第45話 ガーゴイルくんと空の遊泳。ガーゴイルくん飛べたの?

 箱庭の中に入ると、ワイバーンの子供たちがヨチヨチ歩きで俺の方へかけてきた。


 そして、パタパタと羽ばたき、1mくらい手前から飛びついてきた。




「すごいな。もう飛べるのか」


「えぇ元気いっぱいで困ってしまいますよ。一応、早く飛べた方がいいと思ったので、今スカイバードくんと僕とで飛び方教えているんです」




「えっ? ガーゴイルくんって飛べるの?」


「もちろん飛べますよ。背中にある羽は飾りじゃないので」




 ガーゴイルくんは俺の目の前でパタパタと翼を羽ばたかせ飛んで見せてくれる。


 まさか飛べるとは思っていなかった。




 今までずっと歩いているだけだったし。




「俺を乗せても飛べるのか?」


「はい。できますよ。さすがにラッキーさんを乗せては難しいですが、ロックさんとシャノンさんくらいならいけますよ」




「本当か? ちょっと飛んでみてくれ」




 俺とシャノンはガーゴイルくんの背中に乗る。


 今まで空を飛んでいる魔物を見たことは何度もあるが、実際に自分が飛ぶのは初めてだ、




 ガーゴイルくんが思いっきり羽を動かすと、バフッと空中に浮かび上がる。


「おぉ! すごいな!」


「ちょっとだけ怖いですね」




 シャノンが俺に身体を寄せてくる。


「大丈夫だよ。ちょっとだけ空の散歩だ。ガーゴイルくん外に出れるか?」


「もちろんです」




 俺たちはガーゴイルくんに乗ったまま箱庭の外に出る。


 そのまま俺たちは王都上空まで飛び上がった。




 シャノンがさらに身体を近づけてくるので、肩を抱き落ちないように支える。




「すごい。王都の光がキラキラ輝いて光の絨毯みたいですよ」


「本当だな。シャノン、空もすごいぞ」




 下は王都の夜景が広がり、空には満天の星空が広がっていた。


「お月様に手が届きそう」


「本当に。ガーゴイルくんありがとうな。まさかこんな空の遊泳を楽しめるとは思わなかったよ」




「いえいえ、お役に立てて光栄です。戦闘では、やっぱりお役に立てそうにないので」




「ガーゴイルくん、戦いだって向き不向きがあるように戦闘で役に立たないとか気にしなくていいよ。こうやって空を飛べるのだって立派な特技なんだから。それにガーゴイルくんは封印を解けばもっと強くなる可能性もあるんだし」




 ガーゴイルくんは戦闘で戦えないことを、どうも気にしているようだった。




「ありがとうございます。封印は解いてしまったら、自分が自分ではなくなってしまいそうで怖いので……でも、ワイバーンたちが大きくなれば、みんなで空の散歩などもできそうですよね。今から楽しみですね」




「そうだな。ぜひラッキーも飛べるくらいの大きさの仲間もいればいいな」




「それなら、ちょうどいい魔物がいるのを知ってますよ。僕の親友なんですが、彼ならラッキーさんを乗せて飛べると思います」




「へぇーどんな魔物なんだ?」


「グリフォンくんって言うんですけど、彼なら身体も大きいのでラッキーくんも乗せて飛べますよ」




「そうか。それなら今の王都での依頼が解決したら、そのグリフォンに会いにいくか」




「ぜひ行きましょう。彼は優しいのできっと僕たちの仲間になってくれますよ。よく彼とも夜の散歩を楽しんだものです」




 ガーゴイルくんは懐かしそうにそう語っていた。




「少し寒くなってきたから、そろそろ戻るか」


「わかりました」


「ガーゴイルさんありがとう。とっても楽しかったわ」




 ガーゴイルくんは地面に降り、箱庭の中に戻った。


 箱庭の中ではみんなが食事の準備をしていた。




「パパーご飯にしよー」


「そうだな。ご飯にしよう」




 今日はキャベッツたっぷりの回鍋肉だった。


 お肉も野菜もカットが大きめで食べごたえもしっかりしている。




 魔物肉は、脂の旨味満点で濃厚な甘辛さが食欲をそそる。


 また、甘みを帯びたにんじん、水分豊富なキャベッツも甘辛く濃いめなタレとの相性も抜群だった。




 これはご飯が進んでしまう。




 みんな幸せそうな顔をしてご飯を食べている。


 ワイバーンたちは生まれたばかりなのにガッツリお肉を食べていた。




 ミルクとかじゃなくて大丈夫なんだな。


 パトラが世話を焼いているので多分大丈夫だろう。




 オレンジアントたちは横に一列に並んで食べている。


 パトラ以外言葉を発したりはしないが、お互いには身振り手振りで話をしているようなので、それはそれで楽しそうだった。




 食事が終わると、みんなそれぞれ働いたり、休んだりしている。




 俺はいよいよ楽しみだった温泉に入ることにする。


 温泉は白く濁った湯で、箱庭の中を一望できるように、ちょっとだけ高くなった丘の上に作られていた。




 見られて困るのはシャノンくらいだが、これなら下から見上げても見られることはない。


 それに、俺も間違って見てしまうようなハプニングが起きないので安心だ。




 身体を洗ってからゆっくりお湯に浸かる。


 お湯の効能が効いているのか、ポカポカとして気持ちいい。




 少ししか入っていないが肌もサラサラになっている気がする。


 俺が一人で温泉を堪能しているとラッキーがやってきた。




『珍しいな。一人で入ってるのか?』


「あぁ、たまにはゆっくりするのもいいと思ってな。ラッキーは風呂が嫌いじゃないのか?」




『いや、水に濡れるのは好きではないが温泉は好きだぞ。それに水に慣れる練習もしてたからな』


「そうか、なら一緒に入ろうぜ。気持ちがいいぞ」


『あぁ。楽しみだ』




 ラッキーが入る前にある程度汚れを落としてやる。


 いつも助けてもらっているからな。念入りに綺麗にしてやろう。




 それから俺たちはタオルを頭の上に乗せてお湯の中に入る。




『ぷはぁ~。ここは魔物の楽園だな。ロック……連れ出してくれてありがとうな』


 ラッキーがおっさんのような声を出しながら、俺に改まってそんなことを言ってきた。


 むしろ助けてもらっているのは俺の方だ。




「いや、俺の方こそ一緒に来てくれてありがとう。ラッキーのおかげで俺はこの箱庭も手に入れることができたし、仲間を増やすことができた。ラッキーがいなければ俺はあそこの階層で死んでたかも知れないし、幼馴染を見返すこともできなかった」




『偶然か……必然か……。きっとロックなら私と会わなくても何とかしてたと思うぞ。でも、私はロックと出会えて嬉しいぞ』




「俺もだ。ラッキーと出会えて幸せだ」




 箱庭の天井はどうなっているのかわからないが、外と同じように星が描かれており、俺たちを淡い光が照らしていた。




 俺たちは自然と空を見上げ、そしてラッキーの出した前足に拳をぶつける。


 こんな幸せな日がずっと続くように、俺も頑張らなければ。




 その後、しんみりした空気はシャノンがパトラたちを連れて来たせいで一変した。


 わちゃわちゃとみんな騒いでいるし、シャノンは水着姿で入ってくるし、ガーゴイルくんが入ったら水が半分くらいなくなるしで大騒ぎだった。


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ガーゴイルくん「空の旅最高だった」

パトラ「私も行きたい!」

ガーゴイルくん「じゃあ今度二人で」

パトラ「それは大丈夫」


もし少しでも面白いと思いましたら下から♡をいれて頂ければと思います。


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