統一世界

 ラスタリア王国が落ちた。

 同時に、ライ君たちが向かったユルゲンス王国、オリビア王国も落ち、これで三国がラグナ帝国軍によって落とされた。

 最初に行ったのは、王族の処刑と抵抗を続ける貴族の粛清。

 そして、国民の生活を改善すること、貴族の解体を行った。

 カディ様は、信用できる部下に国を一時的に任せ、ラグナ帝国へ帰還することに。

 当然、私も一緒。私は、ラスタリア王国の将軍を決闘で倒したことが認められた。

 ラグナ帝国への帰還時。専用の馬車まで用意されていた。

 ライ君が護衛してくれるとのことで、今は一緒に乗っている。


「ライ君、ありがとうね」

「……いきなり何?」

「私を鍛えてくれたお礼」


 ライ君は、頬杖をつきながら窓の外を見ていたけど、私のお礼に首を傾げる。


「べつに、命令だったし。というか、ラスタリア王国の将軍を一騎打ちで、しかも無傷で倒すなんてやるじゃん」

「ライ君の教えに従っただけよ。それに、ライ君やカディ様と比べたら、すっごく遅かったしね」

「ふーん……ま、よかった」

「うん。ありがとうね」


 もう一度、お礼を言うと、ライ君はフンと鼻を鳴らしてそっぽ向いた。


「そーいや、功績あげたんでしょ? 何かもらうの?」

「んー……まだわからないかな」


 功績をあげた私は、褒美をもらえることになっている。

 ライ君たちも功績をあげたことで爵位をもらえるとか言ってたっけ。


「私は女だし、爵位はもらえないわ。報奨金ってところね」

「……」

「ライ君は爵位と領地をもらうんでしょ? ふふ、もうライ君って呼べないわね」

「……別に、呼んでいいし」

「そうはいかないわ。それに、貴族になったら大変よ? 婚約者も探さないと……でも、ライ君はカッコいいから、いろんな女性が集まって大変かもね」

「…………あんたは?」

「え?」

「あんた、結婚しないの?」


 結婚、かぁ。

 カディ様にも言われたし、イカリオス隊長にも言われたっけ。

 いずれは、とも思うけど……私なんかを娶りたいって思う人、いるのかな?

 

「殿下、あんたにやる褒美のこと、いろいろ考えてると思うよ。結婚相手とかもいいんじゃない?」

「そうねぇ……」


 以前いろいろ言ってたっけ。

 クレッセント地方をくれるとか……まぁ、冗談だと思うけど。

 とりあえず、お金をもらって、できるならラグナ帝国の首都、どこでもいいから小さい家なんか欲しいな。そこで生活して、兵士として出勤して、たまの休みに町でお買い物して……。


「あのさ」

「……え?」

「あんたが望むなら、ボクのもらう領地に来る? たぶん、ユルゲンス王国の首都近郊にある領地をもらえると思う……緑も多いし、けっこう栄えてるから退屈しないよ」

「ライ君……」

「その、べつに、ボクの家に来てもいいし……」


 ライ君……優しいな。

 私の生活に保険をかけてくれてるんだ……でも。


「ありがとう。でも、ライ君はこれから忙しくなるし、私のことは気にしなくていいのよ? ライ君はずっと頑張ってきたんだし……これからは、自分の幸せをしっかり見つけて」

「…………あんた、けっこう鈍感だね」

「え?」

「なんでもない……ま、忙しいのは事実だけど。とにかく、あんたはボクの弟子なんだ、困ったことあったら最初にボクのところ来なよ」

「うん。ライ君、本当にありがとうね」

「……ん」


 ライ君は、ちょっとだけ微笑んで、再びそっぽ向いた。


 ◇◇◇◇◇◇


 大陸統一から十年後。

 それから、世界は目まぐるしく変わった。

 世界統一という偉業を達成したカディ様は皇帝に即位。国名をラグナ統一帝国と改め、領地を再分配、それぞれの地に新たな領主を置き、大陸の運営を行った。

 いろんな地域からカディ様に結婚の申し込みがあり、カディ様は正妃を五人、側室を十五人迎えたそうで、子供たちもいっぱい生まれたみたい。


 イカリオス隊長は、ラスタリア王国だった地域を任された。

 辺境伯みたいな待遇で、嫌がってたのを覚えてる。本人はカディ様の傍に仕えたかったみたいで……ふふ、でも、与えられた仕事はきっちりこなしているみたい。


 オルトロス隊長は、騎士を引退。

 領地ではなく土地をもらい、そこで畑を耕して暮らしている。

 ラグナ統一帝国のキッチンには、オルトロス隊長の育てた野菜があるとか。

 そして、奥さんをもらい、子供も生まれて幸せに暮らしているとか。


 そして、ライ君。

 ライ君は、ユルゲンス王国……今はユルゲンス領地を治める辺境伯。

 十年で身長も伸び、現在二十五歳。剣の才能だけじゃなく領地運営の才能もあったみたいで、ユルゲンス領地はとても豊からしい。

 

 そして、私ことラプンツェルは───。


 ◇◇◇◇◇◇


「公爵。手紙が届いています」

「ありがとう」


 私は、クレッセント領地を賜り、公爵位をもらった……まさか、女で、しかも十六歳で爵位をもらえるとは思わなかった。それから十年、二十六歳の私は、クレッセント地方を治める公爵として日々忙しく働いている。

 私は、執務室で受け取った手紙を見る。


「……またか」


 手紙は、私を捨てた両親から。

 結婚の世話だの、領地運営を手伝うだの書かれている。

 私は流し読みし、ゴミ箱へ捨てた。


「まったく……」


 両親は、爵位没収し平民へ格下げ。私がラグナ帝国軍に寝がえりラスタリア王国を裏切ったことを責めた後、すぐに態度を変えてすり寄ってきた。私が爵位を得たのと、クレッセント領地の領主となったことを知ったのだろう。

 どこで知ったのか、クレッセント以外の領地や鉱山なども所有していることを知ったようで、毎日しつこく手紙を寄こしたり、屋敷前で騒いだりしている。

 妹のリリアンヌは、グレンドール様と結婚して子供を産んだ。グレンドール様も爵位を没収され、平民に落ちた。今は道具屋を開店し、そこそこ繁盛しているようだ。

 この二人は、私に干渉して来ないので放っておく。今や過去の人物。もう私には関係ない。


「それにしても、結婚かぁ……」


 私も二十六。

 もう、結婚適齢期はだいぶ過ぎた。

 侍女やメイドたちは「美しき銀の女神」だの「銀の美女」とか言うけど……まぁ、子供っぽさは消えたし、体つきも以前よりふっくら……って、私は何を考えてるの。


「出会いもないし、仕事が恋人かな」

 

 ラグナ統一帝国のために、命を捧げる。

 つまり、私の結婚相手は……国。国に剣を捧げ、国のために生きる。

 それが、私の人生。

 すると、執務室のドアがノックされた。


「入って」

「失礼いたします。お客様がいらっしゃいました」

「お客……ああ、ライ君?」

「はい。ライラップス大公殿下です」


 と、執事が言いきる前に、執事の肩に手を載せライ君が。


「遊びに来た」

「もう……遊びに来れるような距離じゃないでしょ?」

「そんなことない。それより、お茶を淹れてよ。うちの領地で収穫したフルーツいっぱい持ってきたからさ、ケーキ作ってよ」

「もう……」


 ライ君は、執事に果物のバスケットを渡す。

 私はライ君のために、紅茶の支度を始めた。


 ◇◇◇◇◇◇


 バスケットを受け取った執事は退室し、ポツリと呟いた。


「お仲がよろしいようで……ふふ、結婚は近いでしょうな」


 ラプンツェルとライラップスが結婚し、子供が生まれたのは、この日から一年後のことだった。


 ─完─

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婚約者を奪われた少女は、敵国の王を守る剣となる。 さとう @satou5832

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