雪那と武兵
雪那の家の中にて。
「雪那さん」
「………」
「雪那くん」
「………」
「雪那ちゃん」
「………」
「雪那氏」
「………」
「雪那さま」
「………」
「雪那どの」
「………」
「もう何だよ!」
「私の科白だ」
「だってよ。どの敬称付けても反応ないじゃねえか」
「ない」
「何でだよ!」
「何故と言われても。何がしたいんだ?」
「何って。変化を求めて」
「十分変わっているだろう」
「そうだけど。そうじゃなくて」
「何か悩みがあれば闘うが」
「話を聴くじゃなくて?」
「私が聴いて解決する悩みなのか?」
「うーんんんんん」
「紗綾のように家を出たいなら出ても構わないし、まだ不安があってこの家が抑止力になるのなら居ても構わない。だがもしもこの家の整理を考えているのなら、遠慮しなくて出て良い。先の十年みたいに長い間家を空ける予定はない」
「いやあ、この家は居心地が良いから、できればずっと、住んでいたいなあ、と」
「死ぬまでか?」
「ああ、うん」
「おまえは結婚する気はないのか?」
「いや、無きにしも非ずだけど」
「………私に出て行けと言いたいのか?」
「ちっげーよ!」
「では私と結婚相手とおまえと三人で暮らすのか。まあ、構わないが。何か遭った時、結婚相手も一人だと不安だろう。身重の身体や子どもが居れば猶更だ。ああ、いや。しかし。私も恨みを買う立場だ。やはり一緒に暮らすべきではないな」
「………はあ」
「どうした?」
「いや。うん。ああ。うん。俺が悪いんだけどな」
「誰かと仲違いしたのか?」
「仲違いじゃなくて。ただ俺が伝えられてないだけだ」
「………そうか」
「ああ、言っとくけど。紗綾と付き合いたかったとかじゃないからな。紗綾は妹みたいな存在だから」
「そうか」
「雪那もほんと言葉がないな」
「すまない」
「謝らなくていい。俺も………俺さ」
(2021.11.2)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます