おにぎり

 


私は、昔からおにぎりというものが苦手だった。




白米は好きだ。鮭に昆布、特に梅干しの取り合わせなど至高とすら言える。


そこに汁物などつけてしまえば、もう他に何も望むまいとすら思える。




だが、おにぎりは駄目だ。


まず、海苔がいけない。海苔自体は大変に好みだが、包んだ白米の湿気にやられ、ざんばら頭の髪の毛の如くへばりついているのが気に入らない。


一口齧れば赤い果肉が溢れ、口端から垂れるのも。


それこそ亡者の恩讐よろしく手指に絡む藻の繊維など以ての外だ。




だが、そんな私にも例外はある。




或る日、その日の食を求めてアパートの階段を下ると、ひっそりと柱に隠れるようにビニールの袋があった。見覚えのある、よく通うスーパーの袋だ。


好奇心に負け中身を確認すれば、そこには大きなおにぎりが一つ。




「…何故、此処に?」




気味が悪くも思ったが、今の自分は、普段とは違う。


とても、とても腹を空かせている。


そっと持ち上げると、やはり海苔はへばりつき不快感を催したが、そのまま齧りついた。


赤い、蕩けた果肉が口端から零れ落ちる。


不快だ。不快だ。


途中、耐えきれずに打ち捨てようとすれば、種と目が合い。




「不味い」




髪の毛のような繊維を振り払いビニール袋に戻せば、そのまま焼却炉にぶち込んだ。



 

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