第5話

 リコウリッタはその後、積極的に財政改革に乗り出した。


『質素倹約』を旗印に様々な改革に着手し、地に落ちた王家の信頼を回復すべく各地を飛び回って王族のイメージアップに努めた。


 その間、バッカーノはサボりまくってた帝王学を基礎から学び直していた。


 パシーンッ!


「あうっ!」


「やり直し! 全然覚えてないじゃないですか!」


 リコウリッタは時折こうやってバッカーノの再教育の進捗状況をチェックし、捗々しくないと見るや容赦なくハリセンを振るっていた。



◇◇◇



 そんなある日のこと。


「フム、まぁまぁ及第点ってとこですかね」


 ようやくリコウリッタの満足する結果を出せて、バッカーノはホッと息を吐いた。


「そんな陛下にご褒美です! ずっと宮殿に籠ってばかりじゃ退屈でしょう? 街の様子を視察に行きましょうか! はいこれ!」


 そう言ってリコウリッタはバッカーノに紙袋を渡す。


「えっと...これは!?」


「変装グッズです!」


「変装!? なんでまたそんなことを!?」


「誰かさんのお陰で王族の印象最悪ですからね! 変装は必須です!」


「うぅ...」


 そう言われるとバッカーノは何も言えなくなる。だが...


「な、なぁ、本当にこれを着るのか...」


「当たり前じゃないですか! 今日の視察のメインは炊き出しなんですよ! 寒さも防いでくれて尚且つ動き易い! この格好がベストなんです!」


 確かに今は冬だ。外の寒さは厳しい。だからと言ってドカジャンにニッカポッカ、長靴にハチマキっていうのは、王族として有りなんだろうか...


 そう思いながらも、リコウリッタがさっさと着替えているんで仕方なくバッカーノも着替えて、炊き出し場所である貧民街を目指した。


 だがその行きの馬車の中でバッカーノは別の不満を漏らしていた。


「なぁ、炊き出しってなんか意味あるのか? そもそもちゃんと働かないから貧民街に居るしかない連中なんだろ? そんなヤツらに施しなんかしてなんになるんだ?」


 するとリコウリッタは可哀想な者を見る目でバッカーノを見やりながら、


「現地に着いても同じことが言えますかね...」


 と、それだけ言った。


 やがて辿り着いた貧民街は、街の半分以上が焼け跡になっていた。その光景にバッカーノは思わず呆然としてしまった。


「ここは元々貧民街なんかじゃなくて普通の市街地だったんですよ。大火事が起きる前まではね。ご自分のお膝元である王都で大変な災害が発生していた時に陛下、あなたは何をしてたんですか?」


 リコウリッタの声が冷たく響いた。


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