10.原初の火球使い


「俺に撃ってこい!」

「ファイアーボール!」


 薬草採取の依頼を受けた俺達は、その森林でアリサの魔法を見ていた。

 その時、俺は疑問を抱く結果となった。


「適性はSSなのに、なんで威力が低いんだ?」

「ち、違うわよっ! ニグリスが耐えられる方がおかしいの! 木を三本は軽く倒せるのよ!?」

「治癒魔法を重ね掛けすれば肉体は強靭になるし、ダメージを負う心配もないんだ。これが俺の編み出した技、名付けて【重着治癒(レイヤードヒール)】」


 常に治癒魔法を展開し、支援するというのを自分にも適応させる魔法だ。まともに前線に出たことがなくて使ったことがないから、せっかくならアリサの魔法を受けてみたいと的になっていた。


 だがアリサのファイアーボールの威力では、俺にダメージを与えることはできなかった。


 フェルスの魔法適性はAだ。それでも初めて魔法を使った時はアリサ以上の威力を見せてたし、Sとなればもっと強いのではないかと思ってたんだけど。


「やはりこれのせいか……?」


 鑑定した時に出ていた【原初の火球使い】。


「アリサはフェルスと違って呪いは受けていない。だけど、ファイアーボール以外は使えないんだろ?」

「ええ、私はファイアーボールしか使えない宿命に掛かっている」

「……あの、よく分からないのですが」


 フェルスが首を傾げた。

 それもそうだろう。俺もよく分からない。

 

 宿命ってなんだ。


「私はファイアーボールに一目惚れしたのよ! 全てはファイアーボールのために、ファイアーボールこそ私の原点(オリジン)!」

「……アリサが好きなのは分かった。問題は威力だ。なんで微妙な威力なんだ?」


 フェルスよりも才能があるにも関わらず、魔法の威力が低い。

 呪いではないとなると、俺と同じスキルとかと同じ類か?

 今の俺ではなんも分からないな。


「知らないわよっ。私のファイアーボールはこれが最大。才能があるって言ってくれたのはニグリスでしょ? もしかして、あたしは才能がない?」

「……いや、ある」


 鑑定スキルが狂うことはない。

 実際、ステータスは変化していない。見間違いではないのだ。


 こういう時に何か役に立ちそうな魔法があればいいんだがなぁ。


 休憩を挟んで、腰を落ちつかせるとアリサが問いかけてきた。


「ねぇ、ニグリスの治癒魔法ってなんで他の人と比べて異常なの?」

「凄いかどうかは知らないが、使う時に意識していることはある程度くらいか」


 フローレンスの時も、何とかしてやりたい、助けてやりたいという気持ちが強くあった。


「助けたいと想って魔法を使えば、治癒魔法はそれに応えてくれる。そう思ってるんだ」


 ただ、みんなのためになりますようにと努力してきた。

 偽善者だと笑われても、反論はできないな。

 それが俺なのだ。

 

「……っ! そう、そうよ!」

「急にどうした」

「元来魔法は、どうしたらみんなが幸せになれるのか、そのために生み出された物なの。大事なことを忘れていた……」


 何か答えを導き出したのか。アリサは奥の森林に向かって杖を構えた。


「問題は気持ちだったのよ……お金や権力のためじゃない。純粋に人を助けたいと思うニグリスと同じように。あたしも、あたしの才能を信じてくれる人を考えて撃てば良かったのよ!」


 杖の先を掲げた。


「ファイアーボールッ!!」


 螺旋の渦が先端に集中し、大きな球体を作り出していく。

 その風圧により森林は揺れ、土を抉るようにして魔法は放たれた。


 ────ドゴォォォォンッ


 砂埃が落ち着き、広がっていた光景は凄惨な物だった。


「な、なんですかこの威力……っ!!」

「あ、あたしってこんな魔法撃てたの……?」


 魔法適性S。

 これが本来の力。


 驚きと歓喜。それですっかり頭から抜けていた。


「あ、アリサ? なんでお前、あっちに撃ったんだ?」

「知らないわよ。偶然あっちを向いて撃とうかなって思っただけ。どうせこの辺りじゃ大したモンスターはいないでしょ?」

「……お前の撃った魔法、どうにも最悪な場所に当たったみたいだぞ」


 俺はこの森で数年間も冒険してきたから知っていた。

 このモンスターの森は奥に行けば行くほど恐ろしいモンスターが数多くいる。

 

 そして、アリサの撃った魔法はこの森の主。堅守のドラゴンの巣を直撃していた。


 ……最悪だ。なんで一番面倒臭い奴に喧嘩売った!?

 俺はドラゴンに鑑定を使い確認していた。

 

「危険状態の堅守のドラゴンが、こっちに飛んできてるんだが?」

「……マジなの?」


 

 堅守のドラゴン。

 討伐難易度:SSランク。


 Sランクパーティー、銀の翼が討伐に失敗したことでSランクからSSランクに引き上げられたモンスター。


 冒険者ギルドはこのドラゴンの討伐に、匙を投げた。

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