9.≪二人目の仲間≫


 屋敷の生活を初めて次の日。

 そろそろ冒険者ランクをDランクから上げたいなと考えていた。モンスターの素材を換金してもいいが、適性ランクの依頼として受けた方が報酬は良い。


 将来を考えて、ランク上げは大事だろう。


「ハンバーグが食べたいです!」

「そうだな。最近はフェルスには頼りっぱなしだから、ハンバーグにするか」

「ありがとうございますっ!」


 少し前まで俺に意見することすらなかったフェルスが、徐々に自分を表現するようになっていた。

 元々根が明るい子だったけど、こうしてみると良い変化だ。内心で嬉しくなってしまう。


 飯屋に入って席に座る。

 店内を見渡すと、ひと際閑散としている場所があった。


 なんであそこだけ客が周りにいないんだ?


 そこには赤髪の少女と大男が居た。


「近寄るんじゃねえ! お前みたいな穢れた血と一緒に冒険なんかできるか!」


 怒声が響く。

 何事かとそちらを振り向くと、さきほどの赤毛の少女が膝をついて殴られていた。


 やや吊り目の赤い瞳をした気の強そうな顔立ちをしている。


 何と言っても、辺りの人たちとは違う赤い髪色。

 その騒ぎに他の冒険者たちが気づく。


「おい、ニーノ人なんか見るなよ」

「薄汚ねぇ血だ……アイツの周りで飯なんか食えるか」

「どこから湧きやがったウジ虫が」

 

 罵詈雑言が彼女に浴びせられる。

 ニーノ人。あまり聞き慣れない単語だった。


 俺は元々王都には居なかった人間だから余計にかもしれない。


「ニーノ人でファイアーボールしか使えないなんて、才能ないから魔法使いやめちまえ!」

「あ、あたしのファイアーボールは最強よ!」

「ギャハハハッ! 馬鹿かよお前。魔法使いは複数の属性を使えるから有能なんだよ! 無理なら娼婦の真似事でもしてろ!」


 少女は物を投げられ、立ち上がることも許されないよう念入りにイジメられていた。

 ……酷いな。

 その少女が悪いことをしているようには見えなかったし、ニーノ人という単語が気になる。


「フェルス、ニーノ人って知ってるか?」

「はい。ニーノ人は瞳と髪が赤く、伝承では人の肉を喰らい血を浴びたからと聞いてます。さらに、ニーノ人は知能が低く、魔法の才能もないとして穢れた血と言い伝えられていると聞いたことがありますね」


 なるほど。俗に言う人種差別という奴か。

 フェルスはあまりそういった意識は薄いようで、ニーノ人の少女へ可哀想な視線を向けていた。


 正直、俺も差別はあまり見ていて心地が良いものではない。

 せっかくフェルスが自らハンバーグを食べたいと言い出したんだ。


 こんな空気で美味しく食べられないだろ。


「もうやめておけ」

「おいおい、てめえはSランクパーティーを追放された無能じゃねえか!」


 ギッと男の腕を握る。


「てめぇっ! 離しやがれ────痛ってぇぇぇっ!」

「治癒」

「う、腕が折れて……あれ?」

「折ってすぐ治した」

「う、訴えてやる!」

「訴えた所で証拠がないだろ? お前がそう言うんだったら……」


 もう一度折ろうと力を加えると、男は顔を歪めた。


「や、やめてくれ……っ! 俺が悪かったから!」


 男はそう言うと逃げ出すようにその場を去った。


「あんた、なんで助けたのよ」

「助けたいと思ったからだ。立てるか?」


 彼女はふんっと手を弾いて立ち上がる。

 どうやら俺も周りの人間と同じだと思われているらしい。

 差別されてきた人生ならば無理もないか。


「あの男、あたしのことを思いっきり殴って絶対に許さな……あれ?」

「治癒しておいたぞ」

「あんた、何者?」

 

 疑わしく見られたものの、治癒したことで敵ではないと分かってくれた。


「まぁいいや。あたしなんかと関わってると、あんたまで嫌われるわよ」

「元より嫌われてる人間なんでね。これ以上は下がらないんだ」

「……どういうこと?」

「Sランクパーティーから追放された無能って聞いたことないか?」

 

 自分で言うのもなんだが、名前を言うよりもこっちの方が名前が通っていることに気付いた。

 説明の必要もない。


「あぁ、あんたも悲しい過去を持っているのね」


 よく見るとこの子、普通に可愛いな。ローブで身体を隠しているからよく分からなかったが、清楚な顔立ちをしている。

 可愛いタイプの子だ。

 

「私もそうなのよっ! 産まれた頃から赤い宿命を背負い、血塗られた人生を歩んできた……これぞ呪い!」

「呪いに掛かってるのか?」

「いや全然。産まれた頃から病気に掛かったことすらない」


 あっ……これ会話が通じないタイプの人間だ。

 悪い子ではない気がするのだが、どうにも一方通行だ。


 まぁ元気ならいいか。

 一応、気まぐれに鑑定してみる。



【種族】ニーノ人

アリサ・スカーレット 17歳 状態:警戒


魔力 大

剣士 D / D

魔法 S / SS

器用 D / D

忠誠 0


【原初の火球使い】

ファイアーボールしか使えない宿命に掛かっている。



 ぶはっ!?

 なんだこのステータス!?


 ま、魔法SSって、フェルスの剣士適性並みじゃないか!

 い、いや……他のステータスが全部死んでるけど。


 それでも潜在能力の魔法はSSか。今でもSってフェルスより上じゃないか。

 最後の【原初の火球使い】が気になるが、呪いの一種? いや、違うな。こういう表記は初めて見た。


 スキルの類だろうか。


 剣士はフェルスがいるけど、魔法使いはいない。それに魔法適性SSなんてそう居るもんじゃないぞ。

 ぜひとも仲間にしたい……。

 

「パーティーを探してるんだろ?」

「だったら何よ。あたしの体目的ならやめときなさい。痛い目見るわよ」

「そうじゃない。君には魔法の才能がある」

 

 こういうことは隠さずに言うべきだと思っていた。

 下手に誤魔化すよりも、自分の思ったことをそのまま伝える。


「えっ……私の才能を分かるの!?」

「悪い。勝手に鑑定した」

「ふふんっいいわ。私の才能、見せてあげる!」


 一緒の依頼を受け、森林へと向かう。

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