雪那と紗綾




 雪那の家の外にて。


「昨日ね。武兵が来た。号泣して雪那に振られたって」

「そうか」

「もう武兵と一緒には暮らせない?」

「武兵が一緒に居たくないだろう」

「うーん。多分。ううん。絶対この家に帰ってくるよ」

「そうか」

「うん」

「紗綾」

「うん」

「私は誰とも結婚する気はない」

「人に恨まれる仕事をしていて、結婚する人に危害が加えられるかもしれないから?」

「いや。私は、おまえたちの幸福な姿を見ていられるのならば、十分満たされる。幸せだ」

「………私たちが幸せだったら。雪那。幸せ?」

「ああ」

「雪那」

「ああ」

「死ぬ瞬間を想像したこと、ある?」

「ああ」

「どんな?」

「老衰で、紗綾と武兵が傍に居る」

「………」

「仁科と澄義は年を考えると死んでいるだろうが、生きている可能性もある。だから、仁科と澄義も居るな」

「………熒様も、潮さんも寧音ちゃんも、間宮さんも白水さんも斗志さんも居る」

「ああ」

「………ずるいよ。雪那。そんな事を言われたら。武兵と結婚する気になるようにいっぱい言おうと思ってたのに、言えなくなっちゃった」

「すまない」

「ほんと」

「紗綾」

「なーに?」

「………私は誰かに殺されて死ぬつもりはない」

「………うん」

「恨みは星ほど買うが、結婚しない理由ではない」

「うん」

「結婚しないが、ここには帰ってくる。どれだけ遠くに行っても必ず」

「………雪那」

「ああ」

「武兵、好き?」

「ああ」

「振っちゃっても、好き?」

「ああ」

「私と同じくらい?」

「ああ」

「いとおしい?」

「いとおしい」

「………私も家に帰ってこようかな」

「好きにしろ。ここは私と紗綾と武兵の家だ。ただし、奇襲がある事を忘れるな」

「私も鍛錬しているもん。武兵にだって負けないわ」

「そうか」

「うん」

「紗綾」

「うん」

「ありがとう」

「私もっ。いっぱい、いっぱい、いーっぱいありがとう。これからもよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」












(2021.11.2)


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