第17話 自分より弱い者とは組みたくない。そう彼女は俺に言った。でもそこには……
「それではロックさん今からEランクの冒険者を紹介しますが、ちょっと訳ありでして」
「Eランクで訳アリってどういうこと?」
「えっと……ロックさんがEランクの冒険者と組む場合に絶対にこれは嫌っていうのありますか?」
「やっぱり裏切られるのは嫌かな。あとは指示に従ってくれない人も困る。大きく言えばこの2つくらいかな」
裏切られるのはもう問題外だとして、人の話を聞かなかったりして指示に従ってくれない場合も困る。Eランクの冒険者を連れて行くということは人の命を預かるということだ。
それには相手の協力も必要になってくる。もちろん多少言うことを聞かなくても自分からアホなことしなければ俺が一緒に行って怪我するような場所ではないが。
「リッカさんそれより大丈夫なんですか? 色々独断で決めてしまっていて」
「えっ? 独断じゃないですよ。ギルド長にはロックさんが戻って来た時に話を通して許可をもらってますし、スムーズに処理できるように準備しておきますねって言ったじゃないですか。まぁもし何かあっても私こう見えてギルド副長補佐なのでそれなりに権限あるんですよ。ただの可愛いだけの受付じゃありません」
リッカさんは楽しそうにそう言うと俺の方へ親指を立ててくる。
そう言われれば3年前初めて冒険者ギルドに来た時に受付をしてくれたのもリッカさんだった。
あの頃から容姿は変わらず可愛いままだ。
なるほど。リッカさんにファンが多いという噂も納得できる気がする。
アイザックのように慣れてしまって見下す奴もいるかわりに、俺のように長年お世話になっていれば冒険者だって協力をしたくなってしまう。
それがこんなに可愛くて華奢ならなおさらだ。
それでギルドでも権力を持っているって……リッカさんには逆らわない方がいいかも知れない。
あれでも? ってことはリッカさんって結構年齢が……。
「ロックさん? 何か失礼なこと考えていませんか?」
俺の顔だけをみてそう判断するリッカさんはやっぱりやり手のようだ。
余計なことは考えない方がいい。
「いえ、何も考えてないですよ。E級冒険者がどんな人なのかなって思ってただけです」
「そうですか?」
非常に怪しまれているような感じで見られるがここで認めるわけにはいかない。
「それでどんな人なんですか?」
「えっと……ちょっと変わった境遇でして、ただロックさんに反抗することは絶対にありません。それに裏切る心配もありません。ただ問題なのがちょっと考えすぎてしまっているというか。疑心暗鬼になっているというか。なので今から訓練場で顔合わせさせて頂いて、けちょんけちょんにしてやってください」
「なにその人。本当に大丈夫?」
「だっ大丈夫です! ロックさんならきっと問題ありません」
リッカさんは少し慌てるようにギルドの奥へと消えていった。
なぜか不吉な感じしかないんだが。
ただ、裏切らず反抗もしないというならある程度問題はないはずだ。
訓練場はギルドの奥なのでラッキーも連れて行くことにする。
ギルドの前に一匹ずっと置いておいてなにか問題になっても困るからな。
冒険者でもいきなり斬りかかったりする奴はいないとは思うが事故あってからでは飼い主のせいになってしまう。
斬りかかった方がケガして死んでしまったら大変だ。
「ラッキーこれから訓練場でEランク冒険者と顔合わせするから腕輪に入っててくれるか」
『わかった。それが終わればご飯か?』
「あぁそうだな。ゆっくり食事でもしよう。オレンジアントたちに言葉が通じれば食事にするって伝えておいてくれ」
『あいよ』
ラッキーが腕輪の中に消えていくのを見ていた冒険者がやけに驚いていたがマジックアイテムをあまり見たことがないらしい。
この世界には変わったマジックアイテムなんていくらでもある。
まぁ街中では見る機会は少ないかも知れないが。
訓練場へ着くとまだリッカさんたちは来ていなかった。
ここでEランクをけちょんけちょんにしてやってくれと言われたが弱い者いじめとかしたくない。なんとか話し合いか軽い手合わせで終わらせたいものだ。
それにしてもけちょんけちょんなんて久しぶりに聞いた。
やっぱり年齢が……背中に何か冷たいものが走る。
余計なことは考えない方がいい。
それから待つこと数分。
リッカさんは首輪をつけた女性のエルフを連れてきてた。
「こちらがロックさんと一緒に行って頂くエルフのシャノンさんです」
その紹介は俺の予想の斜め上をいっていた。
なんだエルフって。Eランクの冒険者と言っていたので男性だと勝手に勘違いをしていた。
しかもあの首輪は奴隷がつけているものだった。だがギルド所属の奴隷なんて聞いたことがない。
「リッカさん、どういうこと?」
「はい。訳あってギルドで引き取った奴隷兼Eランク冒険者のシャノンさんです。ちょっと訳アリでしてシャノンさんの今までのご主人5人全員が不審な死や不慮の事故で亡くなっているんです。最後の主人が冒険者でギルドに借り入れがあったので現在はギルド所属ということになっています。冒険者としては十分力はあるんですが……」
「ちょっと待って、本人目の前にして失礼だけどなんでそんなに死んでるの?」
「全部偶然ですね。自然死が2件、崖からの転落が1件、中毒死が1件、魔物に襲われたのが1件です」
どれも怪しく思えるし、そうでもないようにも思える。
だが、そんなに連続してというのは運が悪いだけでは説明がつきそうにない。
「お前もどうせ私を死神だとでも思ってるんでしょ。だから私は自分より強い冒険者としか組みたくないの! リッカさんもう私を早く檻に戻して。こんなヒョロヒョロの男になんて負けるわけがないわ。やらなくても結果はわかってます。私はもう誰かが死ぬのを見るのは嫌なのよ」
シャノンがどれくらい本気で言っているのかは彼女の目から流れる涙が物語っていた。
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ラッキー「肉球ビームビビビビー」
ロックは一呼吸置いてからギルド前のラッキーに声をかけた。
俺は何も見ていない。
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