DAY 67

 警備国アルターの現国王であるモワドは、ワタシの父だ。

 ワタシは少女の頃から研究したり、機械弄りに時間を費やす事が好きで、一人で機材をかき集めてはあらゆる発明を行っていた。

 自分の魔法をエネルギーとして注ぎ込み、自走型の機械を開発した時には自国の貢献の為にと様々な物を作り上げ、アルターの景色はどんどん機械混じりの姿に移り変わっていった。


 そんなきっかけもあってワタシの研究、開発は留まる事を知らず、どんどん開発の規模を大きくしてしまった。


 だから小さい頃からワタシは、国の宝だった。

 両親から大きく期待されても、それを飛び越えていくワタシの開発が、愛おしくて仕方がなかったのだろう。

 いつしかワタシは、ワタシの興味の為に機械を弄らなくなった。

 国の要望に応えて機械を作り続ける毎日に飽きたんだ。最初の頃の情熱なんて、もう一欠片も残っていなかった。

 そして、国の為に大規模な開発をしていたある日、ワタシは乾き切ってしまった自分の心に潤いをもたらす為に、時間圧縮装置の設計図を作成し始めた。


 物が物で、当然時間圧縮装置も大規模な物になっていってしまった。

 二つの大きい荷物に疲れ果てていたワタシの不注意により、アルメタン鉱石切断用のブレードを、電源を入れたまま床に置いてしまった。

 当たりどころが悪かったのか、高出力の切断ブレードは縦横無尽に暴れ始め、周囲の機械たちと、ワタシを元気付ける為に暖かい差し入れを持って背後で見守っていた母親をズタズタに切り刻んだ。

 ワタシの乾いた心は、血で潤す結果となってしまった。


 その後も立て続けに事故が多発し、父親は酷く哀しみ、その哀しみはやがて機械に向いた。

 当然開発は中止。ワタシは隔離され、国を覆っていた機械は今も剥がし続けていて、ゴミの山を築き続けている。

 

 不注意を一つしただけで、ワタシの扱いは逆転、国中にその事は伝わり、ワタシは忌み嫌われる存在となってしまった。

 人との関係が絶たれたワタシは、時間圧縮装置の開発を現実逃避の為に再開した。

 

 装置が完成すればワタシは更に知識を蓄えて、世界はワタシの存在を認めざるを得ない状況になる筈だ。


 だからこの装置は意地でも守り抜く。

 

 以前兵士がここを訪ねて来た時から、ここへやってくる頻度が増している。

 ワタシを父に会わせたいのか真意は不明だが、流石に鬱陶しい。


 今はベレスさんが帰ってくるまで、離れる訳には行かない。

「ホント⋯⋯娘の事を守れない国ですね、ここは⋯⋯」

 一息入れる為に、机に置いてあった飲み物を口にする。

 ワタシの下に倒れ伏している兵士は、早めに片付けなければいけませんね。


 面倒事を考えていると、時間圧縮装置のある方向から光と共に爆音と衝撃が発生した。

 見事にワタシの手から入れ物が離れて砕け散り、ワタシすら吹き飛ばそうとした。

 でも、危機感よりも喜びが勝っていた。

 ずっとこの時を待っていたんだ。

 後はベレスさんの安否を確認し、結果を聞けば、ワタシの人生をかけた開発は成功となる。

「ベレスさん⋯⋯!? ベレスさん! 無事ですか!?」


 柄にも無く大声をあげた。

 煙の奥からでも角のある頭の影ですぐに分かった。

 すぐに状態を確認しようとベレスさんの元に駆け寄った。

「かなり長い間帰って来ませんでしたが、一体どこでなに⋯⋯を⋯⋯」

 ベレスさんはボロボロになった、漆黒のドレスを身にまとって、静かに眠っていた。

 身体もキズだらけ、それに装置を使う前の純朴そうな表情が消えていて、凛々しい表情に変わっている。

 寝息を立てている事から、無事だとは思うけど⋯⋯。

「取り敢えず、起きるのを待ちますか⋯⋯良く頑張ってくれました、ベレスさん。後で感想、聞かせてください」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る