第16話 あまりにも不公平な依頼。敵にまわしてはいけないって
「こちらが今回の依頼内容になります。難易度はCからBランク相当になっていますので余裕だと思います」
リッカさんが渡してきた依頼内容にざっと目を通すとそれは明らかに狙って作られていた。
「おいっ受付C~Bだって? 随分弱気になったな。俺たちはS級だぞ。これのレベルに合わせたんだろうけど、さっさと終わらせてやるから俺らをS級だと認めるんだな」
アイザックの豹変ぶりにビックリしてしまうが色々と大丈夫だろうか。
きっと心の整理がついていないに違いない。
「そんなに余裕なのでしたら、さっさとクエストの受領のサインをお願いします」
リッカさんはいつもと同じような素敵な笑顔でアイザックにサインを促す。
でもあれは怒っている時の笑顔だった。
段々と獲物を狙うスナイパーのように見えてくる。
アイザックは依頼内容をろくに確認もせずにサインをする。
ギルドからの依頼その内容は至極簡単だった。ただ依頼内容があまりに偏りすぎている。
E級を連れて行くとかの問題の前にこれは勝負になるのだろうか。
その内容というのが1週間以内に新緑のダンジョンからオレンゴの卵、虹色トンボ、飛竜の鱗、爪、牙、新緑のエメラルドのいずれかを確保してくるというものだった。
新緑のダンジョンは正規の道をいけば歩いて2日から3日でいける距離にあるダンジョンで攻略難易度もそれほど高くない。
ただ、問題があり状態異常にしてくる敵が多かったり、道が険しかったりして冒険者としては同じくらいのダンジョンがもっと近くにあるためあまり美味しくないダンジョンだった。
ダンジョンは放置しておくと段々と魔物が増えてしまうため、今回あそこのダンジョンを指定したのは間引きの意味もあるのだろう。
今回の勝負の判断の方法としては確保してきた量や質、種類などでトータル的に見られるとのことだった。
オレンゴの卵はワニのような堅い鱗を持っているオレンゴという魔物の卵であり、上手く隙をつけばいくらでも採ってくることができる。ただ非常に凶暴で見つかるとかなりしつこく追いかけてくるので注意が必要な魔物だ。
この卵は非常に滋養強壮に効き一部の層から非常に人気が高く定番商品でもあるためいくらあっても問題はない。
虹色トンボは非常に大型のトンボでその羽は名前の通り虹色に輝き、貴族の社交場での飾り物に使われることが多く非常に人気の品だった。高速で常に移動しているため捕まえるのが難しいが捕まえてしまえば戦闘力はないため一番楽に得られる。
飛竜はワイバーンとも言われてどこも武器や防具の材料になる。
攻撃が当たれば狩ること自体には問題がない。
ただ、巣が崖の上にあり、足場の悪い場所での戦闘になることが多く攻撃を当てるのが難しい。また群れでいることが多いため複数を同時に倒す力量がないとかなり難しい。
ちなみに飛んでいるワイバーンを下から狙うこともできるが当たらない攻撃はかなり疲労がたまるためオススメはされていない。
新緑のエメラルドは魔石の一種で採れる場所が限られているためかなり貴重な品だった。
普通の魔石と効果は変わらないのだが、見た目の美しさからこれも貴族がよく好んで使う。
魔石としての価値だけではなく宝石としても使われている。
ただ問題は貴族には伝えられていないが実はこの魔石はグリーンフロッグという大きなカエルの額にあるものだった。このカエルも意外と手強く舌は一度捕まれると切らない限り離すことはなく油断をしていると毒と麻痺であっという間に動けなくなる。
これらの品はギルドでも品薄状態が続きどれもC~Bランク以上のクエストだ。
ただ、アイザックたちのパーティーには問題があった。
カラはオレンゴに昔1日中追いかけられたことがありそれ以来見るのも嫌だと言って絶対にオレンゴの巣には近づかなかった。
エミーは虫系の魔物全般が嫌いで特に虹色トンボとは相性が悪かった。毎回行く度に大事な羽の部分に魔法を当て評価額が下がったり、一度頭から齧り付かれトラウマになっていた。
アイザックは新緑のエメラルドのカエルを見ただけで完全に動けなくなる。
カエルを前にしたアイザックは剣もろくに握れなくなるため足手まといにしかならない。
つまり、このクエストはアイザックたちへの嫌がらせ以外のなにものでもないのだ。
ちなみにワイバーンは魔法耐性があり、俺が抜けたパーティーでは中間距離は魔法以外の攻撃手段が無いので狩るにはかなり難易度が上がる。
唯一ワイバーンだけチャンスはあるが、ワイバーンの巣に行くためには新緑のダンジョンを最奥まで行ってから登らなければいけないためかなり難易度が高い。
「アイザック本当にこの依頼内容でいいのか?」
一応元パーティーのよしみで確認をしてやる。
これではあまりに俺の方が有利だ。
「あん? 今さら怖気付いたのか? まぁお前が全力でやっても俺たちには勝てないってことを証明してやるいい機会だからな。こんなランクの……」
アイザックは依頼内容を確認して青ざめる。
きっとギルドの意図がわかったのだろう。
これはある意味ギルドとしての明確な意思を伝えていた。
俺たちはこの街でたった3年間でS級まで駆け上がった。
それはつまり、3年間分の俺たちの情報がギルドにはあるということだった。
どんな魔物が苦手なのか、どんな場所が嫌いなのか。行動や失敗した話、それ以外にもギルドは俺たちの情報を持っている。
これはギルドからの警告だった。
ギルドを敵に回すということの意味。
特にこのギルドはこの国の中心だった。
普段は冒険者の味方だが、同じ仲間に牙を剥くのであればギルドはあらゆる手段を使って潰しにくるということだ。
「おいっ!ふざけるな!なんだこの依頼は!?」
「なんでしょうか? 常に品薄になっている素材の収集依頼になりますが。まさか自称S級パーティー様が受けた依頼を断るとかありませんよね? まぁ別にかわりはい・く・ら・で・もいますので断って頂いてもかまいませんが。そうすれば1週間も無駄な時間を使わなくてすみますので」
「受付が勝手に言ってろ! こんなクソ依頼すぐに終わらせてきてやるよ」
「楽しみにしています」
その後細かい説明が行われた。
この勝負で俺が負けたとしても特に罰則はなしだが報酬はでるということ。
向こうのパーティーが負けた場合は今回の処罰プラスDランクからのやり直しとなること。
キッドとの処罰にだいぶ差がでてしまった感じがするが、元は同じメンバー内でのこと、そして今回が初犯であること、それにパーティーとして今までギルドへ貢献してきたことが考慮されているとのことだった。
キッドに会わなければあそこまでの暴挙に走らなかった可能性は確かにある。
だからといって許されるわけではない。
俺に負けた場合SランクからDランクまで下がってしまうというのは冒険者としてはかなりの恥となる。
大ぴらに無能だと公表されるようなものなのだから。
しばらくはこの近くのギルドでろくな仕事は回してもらえなくなるだろう。
簡単に言ってしまえば信用がなくなるので誰にでもできる仕事しかできなくなるのだ。
しばらくは薬草摘みにでもなるのじゃないだろうか。
ただ、もちろんアイザックたちが勝てばS級への残留が決まる。
ただ、その可能性はかなり低いと言わざるを得ない。
ずっと陰から見てきたが、アイザックたちだけではたどり着けても一つも採れない可能性もある。あとは街で購入するという手段もあるが……そんなことはしないと願いたい。
さて、俺の方にも問題はある。
知らない奴を連れて行かなければいけないというリスクだった。
さすがに幼馴染に裏切られたばかりでEランクとはいえ連れて行くのにはかなり抵抗がある。
Eランク程度の駆け出しであれば、何をされても負けるつもりはないが、それでも不安は残ってしまう。
「それでは、アイザックさんたちはもう出発して頂いて構いませんよ。ロックさんは今からEランクの冒険者を紹介しますのでそれから出発して頂きます。みなさんのご健闘をお祈りしています」
ちなみにこの勝負で一番利益を得るのはギルドだろう。
何気にリッカさんが一番のやり手だった。
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ラッキー「いよいよだな」
ロック「なにが?」
ラッキー「俺のEランク冒険者としてのデビュー」
ロック「それはない」
ラッキー「えっ?」
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