武闘家編

DAY 40

 ベレス達はその場で一夜を明かし、次の道のりへと身体を向けてました。


「では、ここから少し行った場所に港からあるのでそこから船に乗り、まずは私の住むアルターまで行きましょうか」

「うん。ねえ、カロン」

「なんでしょうベレスさん?」

「私、強くなりたい⋯⋯心を、もっと⋯⋯折れないくらい、強く⋯⋯」

「こう見えてワタシは武闘を学んだ経験がありますので、身体の動かし方くらいは教えられますよ。心は、旅の中で強くなっていけば良いです」

「うん、そうするよ」


 港町まで辿り着いたベレスは、カロンの手引きによって難なく船まで乗る事が出来ました。カロンの着ていた上着を着て、ベレスは足を進めます。

 途中の露店でりんごを買い、何処かへ置いてきてしまった創世録を買い直して「まあ全部ワタシが払うのですがね」と、カロンのお財布事情を不幸にさせながら船へと乗るのでした。

 そしてアルターに着くまでの間、木で作られた船室の中で揺られながら、カロンによる創世録の考察を聞かされていました。


 

「平和な世界で強くなっても、力を誇示する場所はベレスさんには一つしかありません。それは蔓延る賊に化けた魔族を倒す事です。なので第一歩を踏みしめる前に創世録の中身を噛み砕き、魔族の戦い方や思想、理念、何から何まで把握しておきましょう」

「わ、わかった⋯⋯で、このまっさらな本は?」

 ベレスは船に乗ると同時に、何も書かれていない紙の本と一本の棒をカロンに手渡されていました。

「ベレスさんは今日から出来るだけ毎日、寝る前に日記をつけて下さい。アナタが生きたという証を形にしておく為にも、強くなったという自己評価をする為にも、ね」

「そうか⋯⋯やってみる」

「では今までの所感を踏まえた考察もとい、推理をベレスさんに話しておきましょうか」

 ベッドの上で座るベレスに向けて、カロンは部屋を歩きながら口を動かし続けました。

「まず最初に、この創世録に記述されているのは、勇者が魔王を倒し、その後で造られた世界の在り方の内容です。この時代を生きている者たちは皆、創世録を通して親族から当時の話を聞き、成長していっている最中です。ですが察しの良い方は口を揃えて言うことがあるのです」

「それは⋯⋯?」

「それは、勇者は魔王を倒した後どうなったのか、という事です。創世録では、最後に居た泉に剣を投げ入れ、勇者としての役目を終えるかのように消えていった、とされています。ですが長年考察を重ねた私からすれば、これは大衆向けに作られた話です」


「どういう事だ?」

「物語的には消えた、という記述の方が神秘的で美しいでしょう。後に勇者の泉と呼ばれる程です。ですが実際消えたからには必ず理由があるはずなんですよ。例えば⋯⋯泉の真ん中で剣をその身に突き刺し、自らその一生を終えた、とかね」

「どうしてそうする必要があったんだ? 勇者は別に不幸ではなかったんだろう?」

「ええ、ベレスさんとは真逆でしょうね。ですがこの泉の一件から、勇者の姿を見た者は誰一人として居ません。だから、いつしか人々はこう言い表すようになった⋯⋯勇者様は生まれ変わりの旅を果たしに行ったのだ、と」

「生まれ変わり⋯⋯?」

「ええ。勇者の泉、またの名を生まれ変わりの泉。ここからはワタシの考察ですが、勇者は次なる役目を得る為かはたまた違う世界でも勇者であり続ける為に、生まれ変わることを選んだ⋯⋯」

「勇者であり続ける為に⋯⋯?」

「ワタシから言わせてみれば、魔王よりも謎大きは勇者ブラギです。その他にも勇者の仲間までも生まれ変わりを行なったいう話もあるようですが」

「なるほど⋯⋯読むだけじゃ出てこない答えかもしれないな」

「そういうことです⋯⋯ふむ。話しすぎましたね。少し休むとしましょうか、ベレスさん。続きはまた明日ということで」


「う、うん⋯⋯そうだな」

 そう言うと、カロンは自分の部屋へ戻っていきました。

 ベレスはそのまま机へ移動し、日記を書いて、その日を終えることにしました。


     ✳︎



 かろんからにつきをかくよおいわれたでもなにをかけはいいのわからいからかくれんしうだけしておく


 べれすべれすべれす ベレス ベレス

 ベレスベレスベレスベレスベレスベス 

 なんてわたしのなまえベレスなんたろう わすれた

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