第33話 被害状況
現場では警視庁と県警の刑事たちが集まって、悔しさをにじませていた。
「被害状況は」
「意識不明者が二名、重軽傷者併せて五十名を越えるかと」
「死者は?」
「まだ未確認です」
被害が大きかったのは、バイクの爆発に巻き込まれた連中だった。全身火傷を負った族と破片で血まみれになった族が先ほど救急車で運ばれて行った。別の場所で肩が脱臼した刑事がいた。いずれにせよ死者は出ていない。これだけの大事であって、殉職者を出さずに済んだのは不幸中の幸いだと、誰もが思った。
しかし肝心のホシは捕らえられなかった。現場が落ち着きを取り戻していく中で、その事実は判明した。無線では犯人確保、少女を保護と誰もが耳にしていたにも関わらず、誰も犯人を連れ帰っては来なかった。現場にいた刑事たちはみな、唖然としていた。
「あの声はなんだったんだよ。幽霊じゃあるまいし」
「捕まえてもないのに、捕まえたなんて報告流したのか?」
警視庁の刑事が言った。
「族が勝手に無線使ったんだ。じゃないと説明がつかねぇ」
「無線に介入されてたとしか考えられん。犯人が逃げた場所は守りが薄くなってたんだ」
別の刑事が驚きながら言った。
「そんなまさか。信じられん」
「これだけ被害を出しておいて、肝心のホシを逃したなんて、恥さらしもいいとこだ」
「協力者がいたってことは? 連中、逃げ出すときやけに思い切りがよかった」
「無線記録を調べてみないことには」
「とにかく辺りをもっとよく探せ。まだそう遠くへは行ってないはずだ」
話し合いを打ち切ると、手ぶらの刑事たちは、一人また一人と、逃げたホシを捜しに方々へと散って行った。
市原は応急処置の包帯を足に巻いて、ボンネットの凹んだパトカーに乗っていた。後部座席には市原の他に捕まえた族を二人押し込んでいる。族は捕まってからはえらく大人しかった。走りだそうとしたとき、市原は見知った顔を外に見つけて、運転席の警官に呼びかけた。
「ちょっとストップ。ストップで」
ガラス窓を開けて、男に呼びかける。
「村越さん」
市原の呼びかけで村越が寄ってきた。
「来てたんですね」
「さっき来たんだよ。無事だったか」
「いや全然。足噛まれて血が止まりませんよ」
「血まみれだな。鼻血かよ。大したことねぇな」
村越がまじめな顔でそう言った。
市原が続ける。
「ホシがいました。驚きましたよ。なんでまだここにいるのか、知りませんでしたからね」
「バイクで飛んでった女も今頃病院にかつぎ込まれてるよ」
それを聞いて、族たちが横やりを入れる。
「姐さん大丈夫なんすか」
「なんだよおまえら」
村越が嫌そうな声を出す。
「無事だよ。死んじゃいねぇよ。バカな女だよ」
「あぁ? おまえ姐さん侮辱してんのか? あぁ?」
族が怒る。
村越が無視して、市原に言った。
「お前もよくやったよ。こんな現場はなかなか立ち会えないぞ。良かったじゃねぇか」
「二度とごめんですね」
市原が心底嫌そうに、首を振って答えた。
「結局、ホシを取り逃がしたんですよ。これだけ怪我して。まったく。はずれくじ引いた気分ですよ」
村越は血まみれの市原を見て、少しだけ笑みを浮かべた。
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