へと急いだ。

 予想が外れていたのならばそっと見守って帰ろう。

 もしあっていたのならば…このギフトの活用法で打開しようと思っていた。

 そうして、息せき切って駆け込んだ先で見つけたのは絶体絶命の状況の3人の姿と、彼らを追い詰めているあのギルドで見た胃腸の弱い優男の姿だった。


「チッ…目撃者が出やがったか、面倒だな」


 優男が片手を上げると隠れていたらしい男の仲間がぞろぞろと姿を現す。

 その数は大体30人ほど、成程、こんなもの初心者パーティーが敵う筈もない。


「見たところ一人じゃねぇか、英雄さんよ?

 よっぽど自分のギフトに自信ありってか?」


 数の利がある優男は余裕の表情でこちらに尋ねてくる。


「いいや、俺のギフトは『実はいい人』だ」


 俺がその疑問に答えてやると辺りはしんと静まり返る。

 次に聞こえてきたのは集団の笑い声だ。


「じ、実はいい人だぁ!? ヒヒヒ、なんだよそりゃ!!

 お前がいい人なら俺は悪い人で~す!」


 優男はこちらを馬鹿にするようにお道化てみせ、奴の仲間達もそれに呼応して俺を馬鹿にしてくる。


「に、逃げろ…ゼン! 君のギフトで勝てる相手じゃない!」

「だ、駄目、お兄ちゃん! 私達は平気だから、お願い逃げて!」


 二人の言葉に同意するように猿轡をされたシス姉さんも必死に笑顔を作って頷いている。

 本当に…皆いい人だ、こんな時でも自分より俺の事を心配するなんて。


「大丈夫、俺は負けない!」


だからこそ、俺は逃げる訳にはいかない。

俺の言葉に先程まではこちらを嘲笑っていた優男の動きが止まり、一つ溜息を吐く。


「ハァ、もういいわ。 お前もう消えろ?」


優男が剣を構えてこちらに向かって来ようとする。

だが、次の瞬間。


「ハゥアッ!?」


急に優男とその仲間は腹を抱えてその場に蹲った。


「な、何で…念の為に万能薬も飲んできたのに!?」


30人の悪人共から急に鳴りだした腹の音がまるで落雷の様にこの場に響き渡っている。


「俺のギフトは俺に作用するものじゃない、俺に関わろうとする悪人を自然と遠ざける能力のギフトだったんだ」


故に悪人ではない3人やモヒさん、一般の人には効果がなかったのだ。


「わ、分かった、俺達が悪かった…! 解毒剤は渡す!

 だ、だから…この腹痛を止めてくれ!!」


優男は冷や汗を垂らしながら必死にこちらへ助けを求めてくる。

どうやら俺のギフトは距離が近ければ近い程より強く作用するらしい。


「悪いな、どうやら自動発動型みたいなんだ…だから、もう遅い」


レデル、シス姉さん、本当にごめん。

せめてもと俺は二人の鼻に詰め物をする。

ソウド、そんな顔をするな、俺も地獄は味わうから。

そして、


「ア―――――――ッ!!」


31人分の絶叫が響き渡った。


その後、で動けなくなった犯罪者グループをギルドに引き渡し、俺達は街へと引き上げた。

ギルドでシャワーを貸してくれるというので厚意に甘え、身体に着いた臭いを洗い流した。

戻ってきた当初は全員疲れ切って蒼褪めた表情をしていたが、広間で顔を突き合わせると自然と笑いが零れてしまい、その場で4人で大笑いして周囲からは怪訝な目で見られてしまったのだった。


その後、俺は正式に雑務担当として3人と一緒にパーティーを組む事になった。

清濁入り乱れる冒険稼業で俺のギフトは真贋を見抜く事に長けている。

そうして、悪政を敷く愚王から依頼された竜退治を実は王が卵を盗んだ事が原因だったり、森のエルフと人間の仲を取り持ったり、人と敵対する存在だと思われていた魔王と人類の歴史的和解を成し遂げたりといった偉業を成していく事になる。

後に『真実を見抜く目』を持つ男と呼ばれた俺と、その大事な仲間達の冒険譚はまた今度の機会に話す事にしよう。

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