第4話

「落ち着きましたか?」


 リコウリッタが尋ねる。


「あぁ、済まない...もう大丈夫だ...」


 ここはバッカーノの執務室。ようやく涙が止まったバッカーノは、目を赤く腫らせた顔で頷いた。


 するとリコウリッタは、なにやら沢山の書類をバッカーノの前に置いた。


「では陛下、早速ですがこの書類を一週間で丸暗記して下さいね?」


「えっ!? こ、こんなに!? し、しかも一週間で!?」


「はい、一週間後に私の嫁入りを祝う舞踏会が開かれますから。各国の大使を招待しています。彼らから挨拶された時に、顔と名前が一致しないと失礼に当たりますよ? ヘタすると外交問題に発展しかねないので、頑張って覚えて下さいね?」


「い、いきなりそんなこと言われても...」


 弱音しか吐かないバッカーノにリコウリッタは「ハァ...」とため息を吐いた。


「ハカナイレーナが良く言ってましたよ。陛下は頭が良いのにサボり癖があるから、いつも成績が悪いんだって。でもやれば出来る子なんだとも」


「子ですか...」


 バッカーノは遠い目をした。


「今までサボッていた罰です。しっかり頭に叩き込んで下さいね? もし出来なかったら...」


「ら!?」


「ハリセンが叩き込まれます!」


「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ!」


 ハリセンをスイングするリコウレッタに、バッカーノは悲鳴を上げた。



◇◇◇



 そして冒頭に戻る。


 ホストとしてファーストダンスを踊ったバッカーノとリコウレッタは、立食形式の料理が並んだテーブルに来ていた。


「な、なぁ、リコウリッタ。いくらなんでもこれは質素過ぎないか!?」


「い~んですよ。ど~せ誰も料理なんて気にしませんから。踊るのに夢中ですって」


「しかし柿びーにボッキーって...駄菓子屋じゃないんだから...それに酒じゃなく果実水って...」


「ど~せ高い料理を出したって残りまくるんだから、これでい~んですって。それに踊るんだから酔っぱらう訳にゃいかんでしょ? 果実水で十分ですって。質素倹約。質素倹約。誰かさんが国庫を空にしましたからね」


「うぐ...それを言われると...」


「それにこれはこれで結構イケますよ?」


 そう言ってリコウレッタは柿びーとボッキーをムシャムシャ食べ始めた。そして果実水をグビグビ飲んだ。


「ハァッ...それはいいとして...さっから音楽隊がトチってばっかりいるんだが!?」


「あぁ、あれはオケ部ですから仕方ないですね」


「オケ部!?」


「宮殿に勤める使用人達の有志が集う部活動です。プロの音楽家を呼ぶと金が掛かりますからね。質素倹約。質素倹約」


 自業自得であるとはいえ、バッカーノは頭を抱えてしまった。

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