第3話 ストーカー退治

「こんばんは」


 制服姿の男の前で立ち止まると、俺はそう言った。男は一瞬、体をビクッとさせた。

 警戒してるな・・・・・・。

 てか、やっぱりどう見ても俺の学校の制服だよな。


「なぁ、あんた何年生?2年じゃないよな?見たことないし」


 俺はなるべく強い口調で強がるように威嚇するような低い声で男に問いかける。

 もちろん、2年生の男子生徒を全員知っているわけではない。

 面倒なことに、襟元につけることになっている、学年とクラスが分かるバッチは外されていた。

 付いてれば一発で分かったんだがな。


「・・・・・・」


 制服姿の男は何も言わない。

 俺のことを知っているのか、それともこの場をどう切り抜けようかと考えているのか。

 まぁ、どちらでもいい。そもそも、身元がわかるまで逃すつもりはない。


「なぁ、何か言えよ。ずっと、俺らの後をつけてきてたのは分かってるんだ。今更、隠し通せると思うなよ?」


 俺はさらに強い口調で威嚇する。こうやって強い口調を使うのにはもちろん理由がある。

 制服姿の男は俺と目を合わせることはない。

 さて、どうするか・・・・・・。できれば、天谷さんが戻ってくる前に終わらせたいんだけどな。

 そう思っていたら、男はポケットから何かを取り出して、口を開いた。

 

「お、お前は、天谷さんの、なんなんだよ!?」


 そう言って、俺に小型ナイフを向けてきた。

 こわっ・・・・・・。

 そんな物を持ってたのか。でも、これで正当防衛になるな。


「それを聞いたいなら、まず名乗れよ。あんた、誰?」

「い、言うわけないだろ!言ったら、人生が終わる!」

「自分が悪いことしてる自覚はあるんだな」

「お、お前だって、天谷さんに付き纏ってるだろ!」

「は?」


 もしかして、あのカフェに来てるのか?

 

「いつも、天谷さんと、話してるだろ!あのカフェで!」

「そりゃあ、話すだろ。友達だし」

「な、なんでだよ!?俺とは話してくれないのに、なんで、なんでお前とは話すんだよ!?」


 そう叫びながら、男は俺に向かって走ってくる。

 そんな短調な攻撃、俺には当たらないぞ。

 俺は華麗にその男をかわすと、お腹に一発パンチを入れた。


「ぐっ・・・・・・」


 男は手からナイフを離し、お腹を抱えて悶絶している。

 俺は男の傍にしゃがんで、制服の裏ポケットに手を入れる。


「やっぱりあった」


 そこに入れるのが、学校の決まりだった。

 俺はその男の生徒手帳を手に立ち上がった。


「3年生か。通りで知らないわけだ」


 男は3年生で、俺より1つ先輩だった。

 

「先輩。金輪際、天谷さんに近づかないって約束してくれたら、このことは秘密にしといてあげます。先輩もこんなこと学校やご両親に知られたくないでしょ?どうしますか?」


 俺は先輩を見下しながら言った。

 これで、終わってくれ・・・・・・。


「わ、分かった・・・・・・もう、近づかない。だから、このことは・・・・・・」

「約束ですからね。先輩の素性は分かりましたから、もし約束破ったら、どうなるか分かってますよね?」

「あぁ・・・・・・」

「じゃあ、これは返しときますね。それと、さっさとこの場所から立ち去ってください」


 先輩はお腹を抱えながら、ふらつく足取りでその場から去っていった。


「ふぅ〜。怖かった〜」


 いくら、武術を齧っているとはいえ、こういう状況は初めてのことだったので、俺は内心ヒヤヒヤしていた。

 だから、出来るだけ強い口調を使うことで自分を奮い立たせていた。

 うまくいったみたいでよかった・・・・・・。


「唯川さん〜」


 名前を呼ばれて振り返ると、天谷さんが笑顔で手を振っていた。

 とりあえず、これであの笑顔は守れたかな。

 俺は天谷さんの元へと向かった。


「これ、今日のお礼です」

「本当にくれるの?」

「はい。甘いもの好きですよね?」

「うん。大好物」

「ですよね!だから、これ、どうぞ!よかったら、食べてください」

「これって、高いケーキじゃん!」


 天谷さんがくれた箱には、この近くにある高級ケーキ店の名前が書いてあった。

 食べてみたいなと思いつつも、いつも前を通るだけで1度も行ったことがなかった。


「めっちゃ、ここのケーキ気になってたんだよ!」「本当ですか!?それは、よかったです」

「ありがとう!しっかりと堪能するよ」

「はい!」


 あれ?

 よく考えたらこれって、彼氏のフリする必要なくね?

 まぁいいか・・・・・・。

 あいつ以外にもいるかもしれないしな・・・・・・。

 明日の朝の集合時間と場所を決めると俺は天谷さんのマンションを後にした。

 家に帰って、早速、天谷さんからもらったケーキを食べたのだが、ほっぺたが落ちそうなくらい美味しかった。

 

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