第14話 捜索①

 デスクには一課長の白神と管理官の尾上、特殊犯係長宇野、所轄署署長大田原の姿があった。白神が時計に目をやり、隣の宇野に話しかけた。

「日没まであと三十分か。今日見つけられなかったら、公開捜査も視野に入ってくるな」

「ええ、そうですね。あまり考えたくはありませんが、犯人はすでに単独で逃走している可能性だって考えられますよ」

「遺体はまだ出てきていない。結論を急ぐな」

 静岡市内のホテルに泊まったところまでは判明していた。しかし、そこからの足取りが一つも掴めない状態だった。そこへ女児の服だけがゴミ箱の中から出てきたのだ。捜査員たちの中にも最悪の状況を思い浮かべて顔色を濁す者が現れ始めた。行方不明になってから丸一日。依然として捜査は予断を許さない。

 ドアが勢いよく開いて、所轄署刑事課長の飯島が部屋に転がり込んでくる。大柄な飯島は、太った腹を揺らしながら、目一杯に声を張り上げた。

「みつかりました! 二人の目撃情報入りました」

「場所は。場所」

 白神と宇野が立ち上がり、急かした。捜査員たちの視線もそちらへ向かう。

 飯島は息せききって、苦しそうに答えた。

「浅草です。今日の午後一時に浅草の前を歩いていたようです」

 それを聞き、みなの顔が一斉にこわばった。管理官の尾上と課長の白神がバツ悪そうに目を合わせる。二人は同じことを考えているらしかった。願わくば、東京にいて欲しくはなかった。

「名古屋じゃないんですか」

「浅草です」

「どこのタレです。その浅草というのは」

 尾上が問いただす。

 飯島がデスクにまで寄ってきて説明を加えた。

「浅草署の者からの証言です。別件で二人に声をかけた後、派出所に戻ってから気が付いたと」

「どうしてすぐ気が付かなかったんです」

「外見が変わっていたようです。男はメガネをかけて頭も丸めていたと」

「女児は、女児の服装はどうなっていた」

「変わっていたようです」

 宇野が舌打ちを入れ「くそうっ」と悔しさをにじませた。

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