第9話 受験を終えて

  得点開示 (4月末)

 英語:100/150 想定の3倍以上取れた。努力は報われる。

 数学:115/150 3完2半。概ね想定通り。

 国語:83/150 おい現代文教師。何が96%だよ。

 世史:88/100 一問一答7ミスなので、おそらく論述満点。

 共テ:216/250 自己採点と一点の違いもなし。


 数学に圧縮処理を施して、合計:563/750。

 前話で予想した得点は562点。1点しか違いがない。天才かな。自分の実力を正確に測れるって大事だね。合格最低点は512点、数社でゴリ押した受験だった。

――――――――――





 作者は学歴厨だった。

 というのは、高3後半に、第一志望専願を拗らせた結果、逃げたくなった時に自分を言い聞かせる理由付けとして学歴を持ち出したのが最初だったかもしれない。


 模試の結果も振るわず、数学は停滞し、何度も受験勉強を投げ出したくなった。それを抑えるために、自分を縛り付けるために、他の大学に行ってはならないという強迫観念を作り出したのだ。その理由として冗談半分だったが持ち出したのが「第一志望校以外は大学ではない」という観念だった。


 幸いなことに、受験が終わればすぐにその呪縛からは解き放たれた。

 あぁ。めでたしめでたし。それでいいだろう。

 しかし、その観念で武装していた頃の自分の言動が、どれほど他人を傷つけたことか。いま振り返ってみて猛省した。


 作者に合った大学は、そこしかなかったかもしれない。

 だが作者ではない他人に合う大学は、人それぞれだろう。その事情を作者は知る由もないのに、冗談半分で一般化して大学ではないと決め付けた。

 なんと傲慢で、蒙いことか。


 学歴など欺瞞だ。

 学問という中身を見ずにブランドで競おうなど、鼻で笑える。


 そもそも入学難易度や就職力などで大学を比較することはナンセンスだ。大学は学術を究める場所であるわけで、入試を通過することが目的な筈がない。


 地理学、都市学を切望し、ついでに小説の書き方も学べればなぁという気概で、作者は大学を選んでいる。それは作者の勝手なのだが、どうしてだろうか、この動機が「よい就職をしたい」という人には心の奥底でどこか違和感を感じてしまう。「よい学歴を得たい」である者に対しても同様だ。


 当然ながら進学を志望する動機は多様であり、偏差値というのも一つの指標ではあるのだろう。だがやはり、入学難易度だの就職力だので大学を測ろうとする社会にはモヤモヤとする。

 好きなことがある。それに打ち込みたい。だけれども独力では一定のレベルで停滞してしまう。誰かに教えを請わなければ、これ以上は上手くなれない。



 作者は学術で大学を選んだ。

 学問は、教授に教わるのみならず、学生同士が交流し、討論し、教授と共に双方向で講義を形作ることによってのみ、進めることが出来る。

 だからこそ教授のみならず、学生の質も高いことが望ましい。そうなれば、やはり入学する学生の学力には最大値がないほうがいいのだ――よりよい人材を他の大学に攫われることのない大学――そのような所はごく僅かだ。


 東の最高峰と、西の最高峰。


 と言えば、不興を買うだろう。確かに、京大と東工・一橋との間には、入学難易度に有意な差はないかもしれない。決して東工や一橋を見下しているわけでも、中傷したいわけでもない。両校には両校の教育方針があり、修学課程があり、何よりそれぞれ独特の学問がある。それを修めに行くことを侮蔑するなど、誰に出来るだろうか。だが、東工・一橋は――これは否定しがたい事実だ。



 主題は入学難易度にはない。

 繰り返すが大学は、学問の質なのだ。

 よりよい人材を他の大学に取られないこと――地域における独占性である。




 上位層が東大のそれに匹敵する限り、学術機関としての京大の優位性は揺るがない。国からの交付金を多寡や、設備の充実性、教育力、留学枠を考えても、作者の目には二択だった。

 あとは作者のやりたいことに沿って選んだ。作者は東京一極集中が嫌いで、これをなんとか打破したい。そうなったとき、大切なのが変革の精神。自由と改革の学風。そこに至って作者は確信したのだ。ここで自分は学びたい、と。


 でもやっぱり、たまに思うことがある。


「……東大入って、チヤホヤされたかったなぁ」


 しょうもない承認欲求だが、作者とて人間だ。

 こんなエッセイも、もし『東大式勉強法』とか書けば本になったかもしれない。なんて、たまに妄想してみたり。内容は圧倒的に『京大式勉強法』なのではあるが。


 ただし、それはあくまで短絡的な欲求。

 本質的には、なんら後悔のない進路を実現できたと思っている。


 それに作者は、入ってつくづく思う。

 京大は東京一極集中によって凋落して、学力の底は抜けてしまったかもしれない。けれど、腐っても西の最高峰。ウチより上はいないのだ。様々な事情で関東へ出られない上位層がちゃんと残っている。びっくりするくらい華々しい経歴と頭脳を持つ同級生がいる。東大と張り合える天才たちは、京大に未だ健在だ。

 さて、長々と東大、京大、一橋の比較を論じた。しかし、受験生諸氏が知りたいのはそういうことではなかろう――つまり、その大学はどういう所なの?


 さて。一番受験生たちに伝えたい、大学の性格紹介は次話に譲ろう。

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専修E判定からの挑戦 占冠 愁 @toyoashi

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