第37話 ユンのコネ

 ユンはアレクシアの年齢を聞いてから俺のギルドカードを預かって、


「ギルドマスターと話してくるね!」


 と言って、屋敷から出て行った。

 ユンはギルドマスターと話してくるね、って簡単に言ってたけど、とても凄いことなんじゃないだろうか。

 冒険者ギルドから魔導具作成の依頼も受けていたことだし、ユンの人脈はとても広そうだ。


 その日の夜、夕食時にアレクシアのギルドカードが渡された。


「巨大亀の討伐クエストはもう張り出されているみたいね。定員は無制限でDランク以上の冒険者が参加できるみたいだわ」

「Dランク……少し足りないな」


 俺のランクはEランクなので、こうなるとクエストに参加せずに、個人的にタイミングを合わせて行動をする必要があるな。

 アレクシアも登録したばかりでFランクだろうし、ユンの時間を無駄にさせてしまった。


「ふっふっふ。ノア、自分のギルドカードをよく見てみなさい!」

「ん?」


 そう言われ、自分のギルドカードを見てみた。

 なんと、ギルドカード表記されていたランクがEからDに変わっていた。


「Dランクになってる……」

「ノア、これがコネよ」

「コネ……すごいな……」


 もしかして、と思い、アレクシアのギルドカードも見てみる。

【名前】アレクシア

【ランク】D

【性別】女性

【年齢】15

【種族】人族

【才能】魔法使い


「アレクシアもDランクになってる!?」

「ええ、じゃないとクエストに参加できないからね!」


 凄いな、ユン。

 実績のない新人冒険者をDランクにしてしまうとは……。

 才能は魔法使いになっており、正式に才能は鑑定された訳ではないが、悪くないチョイスだ。

 アレクシアの魔法の実力はかなりのものだから不自然に思われることはないだろう。


「じゃあこれで討伐クエストに参加できるわけだね」

「もうすでに参加させておいたわよ。決行は明後日。巨大亀の進行速度を考えると3日後にこの街にぶつかるみたいだから」

「3日後!? タイムリミットまでの時間が少なすぎるな……」

「ええ。だから私も戦いのサポートに回ることになったわ。これは一刻を争う事態になってる。ラスデア国中から人材を集めて、投入される兵力は総勢20万」

「20万……よく集められたな」

「予想だけどね。それぐらいは集められる計算になっているわ!」

「凄いな」


 それぐらいって言っちゃうあたりとかね。

 ユンの凄さを垣間見た瞬間だった。


「ユン、ありがとう」


 ギルドカードを手に持ったまま、アレクシアが言った。

 片言だが、アレクシアはしっかりとラスデア語を話していた。


「えっ!? ユン、もうラスデア語を話せるようになってるの!? すごいじゃない!」

「すこしだけ」


 通訳せずともアレクシアは少しずつ、言葉の意味を理解できるようになっていた。

 凄い上達速度だ。


「ふふっ、アレクシアとちゃんとお話出来る日もそう遠くないわね! そのためにもあの亀は何としてでも倒さなきゃね!」

「そうだな。あの亀は何としてでも倒そう」


 これからの平和な日常を守るために。

 そして、アレクシアの父の仇を討つために。


 ◇


 夕食と風呂を済ませ、寝室にやってきた。


『まったく、我の忠告をあっさりと無視しおって』

『ははは……ごめんよ。ファフニール』 

『まあ無視されるだろうとは思っておった。ノアのことだからな』

『ファフニールは危険だったら逃げて良いよ。俺が死ねば俺との契約も切れるだろうから』

『今更そんなことするか。むしろ危険になったら我が助けてやるわ』

『ファフニール……ありがとう。心強いよ』

『ふんっ、なにせ我はノアの従魔なのだからな。これぐらい当然であろう』


 ファフニールは本当に良いやつだ。

 従魔になってくれて、本当に良かったと思う。


『ノア、起きてる?』


 扉の外からアレクシアの声がした。

 今日も一緒に寝る約束をしていたから、俺の部屋にやってきたのだろう。


『起きてるよ』


 扉を開けて、アレクシアを迎え入れる。


『今日も一緒に寝てくれる?』

『もちろん。俺もアレクシアがいてくれてよく眠れたから』

『そ、そう……。それなら私も嬉しい』


 アレクシアはそっぽ向いて、言った。

 耳が少し赤くなっていた。


『もう眠い?』

『どうだろう。たぶん眠いと思う』


 たぶん眠い……。

 ちょっと反応に困るな。


『そっか。じゃあもう寝ようか』

『分かった』


 まあ寝ようと思えば眠れるだろう。

 そう思い、ベッドで横になった。

 そして、昨日と同じように寄り添った。

 誰かが一緒にいるのは案外落ち着く。


 それから他愛もない話をした。

 アレクシアが現代を見て思ったこと。

 ラスデア語のこと。

 夢幻亀についての話題が出ることはなかった。

 残された時間を満喫するかのように、普通の会話を楽しんだ。

 そうしている内に俺たちは眠りについていた。


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