第5話 逝く人

 この前、森綱さんと会ってから大分日が経ったけど、今日まで森綱さんとは会っていません。ハンバーガーを食べながら森綱さんは、難しいことを言いました。最近は、ずっとその事について考えています。


「力の利用の仕方に正しいも悪いもない、それは立場によって変わってくるだけ。例えば千重ちゃんは、いま何かあったら力を使って逃げるつもりで付いて来たでしょ? 千重ちゃんを助けるつもりで来た自分からしたら、千重ちゃんに力を使われるのは迷惑」


 千重ちゃんと呼ばれることは受け入れました。


「私を助けるつもりで来たなら、『何か』は起きないと思います」

「さっき頭痛を鎮めたのが、気持ちの悪い虫だったら? 私が虫を無理やり触らせようとしたら?」

「それは目的を先に話してくれれば良いと思います。頭痛が治るよって」

「信じてくれた?」


 信じなかったと思います。なので私は黙ってしまいました。代わりに思い浮かんだ疑問を森綱さんにぶつけました。


「え? じゃあ森綱さんは月を落とす事については、どう考えてるの? 悪い事だとは思ってないの?」

「月を落とす事自体は勝手にやってくれていい。私にとって問題なのは、それに千重ちゃんの力を使われること。あなたの命が削れてしまうこと」


『先輩』も『喪失者』も元は組織の人だったそうです。どちらかが病気になったせいで、月を落とすなんて頭のおかしな事を言い始め、組織から姿を消したそうです。そこまで話してくれた後、森綱さんは急に、「用事を思い出した」と言って、立ち去ってしまいました。ファーストフードのお店が前払いのシステムで良かったです。そう言えば立ち去る間際にお守りをくれました。これにも、やっぱり六葉紋が入っています。


 前回から大分日が空いてしまったのは、お祖父ちゃんが亡くなってしまったからです。優しくて厳しいお祖父ちゃん。お祖父ちゃんも「力の使い方を間違えるな」と口酸っぱく、耳にタコが出来るほど言ってました。大好きだったのに突然のお別れに頭がついて行ってません。

 大人の中には、「元気なのは見かけだけで、老人はメンエキ力が低下してるからチョットしたことですぐに死ぬ」などとコソコソ言っている奴らがいました。私はそいつらの事を思い切り睨みつけてやりました。そしたらコソコソ逃げて行きました。ザマァーみろです。


 月が落ちたら、私の寿命に関係無く私も死ぬと思うのだけど、それについて森綱さんは、どう考えているのだろう? それでも勝手に月を落とせば良いと考えているのかな?

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